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立体視以下さまざまな新しい視覚のエクスペリエンスが求められている。Visualizationシンポジウム「見えることの楽しさ」(2009.9.1)オリエンテーションより。
日本印刷技術協会は、英語でJapan Association of Graphic Arts Technologyと表記する。グラフィックアーツという言葉は、日本でカタカナで書く時はデザイン的なニュアンスがあるかもしれないが、実は歴史的には「印刷」とほぼ同じような意味で使われてきた言葉である。まだ活字しかない時代からあり、その時点では活字を見た目よく配列する技巧(後にはタイポグラフィー)がグラフィックアーツであった。アーツは芸術のアーツというよりも人的を意味するアーティフィシャルだと考えればよい。
その後製版技術が進んで図像や写真も次第にきれいに印刷されるようになったので、デザインから製版にかけての範囲でグラフィックアーツという語が曖昧に使われるようになった。グラフィックデザインという言葉はもともと、印刷を作るための指示、指定をするとか、印刷のための設計をするというのが大きな領域であった。ところが、色や画像の使われる部分が印刷以外にもいろいろ発達したので、併せてデザインの領域もインスタレーションなどもっとビジュアルな全般に広がっていった。
印刷・製版・デザインの関係の中では違和感がなく使われたグラフィックアーツであったが、20世紀末に視覚メディアの電子化が起こり、ビデオからコンピュータグラフィックス、ゲーム、Web、デジタルサイネージと視覚表現領域がいろいろな範囲に広がっていくにつれて、必ずしもグラフィックアーツという言葉が使われない視覚の分野が増えてきた。PAGE2008では国立天文台がプラネタリウムを3Dで見せるものを取り上げたが、それはもうグラフィックアーツというような言葉を超えた領域になっている。ゲームなどでもグラフィックアーツという意識はあまりないかもしれない。
そこで2008年から技術フォーラムにおいて、これから先どういう言葉を使うのが相応しいのか、将来の展開を考えるとグラフィックアーツには手詰まり感があるのではないか、今最も盛んに使われているCGはサイエンティフィックビジュアライゼーションの技術を使っており、その技術が今後も広がっていくので、ビジュアライゼーションという括りの方がいいのではないかなどの検討が始まった。
今まであったビジュアライゼーションというのは、主にリアルなものがないところで疑似体験するような形が多かったが、ビジュアライズしていくというのはどういうことなのか、畑田豊彦先生、和久井孝太郎副会長といろいろな話し合いを重ねた。サイエンティフィックなCGにおいては、ビジュアライズして見せる技術向上は、情報伝達ということで言うと、見る人が想起する範囲を狭めること、人によって受け取り方がなるべくバラつかないことになれば、情報を伝えるという点では進化であると言えるかもしれない。
しかし、先ほど挙げたようないろいろな視覚メディアの発達というのは、必ずしもそういう目的のものでもない。2008年は写真とかデジタルアーカイブ等をテーマに、東京写真美術館でのミーティングもしたが、芸術やエンターテイメントでは、単に制作側の決めつけで、見る人に「こういうものを理解しなさい」と言って見せるものとは限らない。それは受け取った人がどう感じるかわからないが、そこで新しい視覚のエクスペリエンスをしてもらう。そういう要素があると思った。それは今CGやデジタルディスプレイの用途が、どちらかというとアミューズメント等、今までにない体験とか、そういうようなことをする仕掛けに多く向いてきていることからもわかる。
そういうことで、我々の身の回りを見回して、今までの二次元のグラフィックアーツの中から少しはみ出るところで、いろいろな視覚エクスペリエンスになるようなものを、それぞれの専門家に来ていただいて話を伺ったのが、2009年9月1日Visualizationシンポジウム「見えることの楽しさ」であった。最初は立体映像に関して、だんだんナチュラルなものが見えるようになってきているので、その辺りについて畑田先生にお話しいただいた。畑田先生はNHKの基礎研究所で今のハイビジョンにつながる基礎研究等をされ、今は3D関係の学会団体でもお仕事をされている。キヤノンの桑山哲郎先生は、目で見ておやっと思うようないろいろな視覚おもちゃのコレクターとしても非常に有名で、そのからくりを科学的に解き明かしていただいた。またテレビの世界も近年、カメラ自身に工夫をして、我々が見ることができなかったもの、例えば動物の生態とか、話で聞けばそうかと思うもので実際に見た経験がないものを見られるようにしたとか、見えなかったものを見えるようにしたとテレビのコンテンツでいろいろあるので、実際に担当しておられるNHK制作技術センターの井上氏に話を伺った。最後に、近年は映画等でもメインストリームになりつつあるCGを発展させてきたSIGGRAPHという学会の2009報告を踏まえて、CGの動向について女子美術大学の為ヶ谷秀一先生にお話を伺った。