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「JDF対応」MISの基本的要件と課題

将来的なJDF対応を視野に入れながら基幹システムの置き換えを検討している中堅印刷会社が増えている。思案のポイントはJDF対応MISパッケージを導入するか、(従来どおり)自社開発でいくかであろう。
汎用のMISパッケージを導入すれば、おのずと標準化の方向で業務プロセスは見直されるし、JDFを介した生産設備との接続も安心して任せられる。このような利点を決して否定するわけではないが、本セッションではあえて自社開発の方向でのMISのJDF対応について考えてみた。MS-OfficeでさえもXML対応している今日、JDF対応をXMLを使ったデータ交換と考えればさほど敷居は高くないのではないかという仮説を立ててみた。

まず、JAGATの花房よりJDFの基礎仕様について説明を行った。
JDFでは印刷物の仕様(部品構成)と製造工程を階層構造で表現する(図1)。

階層は、製品仕様を表す'Product nodes'、プリプレスや印刷といった工程単位を表す'Process group nodes'、そしてプリプレス工程でいえば、色変換・トラッピング・面付け・RIP処理といった個々の作業単位を表す'Process nodes'という三層構造になっている。図は頁物の印刷物の仕事の例で、表紙と本文があり、本文にはカラーページとモノクロページがあるという想定である。図中の番号では(1)が本全体、(2)が表紙、(3)が本文を表している。(2)(3)のように横方向に部品展開をし、部品それぞれに対する工程、さらには作業が下の階層に紐付けられている(各番号の意味合いの詳細は図2を参照のこと)。

なお、(17)は製本作業を表しており、(1)本全体と直接紐付けられている。製本は表紙と本文といった部品全体を束ねる作業となるので、個々の部品に対してではなく本全体と結び付けられることとなる。カバーや帯、さらには二つ折り貼り込みといったさまざまな付物がある複雑な印刷物であっても、'Product nodes'で部品展開を定義し、その下に工程や作業を定義していくことで表現できるし、工程や作業は個別の部品に対して定義してもよいし、印刷物全体あるいはいくつかの部品をまとめて定義してもよいので非常に柔軟に対応できる。
また、印刷には穴あけ、ミシン、型抜き、箔押し、光沢加工といったさまざまな付加加工がある。従来の受注管理のシステムでは、例えば'穴あけ'の有無をチェックする入力項目はあっても、それが冊子全体に対してなのか、冊子に挟み込む申込書に対してなのかまでは関知しないし、穴あけの位置、形状や間隔などについては備考に書き込むか見本添付といった形をとるケースがほとんどである。備考や見本は人間にしか理解できないが、JDFでは、これらの情報をコンピュータ(生産設備のコントローラ)が理解できる形で表現することができる。これは生産を自動化するCIM(Computer Integrated Manufacturing)実現の前提条件となる。システムの実装や運用(誰が入力できるのか)においては、まだまだ未知数の部分が大きいが、JDFそのもの潜在能力としては非常に大きいといえる。

オリーブの地代所氏からは、'PrintSapiens'のJDF対応を中心にお話を伺った。PrintSapiensをJDFの階層構造に対応させるために新たに「小工程」という区分を設けたという(図3)。

従来は、営業が見積積算をする単位で作業や工程日程を管理していた。例えば、印刷の作業指示でいえば「菊全4/4、通し数5000の仕事が4台」、そして日程管理でいえば、入稿予定日と納期があって、そこから逆算して製本予定日、印刷予定日、下版予定日という単位である。印刷予定であれば「4台」の仕事それぞれの予定を細かく指定するようなことはなく、すべての印刷が完了しないといけない予定日を決めておくだけで、印刷機ごとの具体的な予定はある意味現場任せという運用になる。
しかしながら、JDFによる作業指示を行う場合には作業単位での指示となる。先ほどの4台の印刷の仕事であれば、1台1台にばらして個別に作業指示(JDF)を発行することになる。平台印刷機で片面ずつ印刷する場合には、表面印刷の作業指示と裏面印刷の作業指示とを分けて行うことになる。
一見煩雑さが増すように見えるが、これによりプリプレス工程とのダイナミックな工程連携が可能となる。印刷機のオペレータは、コントローラ(例:CP2000【ハイデルベルグ】)の画面に表示されたJobリストから、次に印刷する仕事を選ぶだけで、自動的にCIP3/PPFデータが読み込まれインキキーのプリセットが行われるという運用ができる。このようなことができるのは、JDFによりRIP処理/CTP出力のJobと印刷Jobとが関連づけられているからである。今後は、ポストプレスとの工程連携も実現されてくるだろう。
また、経営管理面でいえば、作業単位で標準作業時間(標準工数)を設定することが大事だという。JDFでは生産装置から作業単位で実績を収拾することができる。この収拾した実績時間と標準時間を比較することで問題点の把握、改善につなげたり、より精緻な原価管理が行えるようになり、経営判断に役立てることができる。
また、JDF導入のユーザ事例として大阪の東和印刷(株)事例が紹介された。2005年5月よりMIS(PrintSapiens)と印刷機(SM102-8P+CP2000)の接続の実運用を開始し、作業指示および日報を全てPrintSapiensとCP2000の接続にて行いペーパーレスを実現している。紙の予定表で運用していたときは、予定変更時に工場まで行ってオペレータに伝えたり、工場のスケジュールを張り替えたりしていたが、JDF化してからは工場へ足を運ぶ必要がなくなり、オンラインでの運用が可能となった。本社と工場の間を片道5分かけて毎日10往復程度していたものが一日3往復程度に減った(約70分/日の削減)という。また、JDFによる正確な実績情報の収集は、オペレータの監視が目的ではなく自己啓発や作業効率化につなげるためだという意識改革を進めることが大事だという。同社ではJDFの導入に備えて社内標準原価の見直しを行うとともに、今後は正確で詳細な実績情報をもとに定期的に標準原価をメンテナンスしていくとのこと。そのためにも全ての工程のJDF化を目指していきたいという。

地代所氏の話を受けてのひとつの結論としては、最終的には単なるデータ変換によるJDF対応ではなく本格的にJDF対応したMISの導入が必要となりそうだ。ただし、MISのJDF対応は簡単ではなく、JDFのバージョンアップへの対応も含めて開発負荷はかなり大きいといえる。したがって、今後日本でJDF対応MISパッケージが次々と販売されるとは考えにくい。ユーザ(印刷会社)にとってJDF対応MISパッケージの選択肢の少なさ、多様性のなさはJDFそのものの普及を拒みかねない。
この課題に対してのひとつの方向性として、JAGATより製造業の業務管理の3層システムモデルの紹介をした(図4)。

これは、受注管理、販売管理、原価管理といった主としてお金に関わる管理を行う「業務システム」と工程計画、作業指示、進捗・実績管理などの生産系の管理を行う「生産実行システム」、そしてプリプレス機器や印刷機、加工機などをコントロールする「制御システム」の3層に機能分化して、それぞれが密にコミュニケーションをとりあうことでトータルな業務管理を実現しようというものである。現状のJDF対応MISは「業務システム」と「生産実行システム」の機能をあわせ持ち、プリプレスメーカや印刷機メーカの個々の「制御システム」と個別に情報(JDF/JMF)をやりとりしているので非常に開発負荷が高くなることになる。
これまで印刷業界ではJDF対応の「生産実行システム」は存在しなかったが、PAGE2006において世界に先駆けてハイデルベルグ社から「Prinect Workflow Integrator」という製品が発表された(参考出品)。

ハイデルベルグ・ジャパンの本田氏から、この「Prinect Workflow Integrator」についてお話を伺った。「Prinect Workflow Integrator」はCIP4/JDFベースの印刷工程統合システムで、プリプレス、プレス、ポストプレスの全ての工程を統合管理できる。従来のJDFワークフローでは、MISとA社プリプレスコントローラ、MISとB社印刷機コントローラ、MISとC社印刷機コントローラというように、MISが各工程・各メーカのコントローラと個別にJDF/JMFをやりとりしていた。MISと各社のコントローラとは通信の仕方についても複数のやり方があるうえ、仕様やスケジュールに変更があったときには、すでに発行した作業指示(Jobの状況)と整合性をとりながら各工程のコントローラに再度作業指示を送る必要がありMISに非常に負荷がかかっていた。
Prinect Workflow Integratorは、MISと各種コントローラの中間に位置し、コントローラへの作業指示や進捗管理を一元的に行う(図5)。

MISは直接コントローラとやり取りする必要がなくなり負荷が軽減されることとなる。また、他社のJDF対応製品も接続できる点とJDF未対応製品とのインタフェース(Prinect Data Terminal)が用意されている点が大きな特徴となっている。
そして、ワークフローの定義や作業の進捗状況の確認は「Prinect Cockpit」で行う(図6)。

図は縦方向に部品展開、横方向に工程が表現されており、表紙、本文1、本文2という部品からなる冊子の仕事の例である。プリプレスと印刷、断裁、折りまでは部品単位で進行していって、製本のところで部品がひとつに組み立てられるという工程がひと目でわかるようになっている。実はこの図は図1で表したJDFの階層構造を表したものに他ならない。中くらいの箱が'Processy group nodes(中工程)'を表していて、その中のひとつひとつのアイコンが'Process nodes(個々の作業)'にあたる。このように前後の工程や部品単位での進捗状況をひと目で確認できることで、ワークフロー全体の中でのボトルネックが発見でき、最適化に向けた改善が期待できる。

まとめとしては、JDF導入を経営管理に役立てるという意味ではJDF対応のMISシステムの導入が必要となるであろう。また、MISの負荷を軽減させる業務管理システム3層モデルの「生産実行システム」にあたる製品が登場してきたことにより、すぐには基幹系のシステムを入れ替えられない印刷会社やJDF未対応のMISベンダーも最低限のJDF対応で、JDFワークフローのメリットを享受できる道筋が見えてきた。
来年のPAGE2007では「生産実行システム」を導入した3層モデルの事例を紹介できることを期待したい。

2006/02/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会