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デジタルワールドの5年間の変化 その3

JAGAT技術フォーラム座長
和久井孝太郎

デジタルワールドの5年間の変化をふりかえる (1)
デジタルワールドの5年間の変化 (2) より続く

3.人類文化進化[注4]の視点で変化の本質を読み解く

筆者は、デジタル革命の本質を視覚化し、理解を容易にするために、イラスト「新世界、デジタルワールドの出現」および「マルチ・メディア曼荼羅」を(文献1)で提示した。
次の2枚のイラスト図1、図2は、その後の変化のキーワードを書き加えたもので、それと文化技術史[注6]を使って私たちは、次の5年間に身の回りで具現化する文化環境変化の予測に役立てることができる。
図1

図2

[注4] 人間とチンパンジーの遺伝子(ゲノム:生物学的な設計図)の差は、極めてわずか(2%以内)である。従って人類の進化とは、分子生物学的遺伝子レベルの進化と、人類の遠い過去から現在に至る、生活様式の総体としての文化レベルの共進化と考えることができる。
遺伝子レベルの進化論は、現在では仮説ではなく科学的合理である。一方、文化の変化に進化論的プロセスを持ち込む仮説の利点は、好き嫌いの感覚・価値的な非合理を可能な限り排除し、ニュートラルな科学的合理で文化の急速な変化の本質を把握できるからである。

[注5] 現人類の遺伝子上の親戚筋にあたるネアンデルタール人が完全に淘汰された後(約4万年前)の世界にあって、現人類(ホモ・サピエンス)の人口増加がその後の文化進化に本質的に重要な役割を果たしてきた。
近代における世界人口の推移をざっと振り返っておく。2000年前(約3億人)、500年前(約5億人)、200年前(約7億人)、100年前(約10億人)、50年前(約27億人)、25年前(約45億人)、10年前(約55億人)、現在(約65億人)、50年後には90億人を突破する見込み

[注6] 本題の議論のために簡略化した文化年表:人間とチンパンジーが共通の祖先から進化の枝分かれをしたのが、今から約700万年前。約50万年前の北京原人遺跡から火使用の痕跡。厳しい自然淘汰を乗り越えて生き残った現人類で農耕文化が始まったのが約1万年前、車輪の発明が5000年前、文字文化が始まったのが約4000年前、釈尊、旧約聖書、孔子、ソクラテスの高度な精神文化の誕生は約2500年前である。
グーテンベルクの印刷術が約550年前、石炭による製鉄約300年前、英国の産業革命本格化(ワットの蒸気機関等)が約230年前、モールスの電信術が約170年前、機械掘り油井が約150年前、ジーメンスの発電機が約140年前、ベルの電話が約130年前、ダイムラーの自動車が約120年前、マルコニーの無線通信やエジソン、リュミエールの映画が約110年前、ライト兄弟の飛行機が約100年前、米国のラジオ放送が約90年前、高柳のテレビが約80年前。
最初のコンピュータやトランジスタが約60年前、ICの特許が約50年前、通信衛星の始まりが約45年前、インターネットの原点ARPAネットやインテルのマイクロプロセッサが約35年前。
高度情報化や文明革命の第三の波論、Eメールや光ファイバー通信が約25年前、AdobeのDTPが22年前、アップルのMacやマイクロソフトのWindowsが20年前、WWWとHTMLやオープンソースのLinuxが15年前、AdobeのPDFが13年前、インターネットの商用化やExplorer、Java、Yahoo、MSN、デジカメが10年前(後世の歴史家はインターネットの一般解放を持ってデジタルメディア革命と定義するだろう)。

そしてITバブルの崩壊、Windows XPやMac OS X、デジタル携帯電話やYahoo!BBの低料金ADSLが5年前である。その後今日までに、ブロードバンド常時接続が定着。さらに無限に増大するネット上の情報を体系化し整理するGoogleの巨大なロボット型検索エンジン(使うだけなら誰でもただ)が登場。
多様な検索エンジン急増やブログの流行、PCやモバイルの高性能高機能化、デジタル携帯電話の多機能化高性能化低価格化とユーザーの急増、ハイビジョン大画面テレビの低価格化、地上波デジタル放送、ワンセグ放送、インターネット放送、ネット関連広告費の急増。
世界の何処でも空から詳細に見ることができる無料の衛星画像Google Earthやネット上の無料巨大百科事典ウィキペディアの登場など、メディア環境変化が加速されている。何よりも文化的に重要なことは、ネット上での知的ロボットの役割の増大。リアルワールドとデジタルワールドの関係が急速に変化、経済原理が大きく変わる可能性

筆者が提示した文化年表を見るまでもなく多くの人々が、鼠算(日本文化の累乗計算)的に身の回りの情報が増大し、変化が加速され続けていると感じ、人類は何処へ行こうとしているのか? と不安を覚えている。
「文明の衝突」「百家争鳴」「群盲像をなでる」(この場合の盲は、視力の不自由な方を指すのではなく、目を閉じて触れた部分だけから全体を知ることはできないという意味)がぴったりするような現状を打開することができるだろうか?

2500年前、お釈迦様が直観した三つの真理『三法印』は、最先端物理学が描く物質とエネルギー(力)、空間と時間(変化)の相互関係で成り立つ宇宙と、人間を含む生物界だけの次元である情報を含む全ての存在に対し全く矛盾がない。

〔1〕諸行無常(一切の形成されたものは変化し続け、物質界だけでなく生物界の情報を含む一切のものは、いろいろな原因や関係の存在としてのみある)
〔2〕諸法無我(一切の存在は互いの関係においてのみ成り立ち、絶対独自の存在などない)
〔3〕涅槃寂静(煩悩の火が消え、一切の苦から開放された境地に到達することが目標)
三番目の教えは人間の到達目標を教えたものだが、凡人である私自身は、全てのものの『調和』を目標としたい。

この項続く

デジタルワールドの5年間の変化 (4)
デジタルワールドの5年間の変化 (5)
デジタルワールドの5年間の変化 (6)

2006/06/01 00:00:00


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