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2005年度印刷会社経営の特徴について最新調査結果から


収益性の回復傾向とトレンド転換 
 JAGAT会員企業を対象とした「印刷産業経営力調査」の2005年度の結果がまとまった。従来は1月20日返送で直近の決算期の数字を得ていたが、今回より調査時期を1カ月ずらすことで、2005年1月1日から2005年12月31日までに決算を迎えた決算期の経営実績をご回答いただいた。  有効回答企業201社の売上伸び率は加重平均で100.4%と2001年度以来4年ぶりのプラス成長を果たし、売上経常利益率は3.5%で前期(3.6%)とほぼ同水準を確保、数年続いた縮小均衡からの脱却傾向が明らかになりつつある。対前年売上伸び率は54.0%の企業が伸び率をプラスにし,従業員1人当たり経常利益額は770千円に達し、2001年以降で最高水準となった。
 売上伸び率のプラス転換と考え合わせると、不確定要素は多いものの印刷産業もトレンドの転換点にあって、近年続いた縮小均衡の構造からは脱却しつつあるとの判断をしても良い材料が出揃い始めている。ただし、本格的な成長へは業種別で言えばマイナス成長の続く出版印刷と総合印刷の回復を待つことになると思われる。

続く外注費の減少、販管費の増加
 100分比損益計算書によれば、外注費比率は5年連続して減少、2005年度は前年より0.4ポイント低下の26.0%となり、依然として各社は外注損益をシビアに見た内製取り込みを進めている。材料費は前年より2.5ポイント低下の19.6%だが、商品仕入が+4.5ポイントの9.1%と急増していること、売上総利益率が21.9%で前期差+0.1とほぼ昨年並みであること、外注比率の低下等を勘案すると、実質的な材料費は外注費削減の範囲内で内製化進展によって前期より増加している公算が強い。
 一方の販管費も5年連続で増加して18.7%に及ぶ。売上経常利益率が過去に改善してきたのは、販管費の増加を製造原価の削減で吸収してきたことによる。しかし、外注費比率の低下ピッチは年々縮小、今後の大幅な原価率改善は期待しにくいため、販管費の増加対策は今後の重要な経営課題になってこよう。

堅調な商業印刷、事務用印刷の底打ち
 商業印刷は2年連続で売上伸び率を若干のプラスとし、売上経常利益率は+0.1改善の3.2%と過去5年の最高となって堅調に推移している。一方で出版印刷は前年実績を割り込み、マイナス幅は縮小しつつあって前年比は98.0%ながら、売上経常利益率は過去5年で最低の3.2%となった。また、総合印刷も4年連続でのマイナス成長となっている。包装・特殊印刷は長期低落を脱して2年連続プラス成長の前年比102.6%と業種別では最も好調さを示し、印刷業界全体として見れば景気敏感業種と考えられる商業印刷と包装・特殊印刷が全体を牽引している。さらに個人情報保護法関連需要のあった事務用印刷が2000年代に入って初めてプラス成長に転じている。

規模の格差が拡大
 規模を生かした経営が有利になりつつあるのか、人員規模別の業績格差が拡大している。49人以下規模は売上伸び率のマイナス幅が拡大するか利益率が低下するかしており、特に19人以下規模は売上経常利益率が1%を割り込み0.9%となった。
一方で300人以上規模は前年比102.5%と大きく売上高を伸ばし、売上経常利益率を4%台に乗せている。その結果、売上高前年比の格差は19人以下規模と300人規模以上で10ポイント以上の開きとなり、これは調査開始以来の最大乖離幅となっている。

特に東京で進む規模の格差
 東京の低迷は、付加価値の低下などで振るわないプリプレス関連業が集中していることも一因であろう。今回調査では、業種別で最も利益率の低い同業種の9社中8社が東京に位置するため、サンプル要因は否定できない。しかしながら、東京の業種別を見てもプラス成長は包装・特殊印刷だけであり、その他地域では全体を押し上げる役割を果たす商業印刷が前年比98.6%にとどまっているほか、総合印刷が前年比87.8%と低迷が続いている。 その他地域では、19人以下規模が前年比99.8%と健闘、300人以上規模は102.6%と規模の格差は大きくない。加えて、業種別では出版印刷が97.5%と前年割れしているほかはすべての業種でプラス成長と、前述した「規模の格差」は「地域の格差」とあいまって業界構造の変化として現れ始めている。問題は東京の構造がその他地域に波及するのか、東京固有の問題なのかであるが、これは今後の継続調査で明らかになろう。

売上伸び率はオフ輪保有企業が優位
 今回調査では、新たな調査項目としてオフセット輪転印刷機の有無を問い、オフ輪保有の有無別に業績集計を試みた。保有企業の売上伸び率は101.0%、売上経常利益率は3.1%に対し、非保有企業は100.0%、3.7%となっていて、売上伸び率は保有企業が1.0ポイント優り、利益率は非保有企業が0.6ポイント優る結果になっている。 「オフ輪のある会社は好調」との声を非保有の会社からよく耳にするが、数字上は世上言われるほどの伸び率格差として現れていない。ただし、1社当たりの平均年商は保有企業が46億円に対して非保有企業が21億円と倍以上の開きがあるため、伸び率差異1.0ポイントの意味は非保有側から見た実額としては相対的に大きく、保有側から伸び率で見れば小さいために、両者の見解が食い違うことが多いということではないか。

 JAGAT会員企業は4年ぶりのプラス成長を果たし、売上経常利益率は3.5%で前期とほぼ同水準を確保、数年続いた縮小均衡からの脱却傾向が明らかになりつつある。
 商業印刷が堅調に推移、事務用印刷が伸び率をプラスにするなど明るい材料が見え始める一方、業績は人員規模に比例して規模の格差が拡大し、プリプレス関連業の利益率低下が著しくなった。業種や地域,規模間の格差拡大傾向が業績に明確に反映されてきており,格差拡大の意味も含めて業界は景気回復に向けた調整段階という名の岐路に立っている。

社団法人日本印刷技術協会発行「JAGAT 印刷産業経営動向調査 2006」の記事より抜粋
(本書は2006年6月下旬発売予定。定価10,000円,JAGAT会員特別価格5,000円,ともに税込価格)

2006/06/20 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会