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東京メトロ:クロスメディアによる街中への情報発信

東京の地下鉄では「Let's Enjoy TOKYO」の文字をよく目にするようになった。Let's Enjoy TOKYOは東京メトロと広告代理店のNKBが運用しているWebサイトである。携帯電話とも連動し,東京周辺の情報を発信している。東京メトロにLet's Enjoy TOKYOの狙いを伺った。

情報メディアを多彩に活用する東京メトロ
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は,東京都区部を中心に8路線から成る地下鉄ネットワークを保有し,首都圏の鉄道ネットワークの中核を担っている。2004年に民営化され,鉄道事業だけでなく,広告やメディアビジネスを従来以上に積極的に展開している。
主な事業は鉄道の運営だが,エチカ表参道のような駅構内の店なども運営している。特殊法人から民営化したばかりのため,現在は特殊会社という位置付けである。これはJRが国鉄から民営化した直後の状態である。JRが2005年に完全民営化したとニュースがあったが,完全民営化というのは,株式を国がすべて手放すという意味である。東京メトロの株式は,現在国と東京都がすべて保有しているという状態である。
東京メトロは,Webサイトやフリーペーパーという情報発信するメディアと,駅広告や車両広告とうい広告メディアを保有している。
東京メトロのWebサイトについては,会社案内を中心に掲載する公式サイト(http://www.tokyometro.jp/)と,Let's Enjoy TOKYO(http://www.tokyometro.jp/)の2種類のWebサイトを運用している。フリーペーパーには東京メトロが発行する『Bonjour! METRO』や『TOKYO METRO NEWS』,雑誌社が編集・発行するものなどがあり,東京メトロ構内で配布している。

「おでかけ」促進のLet's Enjoy TOKYO
Let's Enjoy TOKYOは,2004年4月から開始した。一番の目的は,「東京へのおでかけ」を促進し,電車に乗る機会を増やしてもらう,という点である。トップページに東京の情報を満載し,ポータルサイト的な使い方をしてもらえるような構成になっている。
トップページの左側にはカテゴリー分けされた「おでかけIndex」がある。グルメ,ホテル,映画が現在最も強化を進めている分野だという。
「特集」では,クリスマス,バレンタインなど季節に合わせた特集記事や,メトロの情報なども掲載している。右上には広告エリアとしてバナーを掲載している。会員が外出先の情報を画像とともに投稿できる「投稿機能」もある。
東京メトロでは駅貼りポスターや中づりポスター,リーフレット,パスネットなど,自らがもつメディアを活用してLet's Enjoy TOKYOというサイトのブランドイメージを訴求している。

多彩なコンテンツ
グルメやホテル情報は,NKBが運営している「ぐるなび」と連携している。グルメ情報が充実した「ぐるなび」のコアとなる情報をLet's Enjoy TOKYOに掲載し,詳細は「ぐるなび」ホームページへ誘導している。
ホテル情報では,Let's Enjoy TOKYOから予約すると,ユーザに「ぐるなび」のクーポンを発券してお得感を出している。ホテルの紹介サイトとしては,後発なので,宿泊施設側のメリットも考え,空室の在庫管理がしやすいように宿泊施設の予約ページへ直接リンクしている。
映画情報は従来,作品宣伝に重点が置かれていた。Let's Enjoy TOKYOでは最近は好みの映画館で観るという傾向が強くなっているという点に着目し,映画情報だけでなく,映画館のお得なサービスや設備に関する情報も提供している。
地下鉄構内ではいろいろなイベントを開催し,「おでかけ」促進をしている。このイベント紹介ツールとしてもWebは適している。

目的地囲い込み型検索ツール
Let's Enjoy TOKYOは目的地囲い込み型検索ツールである。メトロ沿線の情報を発信し,目的地までの経路検索,周辺地図のサービスを提供して,「おでかけ」を誘発している。
トップページから行きたい所を選ぶと,路線案内のほかに,NAVITIME(ナビタイム)という地図検索サービスを活用して,徒歩のルート検索ができる。例えば,上野駅から目的の場所までどのように歩いていったらよいか調べることができる。
PCだけでなく携帯電話向けにもサービスを提供している。それが,ルート検索をさらに発展させた「駅QR情報サービス」である。
メトロの駅には,出口の周辺案内図,出口看板などがあるが,ここにQRコードを付けた。このQRコードは「Let's Enjoy TOKYO」のデータベースと連動している。携帯電話でQRコードを読み取れば,周辺の情報を得ることができる。例えば,大手町の出口で,朝日東海ビルへの徒歩ルートを検索すると,ナビタイムが表示され,地図にS(スタート)とG(ゴール)と赤い線で道順が示される。
携帯電話のGPSナビゲーションのサービスと近いが,Let's Enjoy TOKYOは現在の位置情報をGPSで読み込むのではない。位置情報はQRコードの中に埋め込んであり,出口看板のところから行きたいところまで,どういうルートをたどるかという形でナビゲーションをする。
PCは,自宅やオフィスで事前に情報をチェックするのに便利である。しかし,外出先でふと思い立った時,近くに何があるかを調べたい時には,携帯電話のほうが便利である。現在,実験中のため,出口看板のQRコードは8駅のみで提供されている(2005年11月現在)。利用した人の評価は比較的良い。「今後利用したい,まあ利用したい」を合わせると8割以上になる。このため,今後さらなる展開を検討中だという。

利用状況
オープン当時のLet's Enjoy TOKYOのページビューは,1日当たり10万であった。2005年10月には,月間1000万ページビューという一つの節目を突破した。
アクセス状況を見ると,土日よりも平日によく見られている。利用者は,情報収集は主に平日に行い,土日はアクティブに動くという傾向があるようだ。
Let's Enjoy Tokyoにアクセスして,本当に「おでかけ」しているのだろうか。東京メトロではアンケートで,ユーザに状況を聞いている。東京・有楽町エリアにおいて,「Let's Enjoy TOKYO」を見て出掛けたかどうかという質問に対し,2割から3割の人が「情報を見たことがおでかけにつながっている」と答えている。情報発信が「おでかけ」につながっているようだ。
Let's Enjoy Tokyoには,東京メトロでは行けないエリア情報も掲載している。東京全体の「おでかけ」が活性化すれば,鉄道業界全体のメリットも多いということで,お台場や品川エリアも含めて幅広く情報発信している。
東京の情報をポータルサイト的にこれだけ網羅しているところはほとんどない。行政が提供している情報サイトは,あまり面白くなかったり,使い勝手があまり良くない。従って,東京メトロでは,「東京のおでかけサイト」の中心になっていければ,事業性もそれに付随して高まってくると考えている。
現在,会員数もページビューも右肩上がりで増えている。
(通信&メディア研究会)


追加URL
http://www.enjoytokyo.jp/

2006/02/09 00:00:00


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