本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

デジタルワールドの5年間の変化 その6

JAGAT技術フォーラム座長
和久井孝太郎

デジタルワールドの5年間の変化をふりかえる (1)
デジタルワールドの5年間の変化 (2)
デジタルワールドの5年間の変化 (3)
デジタルワールドの5年間の変化 (4)
デジタルワールドの5年間の変化 (5) より続く

5.クロスメディアのプロを如何にして育てるか?(まとめ)

キーワードは、『ホリスティック』 包括的にものごとを考え行動できるプロを育てる。
先ず頭の柔軟体操をして、印刷業や自社文化、そして何よりも個人的な思い込みや常識の凝り固まりを解凍することが不可欠だ。その後に、ホリスティックな物事の見方ができるように意識を再構築する必要がある。

物事の本質を知ろうとする努力⇒自らの仮説を立てる能力⇒仮説を実行して成功に結びつける行動力

例えば印刷のプロとは、印刷業界のことを熟知し、印刷物やそれが関係する物事で十分な顧客満足を実現し、ひいては自社利潤の最大化を図れる人物、あるいはそれを補佐できる人物のことをさしてきた。
プロとは専門的な知識と行動力に優れた人間(専門家)のことである。しかしここにきて、生活者を取り巻くメディア環境が大きく変わり始めると共に、それだけでは十分でないことが明らかになってきた。

伝統的なプロ意識だけでは、新たな発展は見込めない! JAGATは何ができるのか?

現代の西欧文明の特徴は、専門特化を進める中で、それぞれの専門を統括する組織を作り、価値の代用尺度として通貨を設定し、各組織間の自由な競争と効率化のための組織統合を推奨する社会運営を基本として発展してきたことにある。
このような西欧文明の基盤が西欧文化であり、その文化の中心的な存在としてキリスト教(全知全能の絶対神の御使いであるキリストの教えを実践する人間は救われると考える信仰)が担ってきた。
キリスト教的な信念が、一方では現代の諸科学を生み出し、産業革命以降さらに専門特化が進んだ。そして、それぞれの科学的知識を社会活動に効率的に活用することで、西欧文明は現代に向けて急速に高度化した。

現在の日本文明は、日本文化の基盤の上に明治維新以降の西洋文明導入によって創られたもので、その歴史は150年に満たない。なお、ここで言う文化とは人間の生活様式の全体であり、文明とは社会行動様式の全体のことである。
和魂洋才のこのような環境の中で、私たち日本人の頭はかなり固くなり、現在をうまくしのぐことに力点を置く傾向が強くなった。哲学と倫理はどうなっているの?
専門的な知識を深めることに凝り固まったホリスティックな見方ができない、自らの蛸壺の中だけのプロやマニア的プロが増加、仲間内だけでのコミュニケーションが中心で、他者との協調を欠き他者を見下すような言動が多くなっている。

真のプロとは、物事を決定論的に考えるのではなく、専門知識を活かして自らの仮説を設定し、その仮説を行動に結びつける中で、全体と調和する成果を出す人間のことである。JAGATはそのためのカリキュラムの準備をする必要がある。

発想法の転換が必要だ! <お釈迦様の描いた絵を見てみたい>

文化史の中で今日的な『透視法』が絵画の世界に登場したのは、いつごろのことであろうか? 美術全集などを見る限り昔の人は、絵は平面的に描くものだと強く思い込んでいたようだ。
その思い込みを打破し、現代絵画の基本的技法であり、私たちも当然と思い込んでいる透視法を絵画の世界で創造したのは誰でいつ頃か? 筆者はWikipediaを検索策して次の結果を得た。

透視法(透視図法)はパースペクティブとも呼ばれる。日本ではパースと略して使用するのが一般的である。これは美術の世界だけにとどまらず、建築、映画、アニメ、CGなど、極めて広く視覚的な分野で使用される。
透視法の基本は、簡単に言ってしまうと、近くのものほど大きく見え、遠くのものほど小さく見えるということである。しかし、これだけのことならばルネサンス以前の絵画でも当然と考えられてきたことである。ルネサンス時代に、これに「消失点」という考え方が取り入れられた。例えば、まっすぐ進む道路のまん中に立ってその先を見据えたとしよう。そうすると、道路の両側のガードレールも、並ぶ家も、電線も、遠くで全て小さくなり1点に交わって消えるというのだ。

透視法は建築家ブルネレスキが発見したといわれる。人文主義者アルベルティの『絵画論』(1435年)によって理論化された。実作としては、ギベルティの彫刻レリーフ(1425年_)やマザッチョの描いた絵画(1426年_)が最も早いものである。透視法によって三次元の世界を二次元の世界に移しながら、奥行きのある表現が可能になった。
また、遠くのものほどかすんで見えるというのが空気遠近法である。(例:レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」の人物と背景)

ルネサンスの透視法創造より時代をさかのぼること約1,900年、お釈迦様が書いた文字や絵などは現存していないが、お釈迦様はすでに空間を3次元的に認識しておられたのではないか? そして時空と力、さらに情報をもホリスティックに見ておられたのではないか?
お釈迦様は、現代物理学と矛盾のないホリスティックな世界を直観された最高の偉人である。私たちが学習する初等・中等の物理では、生物を除いた自然観察に絡んで、空間の3次元[縦・横・奥行き]、時間という次元、物質とエネルギー、力と運動の関係を学ぶ。

そして現代の物理学では、力には4つの要素(重力・電磁力・強い力・弱い力)があり、これを一つに統一する考え方を見つけるのが大研究テーマである。すでに電磁気力・強い力・弱い力は統一されており、残った重力を含む力の要素の大統一が最大の課題になっている。
これが可能になれば、空間と時間と力が一つになった無から有を生ずる完全なビッグバン理論を人類が獲得することになる。だがここでは、現代人の常識をはるかに超えた多次元の世界が出現しそうだ。そして、釈迦様の言う『空』とは何かが物理学的に明らかになる。
これと生物学や情報学でいう情報の次元を統一できれば、文化の進化理論も確立されることになる。道のりは先が長いが当面は、デジタルワールドにおける情報の急速な淘汰現象を観察すると、文化の進化とは何かを考える上で役立つ。

和久井の法則:「生命体とは自然が創りだしたロボットである」

このように考えることで全ての見透視がよくなる、だまされたと思って一度ぜひ試してみることをおすすめする。これが、ここまで我慢して拙稿を読んでいただいた読者へのプレゼントである。
2005年度JAGAT技術フォーラムのまとめの参考にさせていただくために、広い視野で活動されている次の3名の方にインタビューをお願いした。ここで改めて感謝の意を表わしたい。
秋山隆平さん:株式会社電通 関西支社インタラクティブ・コミュニケーション局長
村木良彦さん:メディア・プロデューサー 元テレビマンユニオン代表、元東京メトロポリタンテレビ・ゼネラルプロデューサー
吉井 勇さん:月刊ニューメディア編集長

2005年度JAGAT技術フォーラム「クロスメディア」

2006/06/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会