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イギリスの印刷会社に見る原点回帰とデジタル印刷(その1)

イギリスでロンドン周辺4社と、マンチェスター周辺4社、計8社の印刷会社を2006年3月上旬に訪問する機会を得た。1社はデジタル印刷専業、残りはオフセット+デジタル印刷であるが、高度な技術やセキュリティが伴うOne to One(1:1)やデータプリントなどの業者でなく、普通の印刷で元気な企業を選定した。

■デジタル印刷とオフセットの分岐点
分岐点はほとんどないと言える。デジタル印刷とオフセット印刷の使い分けは納期と部数というところが多かった。品質面ではHP Indigo press 5000になってからはコート紙系用紙だと、印刷オペレータでもオフセットと区別することがほとんどできないレベルに達していて、初期モデル(E-Print1000)を知っているユーザは「オフセットを一緒に使えることに改めて驚いている」(ProCo print社)という。

コスト面では訪問したすべての印刷会社はクリックチャージ(1通し単位の使用料でブランケットや感光体の交換料も含む)という課金方式で、ランニングコストを支払っていた。 Bezier社のIndigoは特色用途を中心に、200万通し/色/月と大量使用されているので、チャージも大幅にディスカウントされるようだ。さらにIndigoはインキを混色して特色が作れて、この場合は課金が1色分で済むのでラベルやPOP用途では掛け合わせで色を出すよりも大幅にコストダウンできるという。

L&S Printing社ではオフセットかデジタル印刷かは納期によって区分している。例えば、納期が4日後であればオフで印刷し、1日であれば特急料金が取れるのでIndigoを使用する。コスト的には500部ならオフセットのほうが安くなるが、1日納期のような急ぎの時にはオフセットは使いたくない。

Colour Quest社では、印刷のみのペラであれば1500部が分岐点であるが、製本までを考えると500部以下はデジタル印刷を使うという。理由はデジタル印刷なら折りや丁合いはデータで行い、ページバリアブルで出力するのでコストメリットがあるからだという。また、小部数で繰り返し発注されるものは、デジタル印刷のほうがロット間の色の変化が少ないとしている。

ProCo print社はデジタル印刷をきっかけに売り上げを倍増させ、CTP化も果たした。デジタル化によって活性化した典型的な印刷会社である。Indigo5000が「オフセットと区別なく使える品質であった」ことが寄与して、現在ではどんな注文でも4日で納品できる体制を整え、CTP出力でもデータ入稿50分後に刷版を出力することを目指した生産のスピードアップ化が進んでいた。今では、営業がデジタル印刷にするかオフセットにするかは、納期とコストメリットだけで選択している。

Charlesworths社では科学雑誌や医学関係雑誌などの一部が200〜300部と小部数のニッチ分野のためにデジタル印刷を使用していた。

■後加工設備は充実
デジタル印刷専業である1st Byte社でも、ロンドン市内の自社工場内に後加工機としてハイデル凸版機(抜き加工用途)、中綴じ製本機、ラミネータ、ルーズリーフ用穴あけ機などを揃えておりこれが成功の秘訣であるという。 Herts & Essex Printer社やColour Quest社など、印刷会社の多くがハイデルのプラテンやシリンダープレスなどの凸版印刷機を抜き加工などに使用しているなど、後加工が非常に重視されている。

■デジタル印刷のキモは徹底デジタル化
デジタルのメリットを最大限に生かしていることも印象的で、CTPでは真似のできないような徹底的なデジタル化を追及できるのがデジタル印刷の特徴である。

(1)デジタル面付け、デジタル丁合い
ProCo print社ではデジタル化による変革は3つのフェーズに分けて進めている。第1フェーズは社内教育で、8カ月ほど掛けて、デジタル印刷にするとどんなに良いのかを社員に説いた。古い頭のままだと、印刷は大きく刷って・折って・丁合いしてとなるが、デジタル印刷は「デジタルで面付け・丁合い」となるので、出力サイズはA3で良いことなど、古い印刷の常識を変えるための教育を行った。

(2)デジタル在庫
Blackburns社には大きな倉庫スペースがあり約50社の顧客の印刷物在庫を保管しているが、現在は保管料金がほとんどもらえない。そこで「無料で在庫します、納品は48時間後です」と言っておいて現物は在庫せず、注文があるとデジタルデータから印刷して納品するようにして、大量の在庫スペースを削減しようとしている。このためにもデジタル印刷は有効であるという。

ProCo print社も加工工程のバックヤードに大きな預かり在庫のスペースを持っている。ここもデジタル在庫化して預かり在庫スペースの削減を考えている。

(3)再版はWebから自動受注
ProCo print社では再版は顧客向けに無料でカスタマイズしたWebサイトからの自動受注ができるようにして、さらに顧客にプリントマネジメント提案をしている。

Blackburns社では再版注文は顧客用に無料でカスタマイズしたWebサイトから発注してもらうようにしていて、現在は再販の80%はWeb受注になり営業が動かない仕組みを作り上げた。

(4)データプリント(1:1やバリアブル印刷)
L&S Printing社がデジタル印刷を選択した理由は、受注が小ロット化してきたので、初めはB3オフセット導入を検討したが、受注していた年金運用の書類作成を、1:1でカラー化したいという要望であり、将来的にはデータ印刷への可能性があるということで、デジタル印刷を選定した。年商を10〜15%ずつ伸ばしていきたいと計画したので可能性の大きなデジタル印刷が選択肢となった。

CTP設備もあるが、どんどん短くなる納期に対応するためにも、デジタル印刷が最適であるという。従来の印刷会社では2000部以下では受注してくれないが、500部でも受注できることも同社の営業力になっている。 ProCo print社ではこれからハードルの高い、DMなどバリアブル印刷への取り組みを始めるという。

■デジタル印刷で全社をデジタル化
Blackburns社はCTP化せず、デジタル印刷によってデジタル化を成功させた印刷会社である。近年の印刷受注の減少に伴って、最近の売上構成はデジタル印刷が好調で40%まで伸びてきたが、オフセット印刷は逆に30%まで落ち込んでいる。設備は、Indigoのオペレータは出力データの準備から印刷作業、機械のメンテまでのすべてを行っていたが、オフセット印刷との品質差がほとんどないため利益が出る生産機として活躍している。

会社の全体的な利益率は5%程度なのに対して、デジタル印刷部門は30〜40%の利益が残せる。理由の一つにどんなに小部数でも最低価格2万円を設定していることもあり、小さい仕事を効率よく集めると収益が上がるようになったので、4月からはWeb受注システムを開始するという。

その2はこちら

(レポート:JAGAT 相馬謙一)

2006/04/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会