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技術の新旧の入替わりで、伸びるか、滅びるか

日本人は細かいところにこだわりがある国民性というが、印刷に関してもそのようなことが多くあって、合理化の妨げになる場合がある。日本人のこだわり意識が質の高いものを生み出す要素であることは間違いないがが、誰にとっても意味のないこだわり、つまり自己満足的なこだわりは身を滅ぼす場合もある。活版でなければ本でないとか、カラーは原色版でなければ味がないなど、技術の新旧の入替わりの際に、新技術に移行できない多くのケースはそれである。

印刷のFA化が進んだ最先端の工場にいっても、製本の部署は旧来のままであったりする。そのため印刷と製本が一貫化しにくく、刷本を一旦保管するために自動倉庫が必要になる場合がある。製本がなぜ一貫化しにくいのか聞くと、やはり製本仕様のこだわりというものもあるようだ。針金綴じ製本の針金の位置が1ミリほど上下にバラついていてもダメだといわれたことがあったが、誰がダメ出ししているのであろうか? 同じ冊子を2冊見比べる人がいるのだろうか?

このようなこだわりの壁は厚いものの、自動化・FA化・CIM化は容赦なく進んでいく。それは従来からある印刷の仕事の生産性が見直されるからではなく、何時も新たな印刷需要が起こるからである。例えば針金綴じの仕様であれば、フリーマガジンの増加が関係してくる。フリーマガジンは媒体としての機能に関係ないところに時間やコストをかけないわけだから、針金の位置が1冊ごとに1ミリ上下していても、安くて速い製造プロセスを選ぶだろう。

このことはすべての印刷物制作工程に当てはまることで、既存の雑誌や商業印刷では自動組版は難しいとか現実的でないとかいっても、フリーマガジンでは最初からそれを前提で冊子の設計をするところがある。それで見苦しく読み難い紙面が出来上がるかといえば、必ずしもそうとはいえない。R25など人気のある冊子をよく観察すればわかるが、基本的に矩形を配列したレイアウトが中心で、それで単調になりがちなところはグラフィックスで変化をつけている。つまりデザインのやりようはあるもんだなと思わされる。

もし既存の雑誌のデザインを変えずに自動組版しようとすると、開発自身にムダな部分が多く含まれるだろうし、操作面でもムリクリなところが残ってしまう。レイアウトに合わせて文章を調整するということも抵抗があるだろうし、結局みんなが嫌々仕事をするワークフローになるかもしれない。つまり素敵な雑誌を効率的に作るには、現場のこだわりを否定するだけではだめで、個々のこだわりを超えるはるかに高い目標を掲げなければならないのだろう。印刷物制作プロセスの革新にもミニ・ゴーン氏のような人のリーダーシップが必要なようだ。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 2006年4月号より

2006/05/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会