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広色域印刷の色再現と取り組み

2006年2月2日PAGE2006コンファレンスで開催されたグラフィックストラックの「広色域印刷の技術とターゲット」では,千葉大学 矢口博久氏,恒陽社 相場和明氏,大日本インキ化学工業 森原康博氏,大丸グラフィックス 中島弘稀氏に広色域印刷の技術と色再現,取り組みについてお話を伺った。



 高品質デジタルカメラ,Adobe RGBデータの流通,インクジェットプリンタなど,従来のプロセスカラー4色印刷の色域を超えるデジタルカラーが広がっている。オフセット印刷においても,6〜7色インキを使用して色再現領域を拡大する手法が注目されている。これらは,CTPや印刷条件標準化の普及により,実用性が一段と進化している。これらの技術と色再現,取り組みについて探っていった。

■人間の色弁別と印刷の色再現

 最終的に印刷物でも,それを見るのは人間なので、人間がどれくらい色の差の違いがわかるかは非常に重要なことである。広色域印刷の利点を考えると、読んで字のごとく色域が広い。画像ディスプレイなどでは、色域が広いと今までに表現できなかったような色域まで表現できるということで、例えば広告の媒体に使うときにメリットになる。
 また、今までどうしても原理的に再現できない色まで再現するとなると、あるオリジナル画像を再現するとき、より忠実な色再現、より本物に近いところまで色域を伸ばした色再現になる。

 従来,CMYの3色あるいはCMYKの4色を使っていたが、もう1つ異なる色材、インクや塗料を使うことによって、でき上がった印刷物の分光反射率の形状をいろいろ変化させるための自由度が増える。
 専門的には、普通の画像の色再現を測色的色再現と呼んでいる。色というのは基本的には3つの数字で表すことができる。これは人間の目の錐体という光センサが3種類あるためである。
 ところが、印刷物は分光反射率分布が物理的な特性になり、分光反射率分布のカーブはいろいろある。それを人間が見るとカーブが異なっても、同じ色に見えることがある。これを条件等色と呼んでいる。

 条件等色の状態では、印刷物がある照明の下では同じ色に見えても、異なる照明の下で見ると今度は違う色に見える。例えば、蛍光灯の下で見て同じ色に見えていた色のペアが、電球の部屋に入ったら違う色に見える。その理由は、蛍光灯の下でのみ人間の色を見る錐体が吸収している光が3つとも同じであったからである。ところが、照明が変わってしまうと、3つのバランスが崩れて違う色に見える。
 ところが、インクを増やして、色域を広げるためにCMYの他に例えばオレンジのインクを使えば、それだけ分光反射率を自由に変えることができるようになる。そうすると、今までよりも照明に依存しないような印刷の可能性が出てくる。これは分光的色再現と言う。例えば美術品、絵画等の芸術作品を、本物となるべく同じような分光反射率に持っていくような印刷の仕方にも結びつくのである。

 色域が広がったと表現するが、色域を考える場合どのような色の空間で広がったかということを認識することが必要である。色空間はいろいろあり,光の空間というのは物理的な色空間である。
 また、最終的に我々が色を見たときの、見えと呼んでいるが、感覚量としての色空間がある。いろいろな色空間があるが、その空間の中でどのくらい色の差が離れたら、人間は識別することができるのかということを認識することは、非常に重要である。

■広色域印刷マルチシックス

 広色域印刷で色数を増やすといっても、どのような色を増やすかということを検討したが、色数を増やせば、モニタで見たもの、デジタルカメラで撮影したものがそのまま再現できるのではないかと考えたのが始まりである。
 広色域印刷にはいろいろな方式がある。代表的なところはヘキサクロームや6色印刷、HIFIカラーがあるが、恒陽社が取り組もうとしているのは、色域を広げるというのも第一であるが、商業ベースに乗らなければならない。

 一般の4色を刷っている最中に、特色をもう一度ローラーを回して、さらに全部入れ替えるのか、終わったらまたプロセスインキに直すのかという問題がある。すべての印刷が6色印刷ならよいが、4色で行う仕事もある。そういう中で効率よくするためにはどうしたらよいのだろうか。
 そこで考えたのが、プロセス4色を使い、さらに蛍光の入っている特色2色を使って、それで色域を広げることである。そうすることで、仕事の入れ替えの時間ロスをなくしたいということである。

 さらに、色域を広げるという意味で、彩度、明度を上げていきたい。4色だけでも色域を広げたいので、通常のAMスクリーンではなく、全色FMスクリーンを取り入れている。今は、輪転では25ミクロン、平台では20ミクロンのFMスクリーンを使っている。プロセスも特色も全部FMスクリーンで、より見栄えとして色域を高めていこうと取り組んでいる。
 印刷順序も、なるべくインキを入れ替えることがないように考えている。他の印刷方式の6色、7色インキは、恒陽社とは違う印刷順序だと思う。印刷順序は、プロセス4色はそのまま活かした墨、藍、赤、黄の順番であり、その後に特色2色を付け足す方式である。

 インキも、4色乗せた後にトラッピング等、影響がいろいろ出てくるので、それらも考慮しながら、インキメーカーと改良を加えて、なるべく影響を受けないような特色を作り運用している。したがって現在、普通に4色を運用している設備や環境にほんの少しプラスアルファして、マルチシックスという印刷方式を採用している。

■ダイキュア・シックスカラー・システム

 ダイキュア・シックスカラー・システムは、大日本インキ化学工業が提供する新開発のUV6色プロセスインキ、20ミクロン相当FMスクリーン、6色印刷に必要なノウハウをシステム化した印刷ソリューションである。
 通常の4色プロセス印刷の場合、CMYKのインキを固定してその掛け合わせで色を再現していく。それに対して、ダイキュア・シックスカラー・システムではCMYK+オレンジ、グリーンのインキ色を固定して、6色の掛け合わせで色を再現していくシステムである。

 オレンジを付加することによって、マゼンタの色域の一部をカバーできるので、マゼンタインキを敢えて少し青みに振っている。これにより、ブルーの領域の色再現域を確保するようインキを設計してきた。
 ダイキュア・シックスカラー・システムのメリットは、色再現域の拡大による品質の差別化ということで、今までの4色印刷では再現できなかった色が出せる。例えば高品位な写真が再現できたり、CG画像を代表とするRGB画像のより忠実な再現が可能になっている。

 色再現域の拡大による生産性の向上という面では、特色を6色に置き換えられるため、特色の調色や色替えが削減できる。また、6色で特色を代替えしていくため、逆に今まで6色機では物理的に1回の印刷で6色の特色は刷れるが、このシステムでは無限大に掛け合わせを作成することができる。
 また、耐光性を付与したUVインキにより、幅広い原反への対応を図っている。厚紙、薄紙、合成紙のユポやPET、PPなど紙以外の原反に対しても6色での印刷が可能になる。したがって、印刷に高付加価値を付けることができる。

 さらに,ダイキュア・シックスカラー・システム立ち上げへの対応では、印刷会社への構築支援がある。従来、CMS構築支援サービスということで、実践DIC-CMSを行ってきたが、そのサポート部隊を使ってダイキュア・シックスカラー・システム立ち上げへの対応を行っている。

■広色域印刷への組り組み

 大丸グラフィックスでは現在、スーパーファインカラー(SFC)印刷に力を入れているが、以前からHIFIカラー印刷やヘキサクローム印刷を行っている。10年ほどマルチカラー系に取り組んでおり,それ以外にも高機能化を図っている。
 現在メインで行っているのは、SFCである。これも同様にRGBデータからのセパレーションで、SFC専用インキがある。厳密に言うと、色数の定義はない。5色以上で色域拡大をする印刷を総称してSFCと言っているようである。

 カラーマネジメントの技術が確立して、プロファイルという概念が一般的になった。RGBというデータ入稿が認知されるようになった。標準にどのように印刷するか、そういったカラーマネジメントの技術が確立し、ようやくハンドリングできる背景があって、このような新世代のマルチカラー印刷が出てきたのではないだろうか。
 この後に必要になるのが印刷の標準値である。その標準値に客観的に色が一致しているか、本当に標準値を使っているかということが重要になってくる。

 ワンパスの印刷をしなければならない。イメージコントロールとして、測色してフィードバックする繰り返しである。標準値が入っているので、標準値に一致したときに印刷を開始する。
 このように、コントロールとフィードバックが自動で行われるのが現実的ではないだろうか。スキャンヘッドが動いて測色し、結果をインキの増減、インキキーの開閉量に置き換えてフィードバックするのが現実的と考えている。
 プロファイルを標準印刷状態で再現する。変換に使ったプロファイルを再現するには、プロファイルを作成するときに印刷したチャートの印刷条件を再現しなければならない。そうした4色で日常的に行われているプロファイル、カラーマネジメント技術が基礎にある。

 また、日頃の十分なメンテナンスを心がけてもらいたい。きちんと爪を交換したりしていないと、7版もあると見当精度が非常に困難である。セパレーションの問題もあるが、4色以上かかって白抜き等になると辛いものがある。ただし、日頃きちんと4色をカラーマネジメントして印刷していれば、設備的なものは大体持っているのではないだろうか。こういうものがあれば、決して難しい技術ではない。
 RGBのフローは確立しておいた方がよい。RGBからでないと基本的には色域が増大しないので、RGBデータを日頃から入稿して、それを自社内でプロファイルを使ってCMYKに変換しているというハンドリングは必要である。

 色物と言われないように瞬間的によい色ではなく、これを生産技術として確立するということが必要である。そうでないと、マルチカラー全体の評判を下げてしまうことになる。それには日頃の4色をきちんと行っていれば、マルチカラーでも問題なくできるのではないだろうか。

■関連ミーティング

2006/03/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会