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デジタルコンテンツ2006-テクノロジー,コミュニティそしてビジネス

JAGAT技術フォーラムでは,2006年のデジタルコンテンツのビジネスや技術の見取り図を展望するシンポジウムを開催した。データセクションの橋本大也氏が企画し,モデレータも務め,第1部講演「マスメディア」と第2部ディスカッション「ネット」の2部構成で,ブログやSNSなどを利用したメディアやビジネスのあり方を議論した。
情報やコンテンツがあふれる中,本当に売れるコンテンツや広告が模索されている。次世代のWebをWeb2.0と言うように,デジタルコンテンツの次のフェーズであるデジタルコンテンツ2.0を考えるために,第2部の神田敏晶氏の講演とパネルディスカッションを要約して紹介する。


CGMでメディアが変わる

KandaNewsNetwork,Inc.代表取締役 神田敏晶

インターネットは第1次臨界点にある。情報量は指数関数的に増加し,スパムでメールは機能しない。情報の意味が問い直され始めている。CGM(消費者発信型メディア)の普及でアフィリエイトが盛んになり,消費者ではなく消費生産者が主流となる。信頼性と親近感のあるメディアと,総合的マスメディアの共存共栄の時代になる。

インターネットの第1次臨界点
インターネットの情報量は指数関数的に増加し,検索エンジンなしではもはや航海できない。ただ,調べるのにも時間が掛かるようになった。Googleのクローラーによるindex更新だけに2週間必要で,すべてのコンテンツを網羅するには3カ月,さらに今後は半年から1年になるだろう。

ハードディスクの大容量化と低価格化で情報量が増加し,無料ディスクスペースが増加する。虎は死して皮を残すが,人類はサイトを残す時代になる。「ホームページの後始末まで一切当社に用命ください」という葬儀ビジネスも当然出てくる。無料のサービスになればなるほど,自分の恥は一生どころか後生に残ることになる。

インターネットビジネスはほとんどアメリカで発生し伝わってきたが,今はある意味で臨界点を超えて,同時多発的に日本でもいろいろなビジネスが起きている。
受信するメールの95%がスパムなので,得意先とは電話でやり取りするようになった。ブログもコメントスパムで機能しないので,トラフィックを集めるためだけになっている。

ブロードバンドからの脱却
回線が太く速くなったのでいろいろな映像ビジネスが立ち上がったが,ほとんど機能していない。技術が先で,それに合わせてコンテンツを作ること自体がおかしい。

動画コンテンツにしても映画やテレビ番組の再配信が主流だが,もっと身近な映像があってもいい。しかし,だれもが知っている情報が本当に必要なのか。そこにある情報は真実なのか。新聞ならいいのか,ブログだから信用できないのか,2ちゃんねるだから信頼できないのか。そうは言えなくなってきている。これからは消費者側が判断する。嘘を流しているほうが悪いのではなく,嘘を見てしまう自分,嘘を判断できない自分のセンスを疑うべきかもしれない。判断材料としては,評論家や店員より詳しい知人のほうが信じられる。

常時接続,どこでも接続,いつでも接続,どれでも接続,何でも接続が生み出す真のユビキタス・ネットワーク社会インフラはまだ実現していない。
友達新聞,ご近所ニュースの購読などが今後は増えてくるのではないか。今すぐ得すること,便利になること,問題を解決してくれることが,ネットでは重要になる。


近くなるネットの距離感
デジタルコンテンツ2.0とは,マスメディアで実現できなかったコミュニケーションの改革である。個人to個人コミュニケーションの増幅装置,CGM(Consumer Generated Media;消費者発信型メディア)が重要な位置を占める。アメリカ企業では,セールスプロモーションの中に,CGMに対する広告費用が計上され始めている。

フォークソノミー(Folksonomy;folks(人々)+taxonomy(分類学),ユーザがデータに「タグ」と呼ばれるメタデータを付けて登録し,その「タグ」を共有することで,それぞれのデータにアクセスできるシステム)が注目を浴び,Web2.0世代のプラットフォームとコンテンツとの連携プレーが今後は増えていくだろう。

視聴率重視から購買率重視に変わる。テレビのほうが購買率が高いので広告を出稿しているが,ブログや雑誌,新聞のほうが高くなるかもしれない。ニッチな商品になればなるほど,特定の個人のサイトだけで売れるという現象も出てくるだろう。

ネットの距離感が近くなっている。メディアやテレビ,映画というマスメディアの時代の距離感は,近接学理論で言う公共距離(360cm以上)だった。それがデスクトップパソコンによって社会距離(120〜360cm)になり,ノートパソコンになると個人距離(45〜120cm)まで近づいた。Webからブログ,SNSと距離が縮まって,CGMでは密接距離(45cm以内)となった。近過ぎて気持ち悪いくらいだが,耳元でささやかれたら思わず買ってしまう距離感だ。

リーチと信頼性の2軸で考えてみると,マスメディアはリーチは非常に大きく,信頼できるメディアも非常に多い。Webはマスメディアほどのリーチはないし,信頼性も微妙である。リアルコミュニケーションはリーチは小さいが,信頼性が高い。これらを補完するのがSNSやブログのCGMで,どんどん信頼性も上がっている。


消費者発信型メディア時代の到来
CGMのキーワードとして,(1)メディア観の違い,(2)ネット・コンシャスな時代の到来(Web2.0),(3)ブログツールやSNS,PodCastなどの普及,(4)アフィリエイト,(5)Viral-Marketing(口コミで利用者を広げるマーケティング戦略),(6)ナロー&ニッチ,(7)広告からメッセージの共有へ,の7つが挙げられる。

総務省の発表では,アフィリエイトやテキスト広告収入が2年で40倍になるという。働かなくても好きなことをどんどんパブリッシュして,それを買ってくれる人がいれば生活できる。口コミの拡大で,等身大のイベントが企業PRのメインになる可能性もある。
また,ナロー&ニッチでニュースの質が変わる。例えば,殺人事件をニュース番組から外すには,いったんハードディスクに録画して,タグ付け情報にすれば,殺人事件以外のニュースだけを見ることができる。

メディアは一番旬なもの,一番売れるものを追い掛けているが,消費者は売れるものが本当に買いたいものではない。自分の趣味や個性をRSSで流して,自分でタグを打って,「自分はこんな情報が欲しい」とパブリッシュしたほうが,本当に欲しい情報が入ってくる。

これまで一般の消費者は「アマチュアで趣味」という枠組みにくくられていたが,CGMにより「趣味だけどプロ並み」「アマチュアだけどビジネス」というエリアに属する消費者が出現し,なかには「プロでビジネス」というエリアに踏み込んでくる消費者も出てくる。

一方,従来は「プロでビジネス」のエリアに君臨していた企業から,お金より好きなことをやりたいからとフリーランスになって「趣味だけどプロ並み」や「アマチュアだけどビジネス」エリアに流れる人も出てきた。
CGMによって,従来の消費者という層がだんだん減少し,トフラーの言う消費生産者層が増えてくる社会になる。


結論:CGMでメディアが変わる
結論すると,CGMでメディアが変わる。人気ブログよりニッチブログへ移行し,人気よりも,自分と同じ思想や興味のあるブログを購読する,フォークソノミー型ブログへ変わる。

そして,どこから購入しても同じなら,情報のお礼として購入する「アフィリエイトマナーのある社会」になる。

個人が好きなことでメシが食えるCGM社会では,プロ化するアマチュア,フリーランス化するプロが主流となり,装置&利権産業は崩壊する。

顧客の顔を見ないで上司の顔を見て仕事をしている人は負け,顧客の顔を見て仕事をしている人が最後は勝つ。そして,信頼性と親近感のあるメディアと,総合的マスメディアとの相互共存共栄の時代になっていくだろう。



【パネルディスカッション】コンテンツビジネスはマスとCGMの共存共栄へ

モデレータ データセクション株式会社 代表取締役 橋本大也
パネラー 読売新聞東京本社 メディア戦略局編集部次長 稲沢裕子
株式会社翔泳社 取締役副社長 篠崎晃一
Webサイト「百式」主宰 田口 元
KandaNewsNetwork,Inc. 代表取締役 神田敏晶


企業ブログはカスタマーサポートに効果的で,中小企業ではサイト自体をブログ化したり,社長ブログも威力を発揮している。しかし,セールスプロモーションに使うには信頼性の確保が重要で,従来の広報の手法は通用しない。紙メディアだけでなくWebサイトのパーソナライゼーションや,購買行動に結び付くCGMが課題となっている。


フリーペーパーはビジネスモデルになるか
質問 フリーペーパーはどうだろうか?

橋本 神田氏は,実は昔,5万部くらいの『Macプレス』という,関西圏では非常に有名なフリーペーパーを何年も運営していた。

神田 最初は,書きたいのに書くメディアがなくて,ないなら自分で作ってしまおうと,DTPでフリーペーパーを作った。しかし,用紙代を考えると広告が入らないと赤字になる。広告を出してもらうために,わざわざ広告主に見えるところへ置きに行ったり,取材しながら営業するのが大変だった。そこで生き残りのためにメールマガジンを選んだ。今はまた逆に,地域だけに絞ったフリーペーパーよりも,ニッチでナローなところに,ぐさっと刺さるような何かがあればいい。

稲沢 海外の新聞社では読者層開拓のために,フリーペーパーがブームになっている。また,メールはスパムに混じってしまうので,プレスリリースはファックスのほうが効果的だ。紙の強みはあちこちにまだ残っている。

橋本 海外のオンラインの雑誌購読サイトでは,まずプロフィールを聞かれる。会社名や年収も聞いてくる。適当に,年収1500万円とか3000万円とか入れると,ただで毎月送ってくれる雑誌のリストが出てくる。海外のほうが広告依存率が高いので,ただで配れるようになっているのではないか。実際,海外のコンピュータ展示会に行くと,ただで雑誌の最新号を配っている。そう考えれば,雑誌もフリーペーパーに近いモデルがあり得るのではないか。

企業ブログは広報かジャーナリズムか
質問 ブログは企業のセールスプロモーションにとってどれくらい効果的なのか。

田口 企業が直接ブログをやる際,効果的なのは,カスタマーサポートに使う方法だろう。セールスプロモーションなら,だれかの信頼の上に乗るのがいい。直接やると費用と期間が掛かる。記事一つひとつにパーマリンク(固定的なリンク)が設定されているブログは,検索エンジンに評価されやすい。Webをブログ的に使うやり方もあるが,費用対効果からあまり意味がない。

橋本 中小企業ではサイト自体をブログ化している。データセクションも,最近ムーバブルタイプというブログシステムを採用した。更新しやすいし,デザイナーなしでも記事を上げていける。
社長ブログを始めた中小企業で,実際営業につながっている例も多い。社長ブログ同士でトラックバックやリンクをしたり,ブログつながりで営業や提携のきっかけを作るという,従来の広告とは全く違う次元でビジネスにつなげている。

質問 企業ブログで注意すべきことは?
橋本 ある電気メーカーの消費者ブログは,やらせがばれて,コメント欄が荒れてすぐに閉鎖された。

神田 広告の世界ではやらせも仕方がないが,ブログでは同じようにはいかない。有名になったある自動車の公式ブログは,そに書き込んでいる営業の山本さんは,どこまでやらせでどこまで本当か分からないが,多分複数の山本さんが存在しているのだろ。広報が内容に一応目をとおして,ユーザがそれに絡んでくるのはOKだろう。しかし,ユーザが立ち上げたブログという設定なら,どんなひどいことを書かれても消さないことである。アイリバー・ジャパンのブログでは,製品の悪口をどんなに書かれても消さない(http://blog.iriver.co.jp/)。謝罪して「次のバージョンで直す」と開発者がこたえ,「直りました!」と,自分でビックリマークを付けて喜んでいる。

ブログが炎上しても,炎上すればみんな見に来るので,それを逆手に取って良い方向にもっていくくらいのモチベーションで企業のサイトはやってほしい。

橋本 企業ブログでは,広報ではなく,企業内ジャーナリズムが必要かもしれない。

篠崎 テレビなどは見る側に高度なリテラシーができているが,新しいメディアでは,それがないので,どう活用するかという姿勢が問われている。

橋本 例えば,やらせがばれても担当者がきちんと謝罪して,「今後はやらせはやめる」と言えば収まるかもしれない。誠心誠意,顔を出して対応することが必要なのではないか。

メディアにできることはAIDMA理論で言うと,認知とか興味を促進するところまでである。AIDMAではなくAISMA,デザイヤーがサーチに変わって,欲求の前に調べ始める。だから購買に密接に結び付くCGMに対してAPIを提供するなど,広告会社は考えるべきではないか。

Webサイトのパーソナライゼーションが課題
質問 情報量がばく大になっていく中で,どうユーザをナビゲーションするか?

稲沢 10周年を迎えた「YOMIURI ONLINE」では,2005年5月に全国紙初のトラックバック機能を導入,10月にはPodCastも開始した。2006年にはWeb2.0への対応を進め,リッチコンテンツの強化,読者サービスの強化を図りたいが,新しいビジネスモデルが明確になっていない。
Webサイトのパーソナライゼーションは一つの課題になっている。新聞の良さは,自分が関心のある情報以外にもリーチがしやすいことにあるが,一方で,新聞は家庭に届いた段階から,家族がそれぞれ興味のある面を読むという形でパーソナライズされている。

橋本 新聞社自体がパーソナライズ機能を提供したとしても,Googleニュースでさらにほかの新聞や出版を横断してメタパーソナライズされる。今までは,検索結果はキーワードが入っている文書の一覧を提供していたにすぎないが,だんだんその人の知りたいことに対する答えが自動的に生成されて立ち上がるという,検索というよりは,パーソナライズ出版機能に向かうのではないか。

稲沢 RSS配信などの可能性に注目している。

神田 例えば東京都内に住むチワワのコミュニティとダイエットのコミュニティに入っている女性だけのデータをSNSから得られれば,そこに広告を出稿できる。今後はメディアの広告スペースを確保するスペースブローカー的なビジネスから,購買まで結び付けることで,広告宣伝費ではなく営業販促費を動かすなど,いろいろな展開が考えられる。
橋本 翔泳社が最近始めたCOLORSというSNSは,まさに人に何かを伝播させていくものだと思うが,狙いを教えてもらいたい。

篠崎 COLORSは会費など一切無料で,参加者は専用ページ上での日記公開やWebメールの送受信,掲示板サービスが利用できる。記事の投稿や参加者の勧誘などに応じてポイントを取得できるのが特徴で,実際に3000ポイントたまると3000円に換金できる仕組み(https://clrs.jp/)。SNSで他人の日記にコメントするのは,初心者には勇気がいるが,「ポイントを得ることを理由として堂々と他人の日記を読める」という意見もある。また,不正にポイントを獲得しようとする行為については,携帯サイトの運用やソフト開発の実績など生かして,パトロールなども検討している。

橋本 今まで,コンテンツビジネスと言うとマスメディアのものだったが,ブログやSNSなど,個人やコミュニティが発信する情報がコンテンツになってきている。マスメディアだけがコンテンツビジネスをやるのではなく,また個人のマイメディアだけがやるのでもない。その2つの接点に,もう一つのクロスメディアがあるのではないか。

今までは著者が一方的に提供するものがコンテンツになっていたが,対話やコミュニケーションの内容がすなわちコンテンツになっていく。例えば,『電車男』や『鬼嫁日記』も,インターネット上でのインタラクションがコンテンツビジネスになっている。
パネルディスカッション自体,2.0的な感じがする。従来メディアとニューメディアが話し合うことで,新しい方向性が見えたのではないか。
(本稿は2005年12月19日に行われたシンポジウムの要約である。文責:編集部)


橋本大也氏
ITビジネス全般の技術評価およびマーケティング戦略のコンサルタント。早稲田大学在籍中に立ち上げたコミュニティ「アクセス向上委員会」を端緒にビジネスを開始,ITベンチャーの創業役員を数社経験して2000年にデータセクションを設立,SemanticWebCompanyを標語に知識マネジメントソリューションを展開中。主な著書に『アクセスを増やすホームページ革命術』など。テレビブログ(http://www.tvblog.jp/)を運営するメタキャストのCOOも務める。
URL http://www.datasection.co.jp/

稲沢裕子氏
経済部記者から,2000年9月にメディア戦略局編集部へ。「YOMIURI ONLINE」副編集長。2005年リニューアルではアクセシビリティ対応も推進。速報ニュースに加え,女性向け「大手小町」や医療情報など特色あるコンテンツ展開をしている。
URL http://www.yomiuri.co.jp/

篠崎晃一氏
デザイン会社,広告代理店などで企業のCIなどを行う。1986年マイクロソフト日本法人設立時のブランド設計に参画。1989年翔泳社入社し,現職に至る。翔泳社はIT分野の出版,企業コミュニケーションの支援,ソフト開発を展開している。
URL http://www.shoeisha.co.jp/

田口 元氏
1日1社,海外のユニークなインターネットビジネスを紹介するサイト「百式」を運営。土日祝含め,2000年1月より毎日更新。海外インターネットビジネスのトレンド情報を元に執筆,講演,セミナー,コンサルティング実績など多数。近著に『アイデア×アイデア』(英治出版)。
URL http://www.100shiki.com/about.html

神田敏晶氏
impress.TVキャスター,早稲田大学非常勤講師。ワインのマーケティングを経て,コンピュータ雑誌の企画編集とDTPに携わる。CD-ROM制作・販売などを経て,1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局を運営開始。
URL http://www.knn.com/

2006/04/20 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会