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品質が向上した再生紙とFSC認証紙との共存をどう考えるか

印刷会社が取り組まなければならない環境問題はたくさんある。再生紙もその中の一つであり印刷物の製造上注意すべき点もある。 最近はFSC(Forest Stewardship Council)認証紙も注目されており印刷会社にとっては再生紙との使用用途をいかに選別するかも考えなければならない。

■製造技術が向上した再生紙
 再生紙とは、一度「紙」(板紙も含む)として使用され、回収された古紙を配合した、いわゆる古紙入りの紙を言う。古紙パルプ100%はもちろん5%だけ含んでいても再生紙と言われている。
 印刷用紙の中で環境に配慮した紙ということを明記するエコマークがある。以前はエコマークを付けられる基準は古紙パルプ含有率50%以上であったが今は70%以上である。
古紙パルプは、市中から古紙を回収し四角いキューブ状にされて製紙メーカーに入り、離解・除塵(じょじん)・脱墨・漂白という工程を経て製造される。古紙パルプの使用目的に応じて設備の選定、薬品の量や薬品の種類を変えることによって白色度、チリなどの最終的なパルプ品質を決定している。
 バージンパルプ100%の紙まではいかないが、古紙パルプ製造工程技術の向上により、品質上それに近い再生紙の製造ができるようになった。これは除塵の工程の中でクリーナー、スクリーンの機械的な改良が行われ異物を取る技術も進歩したこと、界面活性剤を始め薬品の改良も行われ繊維の細かいところのインキを取り除くことができるようになったことによる。さらに、回収の際に選別をされてきたこともあり、世間が分別の意識をもっていることも大きい。

■印刷作業上の注意事例
 このように再生紙の品質も向上したが、印刷する時に注意を要しなければならない点もある。 単価が安い仕事が多い印刷会社にとって、高回転の印刷機をいかに止めないかは大きな問題だ。また、機械が止まると印刷が安定せずその分オペレータの負担になってしまう。できるだけ止めない条件を設定してやらなければならない。
・高性能検査装置利用の課題
 オフ輪の場合高速回転でわずかな汚れも感知する高性能検査装置がある。除塵・脱墨が向上したとはいえゼロになったわけではなく小さな汚れが付いている再生紙もある。検査装置の感度を少し甘くしてしまうと見逃してはならないものを見逃して致命的なことが起こる可能性もある。このジレンマにあえぐ印刷会社もあるようだ。
・長期在庫には注意が必要
 再生紙に印刷すると顧客から色調が前回と違うと指摘されることもある。再生紙は上質紙に比べ退色しやすい。使用する古紙パルプにもよるが、特に新聞古紙は退色成分が入っている機械パルプを多く含むので、退色しやすい傾向にある。
 製紙メーカーでは製造段階で紙の色の管理基準を設けている。製造後すぐ使用されれば問題ないが、長期間経過したものの場合は退色している可能性がある。そこでトラブルが発生する。なるべく在庫期間の短いものに印刷するほうがいい。
・細かい網点の印刷
 FMスクリーンや高精細印刷の場合、インキの膜厚が少ないためブラン上のインキのタックが上がり引っ張られやすいため、どの紙でもいいというわけにはいかない。印刷会社としては個別に製紙メーカーの意見を参考に対処することが望ましい。
・モアレのようなムラ
 再生紙に2色の平網を印刷するとモアレのようなものが出ることもまれにある。抄紙機の特性にもよるが、古紙パルプが多いと繊維が全体的に均一になりにくい傾向があり、これがムラの一因になっていると考えられる。
・少なくなった乾燥不良トラブル
 乾燥不良は印刷現場オペレータが注意しているので、最近はトラブルの事例は少なくなったようだ。
インキの乾燥時間は紙によって違う。古紙パルプが多くなると紙表面強度が弱くなるので、強度を維持するために薬品を多く使うことが多く、インキの吸収性が悪くなり乾燥しにくくなることがある。乾燥不良によるトラブルを防ぐため、印刷会社によっては印刷後に乾燥が遅いと表示したり、刷り上ったら何時間後までは動かしてはいけないなどの決まりを作っているところもある。
 また、印刷指示書にコートやアートなどしか表示していない印刷会社が多いが、製紙メーカー名と銘柄も明記したほうがよい。個々の用紙には特性がありそれぞれの特性を把握すればオペレータは同じ失敗を繰り返さないだろう。これは乾燥不良の問題だけではない。
・コミュニケーションをいかに取るか
 再生紙への印刷の問題点は他にも細かい部分での指摘がある。 再生紙にも多くの種類があるため、場合によっては印刷会社が古紙の特性や印刷適性などを製紙メーカーと情報交換し、かつ顧客に対して十分に説明することが大切である。こうしたコミュニケーションを取ることがトラブルやクレームを減少させるためには必要なことだ。

■FSC認証紙と再生紙との関係
 古紙パルプを原料として利用することは廃棄物の削減、木材資源の節約となるので、今後も積極的に推進していくべきだが、一方、紙はリサイクルを繰り返すと品質が低下するので、バージンパルプも常に使用することが必要である。
 バージンパルプの利用については、違法伐採されていない適切な森林経営を行っている森林から得られる、いわゆる環境配慮バージンパルプというものを使うことが重要である。この環境配慮パルプを保証する制度として森林認証制度が設立されており、FSC(森林管理協議会)はこうした森林認証制度の一つである。
 FSC認証制度は、適切に管理された森林から伐採された材料を用いて製品が製造されたことを証明する制度であり、この森林から伐採された木材から取られたパルプを元に製造された用紙がFSC認証紙でありこの紙にはFSCマークが印刷される。そして、このマークを使用するためにはFSC認証を受けた森林で伐採された木材を流通させ加工・製造・販売・印刷に携わるすべての会社がFSC認証を受けていなければならない。従ってこの紙はいつどこの森林で伐採されて製造されたかというトレーサビリティを証明できる。 FSC認証紙を使用すると地球環境の保全に役立つことや環境を保護に貢献する企業としてのイメージアップにもつながるメリットがある。
 紙原料(板紙含む)は現在、全体を100%として古紙パルプが約60%、バージンパルプが約40%使用されている。
製紙メーカーとしては、先にも述べたように、古紙パルプと環境配慮バージンパルプのいずれか一方がより環境に貢献するというのではなく、古紙回収によるリサイクルと、FSC認証のような適切な管理により生産された環境配慮バージンパルプによる森林のリサイクルを行って、バランス良く使用していくことが大切である。
 また利用者としては「再生紙よりもバージンパルプ100%のほうが品質はいいので、両方とも環境にいいのであれば、バージンパルプ100%の紙を使う」という方向に向かうのではなく、要求される製品品質によってこの仕事は再生紙、この仕事はFSC認証紙というように、環境に配慮したバージンパルプを使用した上質紙というすみ分けを考えていくことが大切だ。(伊藤禎昭)

2006/04/11 00:00:00


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