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全体最適を目指すネットワーク化

Page2006のMIS/CIMトラックのセッションE3「全体最適を目指すネットワーク化」では、現時点でJDF対応ではないが,デジタルネットワークを活かして業務効率化,利益向上等に成果を上げている3社の事例を紹介した。

株ソ風(http://www.vanfu.co.jp)は、新技術導入を先駆的に取り入れながら新しいビジネスモデル構築を続けている企業である。同社は多様な製品の小ロットの仕事に対して、短納期(24時間)、品質を「保障」、かつ透明な価格提示をビジネスのコアとし、そのコアを強化するIT戦略を展開している。そして、仕事の流れの透明化、情報共有、統合・ネットワーク化、JDF対応は時代の流れであるとの基本認識を持っている。

MISとしては、受注時点の処理・管理、進捗管理システムを重要視して開発・運用してきている。印刷のプロではない個人、会社を顧客として多く抱え、小ロットの仕事を大量に集め、しかも短納期を保障するためには当然のことである。
ネットワーク環境としては、100Mbpsの光回線で社内各箇所(都内14店舗、竹橋プリンティングセンター、八戸センター)を結ぶ高速社内LANを形成、協力会社、代理店とは、ネットワークやシステムを共有する印刷受注システム「Print Cube」を設置し100Mbpsの光回線で直結している。

見積もりについては、さまざまケースでの見積もりが簡単にできるように、Vest, V-Line, Print-in, Web 年賀、WebPrint Xpressなどを開発・運用してきたが、2005年12月には、3Dで製品仕様をわかりやすく表示し見積もりを行う3D印刷見積もりシステム「Quote3」を開発、公開した。
3Dも斬新だが、製品仕様を入力するといくつかの手順計画ぞれぞれで売値をシミュレーションし、そこから統一基準に合致した売価を選択して見積もり金額として提示する仕組みに注目すべきである。同社の見積もりシステムに関する基本コンセプトである「どのような見積もりでも10分以内でできるようにする」ことを実現するためである。当然、誰が見積もっても同じ仕様の製品であれば同じ見積もり金額が提示される。既定の仕様以外の製品の場合は営業マンが個別に対応する。印刷業界でありがちな、全てのケースで対応できなければ意味が無いとは考えていない。

今後のデジタルネットワーク化については、変化が激しいことを前提とし「誰でもが容易に扱える」ことを重視したシステム構築をしていく。したがって、各種のモジュールを作り、それをJDFでつなげていく形で進めていくが、JDF対応を含めて自社開発で臨むという。

紅屋オフセット梶ihttp://www.beniya-print.co.jp/)は、同業者からの印刷の仕事を中心に展開しながら高収益を継続している企業である。ネットワーク時代の到来をいちはやく予想し、1995年から現在に至るシステムの構築を始めた。
同社がシステムを開発するきっかけは、営業マンの事務処理時間が非常に多いことと、各営業員によって見積もりの値段が違うという状況を改善することであった。標準化を図り、新入社員でも作成できる見積もりシステムにして事務作業の能率を上げることを目標に見積もり受注管理システムを開発した。帆風と同じ問題意識からの出発である。結果として、見積時間は5分〜10分で完了できるようになり営業マンの大幅削減ができた。

ここで注目すべきことは、「見積もりの標準化はできない」あるいは営業マンが見積もりに多大の時間を費やしている状況を問題と感じない、という印刷業界の常識を打破していることである。同社の基本姿勢のひとつに、「常識を超える超常識」というものがある。常識に外れたことをやるということではなく、常識に縛られず、常に改善、前進していこうという姿勢である。同社では、上記の見積受注システム開発以降、下記のように次々と新しいシステムを開発・稼動させているが、それらは「常識を超える超常識」という姿勢があればこそできたものである。

平成10年4月 見積受注システム本格稼動
平成10年7月 機械取システム稼動
平成12年5月 APL(自動面付け指示ソフト)発表
平成13年5月 配送管理システム(EDI)稼動
平成14年4月 外注発注システム(EDI)稼動
平成15年1月 bpWEB稼動
平成16年1月 大日程プログラム稼動
平成17年8月 Webエントリー稼動(WEB機械取依頼システム)

例えば、機械取システムやAPL(自動面付け指示ソフト)は、「工務のベテランでなければできないからコンピュータ化できない」という業界の常識を打破したものである。経営的な視点としては、間接業務にベテランの社員が張り付いていなければならないようではこれからの経営環境で十分な利益を出すことは難しくなるという認識がある。

システム構築の視点は、○○管理の精度を上げるというものではなく、例えば社内外のコミュニケーションを如何に改善するか、あるいはコンピュータのシミュレーション機能を有効に生かすというものである。
たとえば、配送管理システムは、営業マンが個別、バラバラに依頼していた運送会社への配送を、受注No、出発時間、納品時間を入力するとコンピュータが出発点と納品場所を全て「シミュレーション」して、同じ方向で同じ時間帯で納品物があるものを自動的にグループ化、一括配送依頼をするものである。
このようなことは、どんなベテランの工務でも現実的にはできないことであり、コンピュータならではの機能をうまく使った好例である。データの運送会社へ自動配信、ネットでのデータ交換(EDI)、請求書作成の機能も盛り込んでいる。
同社では、年間35000件の納品物件があるが、新しいシステムの稼動によって、売上に対する年間配送費比率を約7%から約4%にまで削減した。

ここでは、上記の外注発注システム等の内容説明を省くが、同社のシステム開発で見習うべき点を整理すると以下のようになるだろう。

1. ステップアップ
見積もりからはじめて、順次、機能(ネットワーク)を拡大していく。これはネットワーク化の基本原則である。
2. コンピュータの働かせ方を考える
コンピュータでできることはできるだけコンピュータにやらせ、人間が判断すべきことは人間の判断にゆだねる仕組みにしている。印刷業界の多くの人の意識は、往々にして「ゼロか百か」なので、結局、コンピュータの能力を十分に活用したシステム作りができないでいる。
3. 客観的、論理的な問題意識
「営業マンによって同じ品物の見積もり金額が異なる」ことは、印刷業界で当たり前だが、一般常識から見て問題であると意識して改善した。また、間接業務に熟練者を当てなければならないとする印刷業界の常識も、本来は違うはずだとして業界の常識をうち破るシステムを開発した。

いずれにしても、「常識を超える超常識」という基本姿勢が貫けない企業では、同社と同じシステムを導入しようとしても、上記2,3の点で導入できない、あるいは導入しても活用できないのではないだろうか?

潟^カヨシ(http://www.takayoshi.co.jp/)は、明確な事業展開コンセプトを持って常に新たなチャレンジを続けている中堅企業である。
同社のシステムの特徴は、過去からの蓄積情報の有効利用やコミュニケーション・情報共有機能を充実させ、さまざまな合理化を図るとともに社内の活性化を図っていることである。

顧客とのコミュニケーション機能としては、Webによる受発注システムを使った再販物の発注時に、顧客が製品の詳細情報や在庫状況を確認した上で発注できる機能を持たせている。また、統合システムと物流システムとの連携によって、発送情報を顧客からの問い合わせや情報提供に活用している。
顧客とのネットワークによる情報交換では、先方の環境に合わせたシステム運用が重要である。同社では、納品明細等の情報を、ある得意先に対しては、同社の統合システムからデータを抽出してNoteDBを作成、それを顧客のNotesサーバーへ送信する一方、別の顧客には自動処理システムから直接FAXあるいはメールで情報を提供している。
過去の蓄積情報の有効活用、情報共有としては、過去に発生したクレームをデータベース化し、生産指示書を発行するときにその内容を記載して作業者の注意を促し、再発防止に使うという仕組みを作って運用している。

また、顧客からの声として、クレームだけではなく褒めてもらったことも社員全員で共有できるようにしたり、部門別、個人別の売上やキャッシュフロー計算書もウエッブ上で公開している。社内でのコミュニケーション機能でユニークなのは「ニコニコページ」である。社員間での相互の感謝の気持ちを掲載したwebページである。いずれも社員の意識向上、活性化が目的である。

セッションの中で、日本のMISの後進性が指摘された。欧米のMISでは、ITを活用したさまざまな機能(標準資料に基づくシミュレーション、蓄積情報や日々現場から上がってくるデータの有効活用、各種情報の共有など)が盛り込まれているが、日本のMISでは相変わらず、販売管理、原価管理など、○○管理という視点でのみから考えられているケースが大半である。したがって、コンピュータの使い方は、計算と伝票発行に使われている。
しかし、印刷業界の経営管理へのコンピュータ利用は30年ほど前から始まり、現在では各種○○管理に使うことは当たり前になっている。また、MISベンダーが提供してくれるさまざまなアプリケーションは相当にこなれたものになっている。したがって、これからMISを作り変えるときに○○管理の内容を変更したり精度を上げるだけのグレードアップでは、大きな改善は期待できないだろう。MISへの投資ニーズ、金額蛾少ないのも当然だろう。
デジタルネットワーク化を目指すMIS構築については、○○管理のみの視点からITをどのように活用するかという視点を重視することが不可欠である。

2006/02/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会