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オフ輪印刷の増加と工夫が求められる枚葉印刷

オフ輪での印刷が増えているが、その理由としてはオフ輪の飛躍的な生産技術の向上が挙げられる。枚葉機との印刷品質の優劣の差はほとんどなくなり、もう枚葉機以上になったという部分もあるが、枚葉機に頼らなければならない部分もある。 6色以上の印刷あるいは表面加工をワンパスで行える枚葉機を使った印刷で高付加価値を狙うならば、それが枚葉機であろうとオフ輪であろうと生産手段の提供というだけでは不十分でその最終効果に顧客が満足するものでなければならない。

増えつつあるオフ輪での印刷
 十数年前の平版インキの出荷量はオフ輪と枚葉インキの比率で約60%をオフ輪インキが占めていたが、今では70%強を占めるところまで来ている。毎年約1%ずつオフ輪インキのシェアが増えていることになり、オフ輪での仕事が急速に拡大していることが分かる。 ひところオフ輪のロット数は10万部を超えるものとする定説的なものがあった。それが最近ではロット数が5万部になり今は3万部や2万部または1万部以下となり、現在ではオフ輪でできないものを枚葉機に回すという考え方に変わってきている。
 新規でオフ輪を導入している会社も増えているようだ。日本印刷新聞社『調査年報 日本のオフ輪2006』によると、全国の中小印刷会社で稼働する商業・出版用オフセット輪転機1327台の版サイズ別の構成比では、A版機全体の構成比が前年よりも若干増加し、B版機の構成比は前年よりも減少している。B版機はチラシがメインだが、A版機はある程度枚葉機でやっていた仕事に対応できるからだろう。
 このようにオフ輪の導入が増えている背景として、学習機能搭載によってインキ膜圧を均一にできるシステムや版替え、ブランケット洗浄の自動化、折り仕様のデータ蓄積によるプリセット化など、さまざまな自動化が図られて準備時間の短縮・損紙の低減・稼働率の向上が達成されたことが挙げられる。
 その結果、オフ輪は多品種小ロットへの対応力、安定した品質という部分で評価を得るようになった。印刷品質のベースとしてドットゲインや見当精度では枚葉機を上回るとの評価も耳にする。

オフ輪か枚葉機かの振り分け
 オフ輪で印刷するか枚葉機で印刷するかの選択の基準は各社さまざまだ。A印刷会社では振り分けは基本的に営業の見積金額をベースに判断している。この時、目安となる部数は3万部だ。
 現場として3万部以下はやらないでほしいという要望があるようだが、営業としては単価や納期の問題、あるいは顧客からオフ輪を前提とした受注をすることもあり、1万部以下でも印刷することもある。逆に紙に火じわ(不均一な乾燥などのために生ずる紙の欠点、ちりめんじわとも言う)が目立つものや、後加工でPP貼りがあるものなどは部数が3万部以上でも枚葉機でやることがある。
 またB印刷会社では、特別な基準を設けていないが、オフ輪か枚葉機を選択する時、紙によって判断することが多い。アート系の中綴じは割れやすいために枚葉機を選択するとか、微塗工紙で坪量が40グラム〜50グラム以下のものは枚葉機では印刷しにくいため、部数が1万部以下でもオフ輪で印刷することもある。この場合ファンナウトのことを考えると、くわえとくわえ尻との色ムラの差はオフ輪のほうが少ない。 最近のオフ輪は見当精度が格段に向上していることから、むしろコスト削減、生産性アップのために高品質のものをオフ輪でやる場合もある。
 枚葉機にせよオフ輪にせよ仕上がり品質に影響を与える要因として、印刷会社が共通して苦労しているのは乾燥だ。枚葉機でパウダーが多過ぎると後加工しづらくなり、粉っぽさが残りクレームの対象にもなるため、パウダー噴射装置の日常のメンテナンスが重要だ。オフ輪では200℃以上の熱風の影響を受けた乾燥による後加工のトラブルが発生することもあるため、乾燥温度・インキ量・乾燥時間などの調節をしておかなければならない。 品質はさまざまな条件により左右される。しかし、仕上がり品質は絶対でなければならない。営業が受注してきた条件がどうであれ仕上がった製品の品質に不備があればクレームの対象となる。従って、枚葉機とオフ輪の選択は一概には言えない。プリプレスからプレス、ポストプレスを経て生産される中で、最終的にどうやることが効率的かつコストを掛けなくて済むかをトータルで考えなければならない。

オフ輪でのFMスクリーンと諸問題
 現在は、枚葉・オフ輪に限らず各社とも他社との差別化を狙って技術開発などに注目し始めた。オフ輪での印刷にはFMスクリーンで印刷している会社も増えてきた。これは現場の技術力向上という狙いの中で印刷品質の向上を図ろうとしていることだ。 しかし、問題は紙粉だ。コート系は問題ないがマット系や上質紙の場合は10万部を超えると紙粉が出ることからパイリング(ブランケット面、版面、ローラへの紙粉の堆積)で悩まされている会社が多いようだ。
 またFM用インキも市販されているが、冬場での印刷は厳しいものがある。通常、紙の表面温度は20℃の状態が望ましいが冬場は5℃前後に下がることもある。こうなるとインキがうまく定着せずロット間でバラツキが目立つ。200線以下のスクリーン線数はこれをインキの盛りでカバーできるが、FMスクリーンではそれができない。 解決方法としては常温常湿の状態で紙を保管できていることが望ましい。こうした問題点を解決して安定した印刷品質を保つことができれば価格を下げさせない営業戦略にもつながる。

高付加価値には手段プラスアルファが必要
 仕事の内容によっては枚葉機に頼らなければならないものもある。折りが複雑なものはオフ輪だけでは難しい。オフ輪ではロータリーカッターでシート出しをするため必ずしも直角精度が出ているわけではなく、くわえ側を化粧断ちしなければならないこともある。 厚紙はオフ輪では難しい。特注もできないこともないが基本的に特殊な紙は巻きができない。また特殊原反への印刷も枚葉機でないと対応できない。
 印刷会社がより生産効率を向上させるために、枚葉機でユニット数を増やして4色を超える印刷をしたり、特殊インキを使用したり、一部の絵柄の見当に合わせてUVニスを引くなど、ワンパスで後加工ができる枚葉機がある。こうしたことは、少なくとも現時点でオフ輪ではできないことだ。枚葉機でこのような印刷ができれば営業的なアピールができる。しかし、実際にはこうした印刷物への顧客のニーズが増えているわけではないようだ。C印刷会社の例では全体の数%しか需要がないのが現状であるという。
 高付加価値と言っても、オフ輪であろうと枚葉機であろうと顧客側としては、例えば4色プラスアルファされているからその分価格を上乗せしても良いということは少ない。同じ単価ならば発注するということのほうが多いようだ。従って印刷会社としては、コスト一定で加工度を上げ他社との差別化でシェアアップを狙うというのが現実的なメリットになる。 高付加価値と言うならば、インラインでの特殊加工や細かいスクリーンで印刷した印刷物製造方法の提案では不十分で、その最終効果に顧客が満足するものでなければならない。(伊藤禎昭)

2006/06/15 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会