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TV LIFEにおけるデザイン・DTP・データベースとの共存

 近年,制作工程の効率化のため,データベースを利用した印刷物製作が増加している。使用するデータ,システムとページデザインについて学習研究社の松田勝利氏にお話を伺った。

編集から見たDTP化のメリット

 雑誌をデジタル化すると,編集,デザイナーにとって進行中に印刷会社を省くことができる。
 編集者にとっては,完成型にかなり近いものをデザイナーと組んで作ることができるというメリットがある。それを画面上で簡単に見ることができ,出力もできる。
 編集側として,最初に色,フォント,データ形式等について事前に調整しておけば,本を作るというプロセスにおいて,印刷会社とのやりとりを省略することになる。

 これはプロセスが単純化されたのではなく,印刷会社が行っていたことを編集とデザインが吸収してしまったわけであり,その労力は二者に振り分けられた形となる。
 特にデータがページ毎にデジタル化されたという点で,経費と時間の節約を計算できる。
 しかしその反面,印刷会社が行っていた仕事を,どこまで編集側が吸収するのかという点では,問題が多く含まれる。特に校正段階においては,三者の調整を綿密に線引きしておく必要がある。

TV番組表

 TV情報誌の扱う「番組表」とその解説は,一般的な雑誌と異なり,膨大であり多くの情報は一部を変更して流用を繰り返す類のデータの集まりである。その理由は,ある番組を同系列で放送する場合,内容が同じでも放送する局は地域によって異なるからである。
 これらのデータは「繰り返し」の要素が多く含まれている。したがって,データベース化をしてデータを登録させて必要に応じて抽出して,使用するという形に落とし込むことができる。

 しかし,データベース化したものをDTPとリンクさせて,「印刷会社を省き時間と経費を節約する」という恩恵を,すぐに享受できるわけではない。むしろ,同じデジタルデータでありながら,両者はかなり異なる言語・文化を操るヘテロジニアスな関係(異機種間接続)に近いものである。

 そこで従来のTV LIFEでは,テキストベースのデータベースとバッチ処理を使った文字組版をペアにして,デジタルデータを印刷会社と組んで処理をしてきた。
 印刷会社とペアを組むことでメリットもあるが,編集とデザイナーの距離が開き,誌面デザインの自由度を奪われがちになる。データの性質上,仕方がないとしても編集として,誌面作りのしにくい関係に苦しむことになるのである。

データベースと連動したDTP

 TV LIFEでは,あえてDTPも取り込めるデータベース作りを目指すことにした。DTPがデータベースと連動できるのであれば,編集にデザインの自由度を取り戻すことができるからである。
 従来のシステムでは,デザインの変更は印刷(製版)側のシステムに対し,再プログラムに近く変更に時間がかかるばかりでなく費用もかかり,何よりデザイナーが意図していることが反映しにくいというのが問題であった。

 DTPシステムが編集部内にあれば,微調整は逐次できるようになり,印刷側に依存する要素を減らすことができる。TV LIFEでは番組表や番組解説を100%DTP化して完全内製化している。これにより,デザインに関しては印刷(製版)側に全く依存しないシステムになっている。
 データベースとDTPが連動しているソフトはいくつかあるが,TV LIFEでは方正の自動組版システムFITを採用した。このソフトはいくつかの情報誌で採用されている実績があり,今回我々が描くシステムにある程度近いものであった。その理由は,FITには任意の文字ボックス対し,任意のデータベースのフィールドと連動が図りやすい仕様が既に組み込まれていた点にある。

 また,DTPソフトなので,WYSIWYGが実現され,タグ形式テキストの入力方法を撤廃できる。流し込まれたテキストデータが一方的ではなくリンクされているので,データベース情報が更新されるとDTPファイルに対しても連絡が行われるという双方向性がある。

登録した日がデザインとして使用できる日

 データベース型DTPを使用する場合,デザインはどうしても後手になってしまうのが通例であった。しかし,TV LIFEでは,できるだけデザインの汎用性を保っておきたいため,デザインのベース(パターン)を非常に多く作っておき,これをデータベースに登録するシステムを構築した。
 TV LIFEのデータベースシステムは,膨大なTV番組情報を管理する「テキスト情報データベース」だけではなく,多くのデザイン情報も管理する「デザイン情報データベース」を持っている。

 これにより,デザインベースを変更させ,それをデザイン情報データベースに更新させれば,作成されるページは新しいデザインに更新される。
 印刷会社と編集側がバッチプログラムを組んで,自動流し込みを行っていた従来の番組表制作システムでは,デザイン変更の登録作業は僅かな変更にも大きな労力と時間,費用がかかっていた。

 これは,具体的にはデザイナーが作ったデザインをシステムの特性のために妥協するということである。つまりデザイン変更に対する費用対効果が著しく悪く,微細な変更はあきらめるという悪循環に陥るのである。これがデザイナー,編集にとって非常なストレスになってきた。
 TV LIFEのシステムでは,'登録した日がデザインとして使用できる日'となっている。微細な変更は瞬時に改良ができ,当然,経費も削減される。

まとめ

 すべてをデジタル化するDTP作業は,多くの雑誌,編集部で主流になりつつある。しかし,TV情報誌のように扱うデータが膨大でデータベース化した方が有利な情報を扱うとなると,単純ではなかったのも事実である。
 旧システムでは,テキスト型のデータベースらしきものが存在しているだけで,それが自由の利かないデザイン環境で行うしかなく,しかも大量の校正紙をファクスで印刷会社と何度もやり取りするというものであった。

 データをすべて更新し,新しいデータベースに統一して,そこにデザインも含め,従来の編集者が悩んでいた問題を解決させること,内製化を徹底させて時間と経費を節約させること,それらを解決するために方正と学研が協力してシステムを1年かけて組み上げた。
 しかし,どのようなシステムもそれを扱う人次第である。TV LIFEのスタッフも,従来の慣れた環境からの移行のため,新たな学習を強いたわけである。編集部のスタッフ全員に浸透させるには,開発に等しく簡単,容易ではなかった。

 '新しい葡萄酒は新しい革袋に詰めよ'
 システムよりそこで動く人材,共に新しく変わらなければ優れたシステムも価値が見出せない。デジタルになっても最後に必要なものはやはり'人'である。
 これらを見据えた上で,さらなる次のステップ,生まれたデータをどう活用していくのか,TV LIFEという紙メディアを超えた'新しい革袋'を睨んだデータベースの余地をシステムに拡張していくことを考えている。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2006/02/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会