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トラブルを未然に防止するための情報活用

トラブルを起こさずスムーズに仕事を処理することはどこの会社でも望まれていることである。しかし、現実にはさまざまな要因が絡み合い必然的に起きてしまうトラブルは多い。 
 また、発生したトラブルを迅速に処理することは重要だが、同じトラブルを繰り返さないよう対策をたてることはこれからの仕事の効率化を図る上でもっと重要なことである。 ここでは、数社の印刷会社の現場責任者から伺ったトラブルが発生した後の情報の活用法や社内の仕組み作りの考え方をご紹介する。

■機械的要因を究明し刷り本を徹底チェック
 商業印刷を主力とするA社では、トラブルの要因を人的要因と機械的要因とに分けている。人的要因には見落としや記入ミスなどがあるが、一般的な注意事項の問題として処理することが多い。また人的要因でトラブルを出すオペレータはだいたい同じである。何度も同じミスを繰り返す作業者の場合には稀ではあるが担当を外すことになる。
 機械的要因には、例えばCTP出力装置の具合が悪くて文字化けの発生、刷り本の表面の油汚れ等があるが、その原因が何か、その中にどういう問題があり、発生したトラブルに対してどのような解決策を出したのか、以降同じトラブルが発生したらどう対処するかをグループ毎にミーティングをして報告書を作成し、その日のうちに必ず管理職へ報告される。トラブルを出しやすい機械と出しにくい機械があり、品質が大きく違うという。
 したがって、品質を重要視する仕事は必然的にトラブルを起こさない機械に集中する。そしてどの機械でどの仕事をするかの判断は工場長が指示する。 こうした報告書を持ち寄って、1ヶ月に1度合同会議をやる。その場では原因・対処・今後の対応・解決策を現場の職員全員で検討する。
 トラブルの内容は人的要因・機械的要因や営業指示も含めてコミュニケーションができていなかったために発生するなど多岐にわたるが単純ミスが結構多い。一言伝えるべきことを伝えなかったり、オペレータがゴミがついたのを見落としたなど、ちょっとしたコミュニケーションのミスやつまらない事がきっかけなることはよくある。 さらに、ルーペで見ないと見えないようなゴミにも得意先からクレームがつくことも稀にある。
 こうした重箱の隅をつつくような細かいことも含め得意先からのクレームを未然に防ぐために、この会社では、通常朝と夜の1日2回、印刷終了後必ず刷り上ったもの全ての原稿と刷り本を工場長を含めた現場管理職がチェックを行っている。顧客に納品される前に印刷物を全部集めて検討するため、もし不良品と判断されると時間を延ばせるものかどうかも併せて検討し、すぐに手配するよう徹底させている。今後、ISO9000を取得する予定だ。

■トラブル情報をリピートものに活用
 商業印刷とパッケージを主力とするB社では、何か異常が発生した場合に不良報告書が出ることになっている。その報告の内容は、得意先で不具合が発見された場合はクレームと呼び、社内で発見された場合は不良と呼んでいる。
 もちろん、クレームに対しては必ず回答を出す。社内で発生した不良も回答を出すが優先度としては当然に得意先からのクレームのほうが高い。 不良にもコストが発生するものとしないものがあり、コストが発生したものは優先的に問題箇所を是正して刷り直すことが短時間のうちになされなければならならい。そして、その刷り直しには是正が盛り込まれているということを前提にやることになっている。
こうしたトラブル情報が1ヵ月に1度、現場の全体会議に出される。そこではトラブルが発生したときの不良報告に対する回答が報告されることになる。
 この会社はISO9000を取得しており、是正が盛り込まれているかどうかはISO9000を取得した会社では必ずチェックしなければならないことになっている。以前は、放っておかれて同じようなトラブルが発生するということもあった。  しかし、現在では具体的にどのような是正がなされ処理されたかの確認が徹底されている。トラブルの情報が主に活かされるのはパッケージなどリピートものだ。

■3ヵ月後の効果確認でトラブル再発防止を徹底
 商業印刷を主力とするC社では、トラブルが得意先で発見された場合をクレームと呼び、社内で発見されたものを不適合と呼んでいる。不適合の中でも金額が発生すると事故としている。基本的に事故とクレームは必ず報告書を出す。
 従来は、製版のトラブルは印刷で、印刷のトラブルは後加工で、後加工のトラブルは配送でというように次の工程で発見されて表面化され、部署内からのトラブルは自分たちで処理することにより表面化されにくかった。
 しかし、ISO9000に基づきトラブル報告が徹底されたことにより、今までは表面化されにくかったトラブルも出てくるようになった。 そして月に1度の全体会議でその月に発生したトラブルについて報告され改善策を検討する。会議で報告された情報は工程スケジュールを管理する部署でパソコンに品質情報として入力される。 
 これは例えば同じような紙を使用する場合は以前にどういうトラブルが発生して原因は何であったかというような情報だ。会社によっては営業が受注伝票を入力するときに紙をキーとして過去の紙によるトラブルが検索できるように管理できるようにしているところもある。
 基本的には最新情報として一番新しく発生したトラブルを検索できるようにしておき、遡って見たいときにも確認できるようにしている。そして、トラブル情報を活かすためには、いつ誰がどういう情報をどのように入力するかという運用に関する取り決めを決めておくことが重要だ。
 この会社が一番力を入れているのは、トラブル発生の報告書が提出されると必ず事後に再発防止効果の確認をしていることだ。トラブル発生から1ヵ月後に品質管理部門が巡回しその後の状況を報告させている。そして3ヶ月経過すると再度巡回してその間トラブルが発生しなかったかを確認することにより再発防止を徹底させている。以前は野放しにされていたこともISO9000を取得したことにより確認作業が徹底された。

■オペレータ個々の能力アップが鍵
 しかし、実際にトラブル再発を防ぐためには各々の機械をいかに安定させておくかが重要である。機械の安定性は印刷機でいえば色濃度がどのくらい動いたか、汚れや裏付がどれくらいの頻度で発生したか、見当はどうか等それぞれの項目のバラツキを評価することである。
 機械の安定性がどうかを判断するために、この印刷機の品質レベルを何にするのかという項目を設定し、定期的に繰返してデータを集計し分析することにより今の品質レベルがどのくらいあるのかを評価する。
 このことは同時にオペレータの能力アップにも繋がることだ。能力アップについても定期的に勉強会を開催する会社が多い。印刷機を扱うにはオペレータの人間性やセンスが顕著に現れることがあり、トラブル報告書によく名前の出るオペレータは部署替えせざるを得ないこともある。
 目標を設定してそれを実現するための計画をたて、計画を実施し、結果を評価して結果と目標を比較して評価を行い、改善に必要となる変更点を明らかにするというサイクルを常に回せることがオペレータのスキルアップ、印刷物の品質レベルアップそしてトラブルを未然に防止することに繋がる。       (伊藤禎昭)

2006/02/23 00:00:00


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