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ゲームソフトと印刷物の「微妙」な関係

◆軸原 一彰

「RGBからCMYKへ,仕様書から取扱説明書へ,企画書からキャッチコピーへの掛け橋」――私は(株)セガが販売する家庭用ゲームソフトのパッケージ&マニュアル制作を担当する部署に所属しています。そして自分の役割はエディター,文章制作と編集を兼ねた業務です。では「なぜ,エディターがこの資格を?」となるわけですが,私の職場を紹介しながら説明していきましょう。

●ゲーム会社の「印刷物部隊」
ゲームソフトを世に送り出すために必要な印刷物制作,各メーカーによってそのワークフローは異なりますが,自分たちの場合はマーケティングセクションの一部として社内で制作を行っています。
イントラネットでメールとデータをやり取りし,わが部署のMacを除いてほとんどがWindowsで動いています。相手がWindowsでこちらはMac,そして扱うのが印刷物となれば,PDFです。色みや解像度をチェックする段階までいけば出力品や色校正が登場しますが,それまではPDFが活躍する日々です。
そういった業務の中で重要なのが,ほとんどの他部署の人たちが「ゲームに関する知識はあるが,印刷に関しては詳しくない」ということ。それ故に自分たちの部署が存在し,頼られているということ。印刷物に関しては全幅の信頼を受け,それにこたえなければならないわけです。「チラシって今から作ってパッケージに入れられる?」と聞かれたら,スケジュール・コスト・紙の斤量・素材データなどを考えてすぐに回答します。これは例えば営業担当の方がDTPエキスパートを受験する動機にも通ずるでしょう。信頼を得るには知識と裏付けが必要なわけです。

●デジタルからアナログへ
……と言うと時代に逆行しているようですが,結局はあらゆるデジタル素材を紙というアナログ媒体に落とし込む仕事をしているわけです。
開発部門から支給されるイラスト類のデータはRGBとCMYKが混在しています。当然すべてCMYKに変換し,開発部門のイメージを損なわないよう調整します。
また,ゲームソフトという商品で考えると,物としてはディスクに過ぎません。盤面を眺めて「これは面白そうだ!」とは感じてもらえないので,自分たちが作るパッケージがお客様の最後の購入動機となります。これはマーケティング部門や開発部門と検討を重ねて,キャッチコピーやデザインを決定します。こうして考えると,自分たちはゲームソフトという料理を食器やテーブルセッティングでおいしそうに見せる係,とも言えるでしょう。

●紙はいつまで使うのだろう?
ゲームソフトは商品自体がデジタルなので,詳しくはゲーム内チュートリアルで説明するという方向性が強くなってきています。また,オンラインゲームの場合は,取説内容をWeb上に掲載し,PDFマニュアルのダウンロードも行っています。特にダウンロード販売のみの場合は,商品販売時に一切紙媒体は使用しません。こういった現状を見ると,ペーパーレスの足音は確実に近づいていると言えるでしょう。「紙にしがみついてると失業しちゃう?」という危機感も生まれそうなものですが,実は自分はそれほど心配していません。そう簡単には社会生活から紙は姿を消さない,という楽観視もあります。ただ,自分は文章を書くことを生業にしていることもあり,媒体が変わっても結局はサービスを提供する自分自身の能力に自信をもち努力を怠らなければ大丈夫と考えています。その上で最新技術や業界に関する知識を日ごろからアップデートしていけばよいのではないでしょうか?

●遊ぶのも,仕事
「遊び」を提供する仕事ですから,職場でもゲームで盛り上がったりします。作り手側が楽しさを分かっていないと良い物を作れるはずがありません。「何遊んでるんだ!」と怒られそうですが,皆さんも少し手を休めて自分たちが扱っている印刷物を眺めてみてください。そこにやりがいや安らぎ,そしてビジネスのヒントが眠っているかもしれませんよ?

 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2006年3月号


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2006/03/05 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会