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情報産業の今浦島とならないために

印刷のことをよく知っているだけでは、印刷の仕事を提案するにも十分ではない時代になっている。発注者からは、他のメディアやコミュニケーション手段との比較の中で印刷の機能が計られるからである。比較相手の新たな情報分野は変化が大きく速いので、視野を印刷に限っていては、印刷物の位置付けすら的確に行えなくなる。過去の印刷やマス媒体に棲む人にとっては、知らない世界がどんどん広がっているのである。

今日の日本で、Webや携帯がよく使われていることは誰でも知っているだろう。それが印刷物とどう抵触するのか考えてみよう。日本でWebのアクセスの最も多いのはYahooで、2番目はGoogle、3番目は楽天、4番はLivedoorで、これらはニュースでもよく出てくる会社だ。では5位はどこか? メッセージ交換、日記、コミュニティ作成、友人紹介機能などのソーシャルネットワークサイトMixiが喰いこんでいる。すでにAmazonやGooやniftyよりも上になってしまった。このようにWebの上位は次第にWeb登場後に始まったサービスが占める割合が多くなって、多くの新しいサイトが旧メディアの雄と互角の立場にいる。

少し前では2chが、今ではBlogやネットコミュニティが大きな影響力を持ち、特に若者にとっては旧来のマスメディアのヒエラルヒーとは違う価値観の世界が身近なものとなってしまった。その結果、企業の広報や販促においても気をつけなければならない存在となった。企業にとっては新たなメディアに持ち上げてもらえればプラスだが、今までマスコミに気を配って隠しとおせていた小さな失態も、どこで暴露されて大きな傷になるかもしれない。しかも大企業が広告出稿とからめてマスコミ相手の記者会見でお詫びして決着をつけるわけにもいかない事態である。このような例は日常的に起こっていて、通り一遍の「コンプライアンス」ではかたずかない、コミュニケーション戦略を企業は迫られている。

つまり一般消費者を相手にするならば、デジタルメディアを手がけてどんな得があるかを云々する前に、避けてとおれないものにデジタルメディアはなったのである。書籍の販売を考えてみよう。出版社を顧客にもつ印刷会社は書籍とそれに関する販促物を納品しているだろう。書籍の販売ではamazonのようなネットの書店が全国的大書店に迫る勢いである。ネットの書店での本の販促は、チラシのようにただ本の写真や宣伝文句を並べておくだけではなく、読者の感想が書き込めるようにしたり、友だちにmailで勧められるとか、自分のホームページに紹介してそれを経由で購入した人にペイバックがあるとか、横断的に書籍のテキスト検索を可能にして「立ち読み」的なことを可能にしたり、書籍を電子書籍として小額で切り売りするなど、多くのサービスを提供してネット書店での購入に結びつくようにしている。

だから出版社が自社サイトで書籍を売ろうとした時に、販促を手伝う印刷会社のすべきことは紙の印刷以外に非常に多くのことがある。もしこれらを総合して行えなければ、印刷の販促予算は削られて、どこか他の会社がWeb上のしつらえを請けおうことになる。こういうことはあらゆる商取引に共通したものになりつつある。現在はWeb制作費が下がって、労力の割りには儲からないという人もいるが、それは発注者が力点を置きたいのがWebの表現よりも、Webに盛り込む機能、Webの世界の中での連携などに移行しつつあるからである。Web制作にかかわろうとするなら、冒頭に述べた「変化が大きく速い」という点に追従できるようになっている必要がある。

では、現在何が起ころうとしているのか、を知るために、PAGE2006では、2月1日の基調講演で、コンテンツ提供側、コンテンツの管理・加工をするシステム側、利用者側(クライアント、顧客、エンドユーザ)、メディアのプロデュース側など、いろんな立場からの発表とディスカッションを用意している。

A0 基調講演 「出版とコンテンツビジネス戦略の「現在」」
コンテンツ元年と言われる現在,そのビジネスの代名詞のひとつである紙媒体,出版はどのような戦略を「現在」組み上げているのか。紙,出版をベースにしたコンテンツ資産活用の多元化と,ありうべきビジネスモデルを広い視野で考える。

A1 デジタルアーカイブ時代の情報管理
紙の出版の世界をはるかに越えた大量の情報が自動処理されようとしている。企業の資産として,地域の文化財として,また公共・国家規模のアーカイブがさまざま取り組まれている。このような大規模な情報蓄積とその利用のニーズに対して技術的にどう立ち向かっていくのかを考える。

A2 自動文書生成のフロー
構造化文書を自動編集・組版するとかWEBで発信することが行われている。さらに原稿管理や原稿チェックのシステムが構築されることで,入稿前の段階から構造的に情報を管理して,文書作成を意識しないで自動的にパブリッシュする方向もある。原稿管理から,文書構造,レイアウト構造,スキン(デザイン)までのフローを自動化という視点で検討する。

B1 顧客の考えるメディアの活用価値
製造から販売まで、一貫した情報管理により、より効率的により効果的にエンドユーザーに情報伝達を図ろうとするメーカー。製品ごとにブランド戦略を組み立て、媒体の使い分けの方法を確立しつつある。紙媒体とWebをはじめとするデジタル媒体の活用価値を問う。

B2 プロデューサーの求めるコンテンツ制作環境
Web、携帯などエンドユーザーと直結することで、情報発信やサービス選択の「主導権」がエンドユーザーに移り、ニーズはますます多様化、高度化してきた。ユーザーニーズを的確に読みとり、制作者、技術者に落とし込んでいくプロデューサーの存在がますます重要となる。では、そのプロデューサーの求める最適な制作環境とは何かを問う。

では、どういう能力が必要なのか?

従来の印刷の企画・デザインに加えて、どんな能力をどうやって身に付けるかというのが、実際の企業の競争力になる。多様なメディアを縦横に扱えるスーパーマンはいないのである。それは顧客の仕事や自社のビジネスの照準に合わせて、自分で人材育成しなければならないテーマである。ITの技術がソリューションなのではなく、問題解決のための適切な人材の確保が必須条件であることを方法としてのITと、人材のマッチングで書いた。その手がかりとして、PAGE2006では、従来からのコンファレンスにおけるデジタルメディア・トラックとあわせて、誰でも無料で参加できるクロスメディアコンファレンスを企画した。クロスメディアビジネスの時代を目指して、本格的に勉強をはじめるよい機会として、ぜひ利用していただきたい。

2006/01/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会