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出版社における雑誌制作内製化の実際

国内の出版社において雑誌の編集制作を内製化しているケースは多くない。DTPによるデジタル化が普及したとは言え,多くの編集者にとっては専門的な知識やスキルを要求されることが多く,敷居が高いという側面がある。テキスト&グラフィックス研究会では,角川書店で,「東京Walker」シリーズ,「ザ・テレビジョン」など雑誌の編集制作を内製化した経緯について,同社編集制作デジタル化推進室マネージャーの南八重啓一氏と大蔵基保氏に話を伺った。

InDesignによるDTP内製化の背景

第1に,出版市場の変化が挙げられる。ここ数年の間に,インターネットやモバイルなど速いスピードで情報を得ることができるようになり,情報誌全般の価値が低下した。出版社にとっても販売部数として大きく影響が出ている状況である。したがって,可能な限り新鮮な情報を掲載し,誌面の価値を高めるという必要性が高くなった。同時に,さらなるコスト低減や合理化が要求されるようになり,社内の制作体制・組織の見直し,システム導入が急務となった。
第2に,DTP環境が大きく変化したことが挙げられる。数年前からDTP環境について模索していたが,Mac OS9とQuarkXPressの組合せは,オペレータに対し専門的な知識を要求するものであった。スキルやモチベーションも含めて,編集者自身で行うには敷居が高いものであった。しかし,InDesignを検討し,プラグインソフトを導入することで,Windows上での編集者によるDTP制作の可能性が見えてきた。
この改革により制作工程の効率化だけではなく,副次的なメリットも考えている。編集ページ制作を内製化することは,制作データすべての著作権を版元であるわれわれが保持することでもある。増刊,ムックへの二次利用などの際に素早い対応ができる。また,Web・モバイル情報の速報性に対し,紙ベースでの情報伝達には限界がある。情報誌がすべてなくなることはないが,これまで以上の速報性が望まれる状況である。さらに,角川グループ内のコンテンツデータの共有化も目指している。

台割管理システムと画像管理システム

以前よりDTP内製化の土台となるシステムを構築してきた。まず,ページの流用情報を安全に効率よく共有,使用するための台割管理システムを導入した。これは雑誌の設計図に当たる台割表制作ツールとして,部品を限定することにより自動的に台割を制作し,修正できるものである。
ページ種別として,編集ページ,ADページ,自社稿ページ,タイアップページ等のページ認識も付けられる。社内では,編集,印刷所との窓口となる制作部,紙や印刷所への発注窓口となる生産管理部で使用している。
編集で編集台割を作ると,広告部門では自動的に広告台割として利用可能となる。例えば,トヨタの何々が入っている,資生堂の何々が入っているという銘柄まで確認できる。ページ内容と広告内容の取り合わせなどもチェックできる。
社外向けには,印刷所に台割速報として情報を提供している。Excelファイルとして最新情報を便で送っている。

また,デジタル画像をフル活用するための画像管理システムを導入した。従来は,カメラマンがフィルムを現像所に入れ,その上がりを待つという時間が必要であった。また,画像データの補正機能も搭載し,社内のカメラマン,社外のフリーカメラマンも利用できるようにした。進行中の雑誌での利用,制作完了後の保存,今後の使用が予想されるデジタルカメラ登場前の取り置きポジの保存も兼ねている。

プラグインソフトを活用した編集作業

(1)合番による自動流し込み機能
プラグインソフトによる自動組版システムを導入した。これは定型・非定型レイアウトにかかわらず自動的に合番を振るという機能である。その合番に則って,ライターや編集者が文章を何字何行で書くと,一発で自動流し込みができる。
従来は,流し込みを行った後,テキストエディタに戻り文字訂正,校閲校正をおこなっていた。情報誌の場合は情報訂正がたいへん多く,そのたびに赤字入れし修正を行っていた。
新しい方式では,編集者自身がInDesignのデザイン画面上で直しができるため,情報訂正や追加の無駄がなく,最後に一括で処理できる形を取っている。
また,テキスト途中に改行コードの一括削除,半角記号類を全角へと自動変換,ルビ文字の挿入,OpenTypeの異体字への変換や外字への変換も,流し込み時に一括しておこなわれるようになっている。
さらに,テキスト流し込みを実行すると,テキストフレームにすべてのテキストが納まらず,文字あふれが発生する場合がある。あふれているフレームに関しては,フレームの色が変わって警告される。

(2)画像の自動修正
編集者が校了としたデータであっても,画像が適切になっていないことがある。たとえば,画像サイズが2倍程度でRGBとなっていることもあった。当初は制作管理部門で,それを修正したが,画像自動修正機能を開発した。
画像をクリックすると,極端な縮小やRGB画像などデータの不具合を検出する。自動修正ボタンを押すと,Photoshopが起動する。各々の画像に対してサイズ,解像度,ファイル形式,カラーモード等,適正なものに自動修正する。
さらに,印刷会社に渡す際の制作側で最終チェックとして画像自動チェックをおこなっている。

このようなプラグインを作ることにより,少ない人数で月間数百ページ単位を処理するところまで来ることができた。

DTP内製化の効果

編集者の労働時間を削減することができた。最初に取り組んだコンテンツステーションという部署では,時間外労働を半分から1/3程度まで削減することができた。
また,編集者自身が進行も含めて自分でハンドリングしており,原稿待ちがなくなった。今までは待ち時間を言い訳に入稿や校了が遅れることがあったが,ほとんどなくなった。スケジュール管理面で,非常によい状況になっている。

現状として,北海道から九州まで8つある「Walker」と,首都圏の女性情報誌の「ChouChou(シュシュ)」で,各号20ページから最大70ページ程度をデータ制作し,完全データとして入稿する形になった。
また,CDやDVDリリースページは,全国どこでも発売日が同じなので,今まで8つの「Walker」それぞれ作っていたものを,全国ネットで流せるような情報ページをまとめるコンテンツステーションという部署を作った。一部,映画の上映や部分的に地方のコンサート情報などを直すことも含めて取り扱っている。現在は1号あたり延べ170ページ程度を処理している。

週刊「ザ・テレビジョン」も共通折りと14版あるので,版分けの刷り分けページも含め約50ページを内部DTPで行っている。将来は刷り分け部分も含め展開していきたいと考えている。「Walker」で掲載しているロードショー情報,上映スケジュールのページもXML機能を使用して自動組版のテストをしている段階である。

JAGAT info 2006.2より転載

2006/02/24 00:00:00


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