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デジタルワールドの5年間の変化 その4

JAGAT技術フォーラム座長
和久井孝太郎

デジタルワールドの5年間の変化をふりかえる (1)
デジタルワールドの5年間の変化 (2)
デジタルワールドの5年間の変化 (3) より続く

4.2006クロスメディア曼荼羅

4.1 マルチ・メディアからクロスメディアへ

ここで言うマルチ・メディアとは、リアルワールドとデジタルワールドを含むメディア全体の状態を表す言葉である。マルチ=多、メディア=媒体、すなわち多様な媒体が私たちの身の回りにある状態を意味した。
これに対して流行語的なマルチメディアは、デジタルワールドにおけるメディアの環境状態を表した言葉である。インターネットとPCを組み合わせることによって、文字メディアのみならず音声メディアや画像メディアも、目的に応じてリアルタイム処理のほか記録・蓄積処理なども統合的に容易に行えるようになることを意味した。
このような問題の理解を容易にするためにメディア曼荼羅を作成し、それぞれの時代のメディア状況を反映させて版を重ねてきた。図2に現時点でのメディアの全体像を表す2006クロスメディア曼荼羅を示す。

図2

今や、第2章で述べたデジタルワールドにおける本質的な変化を受けて、過去5年間に私たちを取りまくメディア環境が、マルチ・メディア(マルチメディアを内包)からクロスメディアへと変化を始めた。
インターネットは、在来の電気通信と技術的な方式が違う、ワールドワイドで低料金のマルチメディア利用可能な通信手段の域を脱し、今や人類文化に対して更に高い次元の意味を持つようになった。
すなわち、過去5年間にインターネット常時接続のPC環境が急速に普及したことで、インターネットの本質は人類全体で協同して創り上げていく、リアルタイム型検索機能と双方向通信機能を備えた巨大なデータベースであり、デジタルワールドの基盤であることが明らかになった。
だがこれによって、在来メディアの価値が下がるわけではない。しかし、在来メディアやビジネスを含むリアルワールドそのものが、新たな変革が迫られることになる。

4.2 クロスメディアとは何か?

〔1〕 個人の場合
クロスメディア曼荼羅の中心に自分がいる。すなわち、私たちは日頃から多様なメディア(正確にはメディアの単数形メディウム)に取り囲まれて生活している。メディアは、単独で利用することもあるが、複数のメディアを交差(クロス)して利用することも多い。
例えば、新聞の番組表を見てTVのチャンネルを選ぶ。その逆に、TVのニュースを見て後から詳しい内容を新聞や雑誌で読む。広告を見て店に電話する。このような状況は、これまでも日常茶飯だった。これが人力クロスメディアである。

しかし、状況は急速に変わりつつある。例えば、マイメディアとしての高機能なデジタル携帯電話(以下、携帯電話)が急速に普及、人びとは四六時中肌身離さずに持ち歩く。従来型の人力クロスメディアに加えて携帯電話などのパーソナルメディアを曼荼羅の中心に据える(クロスメディアのハブ:hub)、全く新しいクロスメディアが出現しつつある。
そして、もう一つの決定的な事実は、デジタルワールドの基盤である巨大データベースがクロスメディアの性格を持っている。リアルワールドの住民も、これからはデジタルワールドの存在を無視したよりよい自己実現は困難になる。
このような事態が出現することは、デジタル革命の本質から必然的に生じていることで、クロスメディアのハブは遠からずマイロボット的な端末へと進化するだろう。

〔2〕 ビジネスの場合
各種のメディアに支払われる広告費の動向は、生活者とメディアの関わりの現在を知る上で最もよい指標と考える。現時点での日本の広告費動向については、2.5.7項の表1で示した。ここではインターネットは第5のマスメディアと定義するのでもう一度見直しておきたい。
広告費の総額は5兆9,625億円で前年比101.1%となり、6兆円の大台に手が届くところまできた。インターネット関連の広告費の大幅増加が伸びに貢献した。
インターネット広告費は、2,808億円で前年比+54%で全ての広告費の中で最も高い伸び率を示した。続いて伸びが高かったのは、衛星メディア関連広告費で487億円+11.7%であった。

例年構成比が最も高い「テレビ」が前年比0.1%の減で、3年ぶりに前年実績を下回った。「新聞」も1.87%減で、「雑誌」「ラジオ」を含めたリアルワールドの主要4マスメディア合計も0.7%減である。
そのほかでは、印刷産業も関係の深い販売促進(SP)広告費に含まれるDMは+3.1%、折り込み広告が+0.7%、交通広告が+2.0%、POPが+2.1%。この分野で伸び率が最も高かったのは、展示・映像関連で+6.2%、最も落ち込んだのが電話帳広告費−11.2%であった。
総広告費約6兆円に対するリアルワールドのマスメディア4媒体の構成比率が、61%で、前年対比99.3%と全くの横ばいであったのに対し、デジタルワールドのインターネット関連が実額で約2,800億円となって、マスメディア4媒体の一角を担うラジオ関連のそれを大きく抜き、雑誌広告に迫る勢いを見せていることは注目に値する。

すなわち今や、インターネットは第5のマスメディアになった。在来メディアとは特徴が大きく異なるようだ。そこで当技術フォーラムでは、(株)電通の論客の一人で、関西支社インタラクティブ・コミュニケーション局長の秋山隆平氏を尋ねた。
彼は、今や情報の伝わり方とマーケティングやプランニングにおけるメディアの使い方が変わり始めていると説明し、ホリスティック(包括的)コミュニケーションがキーワードであると述べた。
秋山氏と杉山恒太郎氏の共著で同じ題名の本が、(株)宣伝会議http:/www.sendenkaigi.com/から発刊されている(副題:アクティブ・コンシューマーの出現で進化する広告と販促の境界)。

伝統的なマスメディアのコミュニケーション・モデル(BtoCワンウエイモデル)は、川上のBから提供される情報に対し全ての受け手Cが平等につながっている形態である。
一方、デジタルワールドでは2章で述べたブログなどに見られるように人と人のコミュニケーション・モデルが大きく異なる。BtoCインタラクティブモデルにクラスター型(あるいはコミュニティー型)のCtoCインタラクティブモデルが加わったコミュニケーションが現実のものとなっている。
英国の経営学者リンダ・ピータースは、意図したメッセージが消費者に伝わるだけではホリスティックとは言えない。その消費者が他の消費者に同じメッセージを伝えてくれて初めてホリスティックなコミュニケーションが成立したと言える、と述べているのだそうだ。
そして、容易に想像できるようにホリスティックなコミュニケーションでは、ネットワークの中の積極的な消費者(アクティブ・コンシューマ)に対する手当てが重要になってくる。

リアルワールド基本文化への衝撃:日本人のコミュニケーション様式が変わるか? 筆者が先に示した図1を作った最大の根拠は、ものの考え方やコミュニケーションの基本こそが、世界のそれぞれの地域や国の文化なのだから、慣性が大きいのは当然だ、と考えたからである。
その基本的コミュニケーション文化の中で、広告の伝わり方が大きく変わろうとしているのはなぜか? デジタルワールドの影響のほかに幾つかの原因があるだろう。

例えば、現在の消費成熟時代にあって、私たちの身の回りには類似商品やサービスが多い。情報の氾濫や洪水といわれるように身の回りに情報があふれている。CMの信頼を揺るがす企業による不祥事や事故などが大きく報道される、などなど消費者は判断に迷っている。人々は、そのような状態をリアルワールドとデジタルワールドのクロスメディアによって解決しようとしているのではないか。
図3は、筆者がJAGAT info誌2005.4で紹介したカメラ付き携帯電話をハブデバイスとしたクロスメディアの例である。このようなクロスメディアについて秋山氏は、著書の中で2次元コード(例えば、QRコード)を活用する場合に解決すべき問題と活用例を示しているので紹介したい。

図3

〔1〕 QRコードの解決すべき問題:QRコードは、誰にでも簡単に作れる。ビジネス利用ではセキュリティ対策を十分にする必要がある。電通が開発した2次元コード(モバイルコード)では、コードを発行する際に専用のシステムで暗号化処理を行う。
次にユーザーがコードを読み取り、サイトにアクセスする際に、それが正規に発行されたものか否かをゲートウェイサーバで認証と暗号解読を行いユーザーが目的とするサイトにつなぐ。

〔2〕 活用事例:印刷メディアがインタラクティブ・ライブメディアになる。パーソナライズされた情報の発信(個人認証が必要なチケットなどに応用)。マストバイ型キャンペーン(確実に商品を購入した消費者をキャンペーンに参加してもらう)への活用。

セキュリティの重要性:多様化・複雑化・高度化が進行する現代社会にあって、安全で安心な生活を送るためには、すべてにおいてセキュリティの確保が重要課題となる。国家を挙げてのセキュリティ対策、その一環としての情報セキュリティ対策は極めて重要である。日本はこの点ではかなり遅れを取っている。
一方、私たち個人は、リアルワールドにおける核家族化・少子高齢化・都市化・国際化と共にデジタルワールドの本質が見え始めた現在、デジタルワールドの最新の知恵とリアルワールドの伝統の知恵をクロスして自己のセキュリティ最適化を考える必要がある。セキュリティ問題は確率論的な問題であり、決定論的に考えるとよい結果が得られない。
クロスメディアのプロは、セキュリティ対策や情報に関係する権利処理に十分な知識と行動力を備えなければならない。

この項続く

デジタルワールドの5年間の変化 (5)
デジタルワールドの5年間の変化 (6)

2006/06/03 00:00:00


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