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Web toプリントは印刷発注の新潮流になる

Web toプリントとは?

「Web toプリント」という言葉はそれほど一般的でもなく、また、さまざまな解釈をされている言葉である。Web toプリントが第1に意味するものは、Webブラウザ上から印刷の指示を行うものである。例えば、Webブラウザ上でデジタルドキュメントをオンライン入稿し、管理者がWebブラウザ上でデジタル印刷機の工程管理とコントロールを行うシステムも、Web toプリントの一つである。もう一つ意味するものは、Webブラウザ上でレイアウトデザインを行い、印刷データを作成するものである。後者は、サーバ上で組版レイアウト機能を実現することから、サーバ組版やネットワーク組版、オンラインDTPという言い方をされることもある。本稿では、後者の印刷データを作成し印刷発注までを行うシステムを、Web toプリントとして取り上げる。

従来のDTPの場合、作成データをサーバ上で共有することは一般的であったが、アプリケーションやフォントはスタンドアローンのマシンごとに必要であった。ところが、印刷データを作成するWeb toプリントでは、Webブラウザ上では、テンプレートや素材の選択などのレイアウト指示と、印刷サイズや部数、納品先などの発注情報を入力するだけである。サーバ上では、データベース内のデザインテンプレートや素材データからレイアウトデザインを完成し、最終イメージを生成する。従って、レイアウト指示を行うWebブラウザ側には、特別なアプリケーションやフォントを必要としない。

Web toプリントの背景

なぜ、このようなWeb toプリントが普及してきたか。
最も大きな理由は、印刷会社から見た顧客、印刷発注者が、このような仕組みを利用して発注者側の受発注ワークフローを効率化したいと望んでいるからである。印刷物を作る過程のワークフロー全体を効率化したい。例えば、レイアウト校正も、点数が多くなると非常に煩雑な作業になり、ミスも多くなる。そういうものを効率化していきたいということである。
発注履歴やコストを本社、本部で全体的に管理したいこともある。例えば全国に数十軒の店舗がある場合、それぞれがチラシを発注するとなると、そのコストが全体でいくらになるのか、去年はいくら掛かったのか、販売金額の増減と比較し費用対効果がどのようになっているか検証するということが、昨今非常に重視されている。このようなシステムを構築することにより、全体の経費や費用対効果の管理が容易に実現することができる。
技術的な面では、Webやネットワークが普及し、これらのサービスがASPとして提供されるようになっている。開発費として初期投資に大きな金額を掛けることは、失敗のリスクも大きい。それに対してASPは月々の使用料である。導入テストを安価に実施することもできるなど、導入自体が容易になっている。

また、従来のDTPアプリケーションは、年々高度な機能が付加されるという形で進化してきた。それを使いこなす技能があれば、高機能のメリットを享受し、生産性の向上を果たすことができるだろう。しかし、Web toプリントに求められるのはオールマイティな組版レイアウト機能ではない。事前に用意されたデザインテンプレートを選択し、必要な素材を指定し、最小限度の入力を行うものである。すなわち、限られたデザインレイアウトを最小の手間で行うこと、特別な知識やスキルを必要とせず、だれにでもできることが重視される。自動車で言うと、レーサーが使いこなすようなマニュアルシフトではなく、一般ユーザが意識せずに享受できるオートマチックの技術である。これらも、別の意味でDTP技術の進化と言えるだろう。

Web toプリントが伸びる分野

例えば全国チェーンを展開し多くの店舗をもつ企業などのチラシを製作する場合がある。デザインテンプレートにより、基本デザインを統一する効果も大きい。また、小売り流通業向けに食品を卸しているメーカーなどがキャンペーンをやって、そのためのツールを作るというような時に、これらのシステムが有効である。食品メーカーの担当者が、容易にスーパー向けの印刷物を準備するということができるだろう。そのほかにも、定期的に発行するものや比較的シンプルなレイアウトの印刷物で、受発注ワークフローを効率化することができる分野は大変多いと言える。
また、Web toプリントはデジタル印刷との親和性が高い。店舗別のチラシを大量印刷するのであればオフセット印刷が適しているが、数百部であれば、カラープリンタでも十分な場合もある。必要に応じて柔軟に切り替えることができる。さらに、顧客情報を反映したキャンペーンDMなどを、簡単に製作することができる。例えば自動車ディーラーであれば、顧客の購買履歴や属性に応じたキャンペーン内容のDMデータを作成し、カラープリンタで製作することも可能である。このような場合、情報管理面でもメリットが大きい。

印刷会社のメリット

印刷会社が、商品情報やデザインテンプレートのデータベースを構築し、得意先にWeb toプリントのサービスを行うことの最大のメリットは、定期的な印刷物の受注である。また、例えば全国に数十店舗ある場合、店舗ごとに内容の異なる印刷物を受注するのは、原稿チェックから校正、納品まで、大変な手間が掛かっていることも多い。印刷を発注する側、受注する側の双方に、定期的に大きな手間が掛かっているのであれば、これを削減する効果やミスをなくす効果も大きいだろう。また、データベース構築やシステム構築を通じて、得意先との関係を密接となることも大きなメリットとなる。
現時点では、このようなWeb toプリントのシステム構築、得意先との関係作りに最も熱心なのは大手印刷会社である。かつての商品情報データベース構築などの延長で、Web toプリントのシステム構築を行っている。また、DMのデザイン・印刷をWeb toプリントで行うシステムの例もあるようだ。
ワークフロー効率化やキャンペーンの発注管理、費用対効果の検証など、Web toプリントのシステムで得意先に大きなメリットを与えることができ、さらに印刷会社にとっても継続的な受注や受注側の効率化を図ることは、まさに得意先と印刷会社のWin-Winの関係を築くことである。

(この続きは、プリンターズサークル 2006.5号に「特集 印刷発注が変わるWeb toプリント」として掲載しています)

2006/04/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会