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デジタルワールドの5年間の変化 その5

JAGAT技術フォーラム座長
和久井孝太郎

デジタルワールドの5年間の変化をふりかえる (1)
デジタルワールドの5年間の変化 (2)
デジタルワールドの5年間の変化 (3)
デジタルワールドの5年間の変化 (4) より続く

4.3 クロスメディア曼荼羅の基本構造

メディアの法則:メッセージの伝達は電磁力とモノによって行われる

図2

図2の四つのコーナーの花柄模様の花芯は、メディアの最も基本的な4種類の情報の運び方(基幹技術)を表わしている。従ってクロスメディア曼荼羅に代表的な事例として登録された個別メディアのコンテンツは、どれか1つの情報の運び方によって伝達される。
左下のコーナーが印刷技術の分野である。例えば、新聞の情報内容(メッセージ、コンテンツ)を紙に印刷して運ぶ場合を考えると、紙は情報の運び手(キャリア)であり、印刷とはそのキャリア(新聞紙)を所要の文字や画像情報で変調し記録することに相当する。

曼荼羅の4つの基幹技術の中で印刷あるいはその隣接技術としての写真は、筆者自身、極めてエレガントな技術であると考えている。その理由は、紙やフィルム(モノ)に2次元情報の変調と記録が同時に行われ、ユーザー(読者)は特別な端末なしに情報を直接読み取ることができる。今後ともその利用価値は低下しない。
曼荼羅の残り3つの基幹技術は、キャリアとして電磁力(電子や光・電波、音波・・・・)を利用している。従って紙やフィルム・メディアから電子的なメディアへのクロスメディアでは、モノに記録された情報(メッセージ)を電磁力に変換する工夫が必要になる。

4.2項で述べたQRコードやモバイルコードと携帯電話機のカメラの組み合わせはその1例だが、今後必要に応じいろいろな工夫が考えられ、面白い研究分野の一つである。モノとモノ間のコミュニケーション技術が重要で、印刷技術が果たすべき役割も大きい。
紙・フィルムのコーナーから時計回りに左上のコーナーは、デジタル化された電磁力による言語を使ってデータ(情報)処理を行うコンピュータ技術の分野である。そして、右上のコーナーは、情報通信/光(ケーブル)あるいはメタル(ケーブル)伝送ネットワーク技術の分野である。ここでの情報通信は基本的に、特定された発信者と受信者間の電磁力(光・電気)有線通信とした。右下のコーナーは、放送や無線通信の分野で、キャリアとして電磁力の一種である電波を利用する。
これら4つの基幹技術に対応するのが伝統的な基幹メディア分野である。曼荼羅のグリーンボール内に表示してある「印刷出版・写真」「コンピュータ・PC/WS」「情報通信ネットワーク」「放送・無線通信」がこれに相当する。

次に、伝統的な基幹メディアとメディアの間には、「エレクトロニック・パブリッシング」「データベース」「衛星通信」「映画・ハイビジョン」などの比較的新しい基幹メディアを配置した。
この中で特に注目すべきは「データベース」である。前章でも指摘したように過去5年間のデジタルワールドの進展で、誰でもがアクセス可能な検索エンジンを備え、ワールドワイドで無限多数が協同する巨大データベースこそが、インターネット最大のメディア特性であることが明らかになった。インターネットのデファクトスタンダード(オープンな競争の結果、事実上の技術標準となったTCP/IP)的な情報通信ネットワークとしての特徴と、メディアとしての特徴を分けて考える必要がある。

これら8つのメディア分野の外側や基幹技術の外側の円の中には、具体的なメディア・サービスの主なものを例示した。
クロスメディア曼荼羅の上半分と下半分ではメディアの性格が大きく異なる。上半分は、主としてパーソナルメディアとビジネスメディアの領域で、コンピュータにおける対話型処理やインターネットと情報通信ネットワークにおけるリアルタイム双方向情報伝達などに特徴がある。これに対してクロスメディア曼荼羅の下半分は、主としてマスメディアの領域となっている。

次にクロスメディアを縦に、真ん中から左右に分割すると、左側の分野と右側のそれでは性格が大きく異なることが分かる。左側は、わが国では主として経済産業省が管轄している領域で、自由競争を原則とする選択的サービスの分野である。
これに対して右側は、同じく主として総務省が管轄している領域で、主としてユニバーサルサービスの分野であり電気通信法や放送法などの免許事業の世界である。現在、わが国では「通信・放送融合」の議論が総務省を中心として進んでいるが、全てのメディア分野でデジタル化が進展している状況にかんがみ、主として技術的な融合や制度的な融合が検討課題となる。

一方、それぞれのメディアには独自のメディア文化が存在する。例えば映画とテレビ放送では、わが国でテレビ放送が開始された当初 映画界は、テレビをライバル視した時代があったが、現在では持ちつ持たれつの関係である。しかし映画の文化とテレビの文化は融合していない。

この項続く

デジタルワールドの5年間の変化 (6)

2006/06/06 00:00:00


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