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5年の遅れを取り戻さなければならない印刷業

印刷分野はここ数年のIT化に取り残された分野だから、今からそこでビジネスをするチャンスがいっぱいある、とはプリンタに強い某ITベンダーの言である。写真のDPEの設備はここ5年程ですっかり変わってしまったような例がいくつもあるほど、ITはビジネスを変えてきたが、それに気付かない印刷人も結構いる。特に今後印刷業界を揺るがす大きな変化となりそうなのは、Web経由で直接印刷発注できる分野の広がりである。

これに対応できる印刷業者は、まず社内の業務システムがすべてオンラインになっていなければならない。それは今のLANのワークフローがあれば足りるようなものではなく、今の営業から事務・工務を総とっかえするほど大変化を必要とする。つまり駅前の銀行と、店舗をもたないネット銀行との差のようなもので、既存のビジネスをしながらネットでのビジネスの仕組みも構築するのは、かつてないほどの効率の悪い投資になる。しかし駅前の銀行も次第にネット銀行と同様な仕組みをもたないと経費がかかって利息が払えないで競争に負けるように、顧客から見えない内部のビジネスの仕組みを作り変えることは必須である。

このことは印刷物の発注者である出版社も同じことで、ネットで原稿を集める時代であるにも関わらず、印刷の準備を手で行うのはWeb出版に比べて情報発信が著しく遅れてしまうので、印刷とWeb両用のコンテンツ管理のシステムを作って、ついでに自動組版までするところが現れ、さらに広告などのビジネスシステムとも連動しはじめている。遅れているIT化を出版社が先行すると、ますます印刷会社の業務範囲は狭まる。

印刷業に関しては現行の生産性を1.5倍にしないと世間並みの製造業にはなれはいほどの遅れ具合である。しかしいわゆる「自動組版」だけで問題解決するわけではなく、「自動組版」に仕事を投げるところを自動的にする仕掛けが必要である。それはワークフローのシステムと一般にいわれるが、これを充実させるにはいくつもの新たな技術に取り組まなければならない。

ワークフロー管理では作業の予定を作って、作業者に仕事をアサインして行うが、作業者が各工程にチェックアウト/チェックインするのを見張って作業のトラッキングし、予定と比較して連絡・報告するとか、突発的に予定外の進行が必要になった時に別工程に振り替える設定などの機能をもたせる必要がある。

また素材を管理するDAM・CMSといったデータベース、管理用のメタデータの取り決めと付与する仕組み、素材のありかを示すリポジトリ、工程から次工程に渡す際のサーティファイ(PDFならプレフライトのようなもの)とか、フォーマット変換の自動化なども、新たに取り組むべきものとなる。これらが揃ってワークフローはかなり自動化され、それを外部からネット経由で参照できるようにすれば、Web経由で直接印刷発注はパフォーマンスの高いものになる。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2006年3月号より

2006/04/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会