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「工務業務」の自動化に向けてのシミュレーション

これからの印刷業の製造業としての大きなテーマは、生産の自動化いわゆるCIM(Computer Integrated Manufacturing)の実現であろう。後押しする背景としては、デジタル化・ネットワーク化の進展とJDFの出現がある。JDFは製品仕様、作業指示あるいは作業実績の情報を交換するための標準フォーマットであり、工程やメーカーの垣根を超えて情報交換ができる。しかし、JDFが最適な工程設計をしてくれるわけではなく、誰かが決めた「作業指示」を伝えるだけである。JDFは'全体最適'とペアで語られることが多いが、JDFを導入すれば勝手に全体最適されるわけではない。完全なCIMを実現するには、人間が行っている「判断」をシステム化する必要がある。

現在、製造現場の司令塔を「工務」が担っている。まずは「工務」が普段の仕事でどんな判断をしているのか、その内容を洗い出すことが「判断」のシステム化への第一歩と考えた。こうして担当者個人のノウハウであったものを会社全体のナレッジにしていくことが、本当に自動化の環境が整ったときに勝者となる条件ではないか。
以上のような仮説をもとにセッションは展開された。

まず、JAGAT花房より「工務」の判断業務の整理・分析結果の報告および今後、求められるシステム像について話をした。
JAGATでは工務自動化の第一歩として自社の「標準製造手順」を作成する研究会を立ち上げた。商印系の印刷会社3社が参加し、2005年7月から10月まで活動した。
印刷機の機械取りの自動化を具体的なテーマとし、製品仕様からの自動判断がどこまで可能かを議論した。自動化の手法としては、

  1. 基本的な製品仕様(部数/サイズ/色数)ごとの自社の標準製造手順(印刷工程以降)を明確にする。
  2. 標準的な製造手順が取れない場合の制約条件を明らかにする。
  3. 制約条件が製品仕様のなかで表現できるかどうかを検討し、製品仕様から読み取れる場合は、それを標準製造手順にフィードバックする。
社内生産における制約条件は、品質、材料、加工内容に分類できる。例えば、品質でいえば5色刷り以上は枚葉機(輪転不可)で印刷する、品質要求が高いものは枚葉機で印刷するといった類であるし、材料でいえばユポやタック紙などの特殊紙は枚葉機(輪転不可)で印刷する、あるいは四六判135kg以上の厚紙は枚葉機で印刷するといった類である。
これらの制約条件を製品仕様と結びつけることができれば、製造設計の判断の自動化に大きく近づくことができる。また、半裁or全判、平台or輪転といった印刷機選定の標準手順を策定するためにコストシミュレーションを行う。これは標準工数×時間単価(アワーコスト)を印刷機ごとに算出し、比較することによって行なう。
これらの要素を組み込んだ理想的なシステム像はこのようなものとなる。

これを受け町田印刷(株)並木氏より、印刷会社の工務の自動化について現状説明と実現要件についてお話を伺った。
町田印刷は埼玉県戸田市に本社を置き、商業印刷を中心とした従業員約250名の中堅の印刷会社である。同社では、1980年代後半にオフコンを導入し基幹業務のシステム化を行い、90年代後半にはダウンサイジングとLANの導入によりパソコンベースのネットワークシステムへ移行。2005年よりクライアント/サーバ型の汎用パッケージを導入している。
工務自動化の現況としては、進行管理、プリプレス以降の各種作業手配、協力会社管理、資材管理という個々の単位ではほぼシステム化されている。しかし、ネットワーク通信による他システムや他社システムとの処理の連携やCTPや印刷機等の生産機器との連携については一部を除いてほとんど手つかずの状態である。また、自動化といってもあくまでも人的判断の下に入力し処理されており、コンピュータが状況を判断し、各種作業を管理するところまでは至っていない。
一方で、取引先や社内からの要求事項としては、(1)EDIによる受発注、電子決済、(2)Webによる受注(発注)内容の確認、(3)インターネット通信による原稿や印刷データの受渡し、(4)作業進捗状況(納品に至るまで)の確認の効率化、(5)各種作業指示の効率化といったものがある。いずれもインターネットとコンピュータ処理がベースとなるものである。

印刷会社がこうした方向に向かうためには、(1)ネットワークによるシステム及び機器の連携、(2)情報共有、(3)印刷関連事務作業の自動化が必要となる。これらを行ううえで重要となるのは、現状のやり方の踏襲ではなく作業内容や作業フローの見直し・変更である。システム整備と作業内容・フローの見直しの両者が噛み合うことにより作業効率アップとコストダウンが図れる。
工務業務の効率化については、印刷会社はこれまでもトライし続けてきた。当社で実現できたものとしては、印刷工場の稼動実績収集と分析・活用、印刷工程と刷版工程の作業予定共有、印刷工程と出荷の作業予定共有、作業指示と関連帳票作成の自動化などがある。一方で、実現できていないこととしては、見積の完全自動作成、自動スケジューリング、工程間の(自動)作業管理、(自動)品質管理などがある。その原因としては、仕様変更やそれに伴う作業内容やスケジュールの変更が多いこと、作業予定が実作業開始に至るまで確定しないこと(前工程により変動)、金額確定要件が生産終了に至るまで不明確なこと、製造工程が全て自社内で完結できないこと、製造や品質に関わる標準化が必ずしも確立されていないことがあげられる。
これらの原因は、いずれも克服が困難であることは周知の事実といえるが、いっそうの時間短縮、高効率な作業、低コスト化が求められている中、避けて通ることはできない。
また、システム開発のポイントとしては、(1)早期実現_機会損失を防ぐ、(2)すべての処理(機能)を開発する必要はない_パッケージソフトの有効活用、開発能力よりもシステムインテグレートの能力が重要、(3)自社の業態に見合ったシステムコンセプトの明確化の3点があげられる。
印刷会社のCIM(特に工務の自動化)の理想形態としては以下のような図で表現できる。

最後に(株)トークの山本氏より従来の印刷会社の課題の確認と解決に向けた具体例をご紹介いただいた。
まず、工務業務の自動化の阻害要因を整理してみたい。クライアント/営業/工務/製造現場という立場ごとの役割・要望・課題を以下にあげる。

そして、クライアント/営業/工務/製造現場の間で、無数の照会/依頼・指示/変更のやり取りがなされている。コミュニケーションの媒体は、仕様書や指示書といった紙を使ったり、あるいは電話やFAXを使ったり電子メールを使ったりとさまざまである。情報が行き交うなかで誤解や思い込みによるミスやロスが多々発生している。つまりコミュニケーションにボトルネックがあるといえる。
解決の方向としては、まずはWebを利用した情報共有のインフラ整備が必須といえる。進捗状況については誰でもWebで確認できることが望ましい。次に工務業務の自動化に向けてはナレッジシステムの構築が必要だと考えている。ナレッジとは、個人的な経験則である「暗黙知」を客観的なデータからなる「形式知」に変換することであり、システムを使いこなしてデータを蓄積するほど、適切な製造指示の可能性が一段と高まっていくようなシステムが求められる。
現状の印刷会社を野球に例えると監督役の工務がいて、プレーヤーである製造現場はあるが、結果を分析するスコアラーがいない状態といえる。スコアラーが結果を分析・評価したうえで、製造履歴データを蓄積していくことでナレッジデータベースが構築できるのではないか。工務業務の自動化実現に向けたナレッジシステムの概要は以下のような図で表現できる。

このような開発思想をもとに渕上システムズと共同開発中のシステム「PRINSER」の紹介をした。工程の自動化で生産性アップ(スピード化)、コストダウン(利益向上)に寄与し、さらにレスポンス向上により顧客満足度アップに貢献できるシステムにしていきたいとのこと。

2006/02/22 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会