JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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ゼロリセットが迫る

掲載日: 2008年10月23日

6年前に日本の最大の本屋はAmazon.comになると思っていた日本人はほとんどいなかっただろう。インターネットが社会の新たなインフラと考えられるようになるなか、いずれのメディアも「出直し」という段階に入ってきた。


デジタルメディアとネットワークがインフラになった社会では印刷需要はどうなるのかを考えると、なぜ印刷物のカタチのものが必要なのかというところにさかのぼって見直さなければならない。クロスメディアを考えるというのは、どんなメディアがどう役立つのかということを考え直すことであり、既存のメディアの制作や発注をゼロリセットするようなものである。

デジタルメディアが紙メディアのある部分に取って代わることは以前から予測されていた。それも現実のものとなったものが幾つもある。E文書法以降は必ずしも紙が情報のインフラではないようになり、株券も電子化されるのが目前である。過去のように紙が先にあってデジタルメディアが補完するのではなく、2000年以降はデジタルメディアが先にある時代に変わってきた。今後はデジタルメディアと紙は共存し、必要があれば紙に出す場合もあるというのが基本的な情報の流れになる。

しかし、これは人の意識を変えるので、生活やビジネスにおける紙需要の大変化の元となるだろう。印刷物の見直しはいつでも起こるものだが、環境の大きな変化があると印刷物も大きな見直しになる。電波媒体が普及しても何十年も印刷需要は見直されなかったが、高齢化やデジタルメディアという要因が重なると新聞も雑誌も取っていない人は増えている。

このような変化はいろいろなところで兆しが見られるもので、既存の印刷の仕事に対して印刷産業が生産過剰うんぬんといって業界内部で責任をうんぬんしたり、対応を考えたりするような範囲では解決ができない状況になろうとしている。年末に当たり前のようにバラまいていた手帳やカレンダーも近年はロットを絞り込んできたが、クライアントはそもそもそういったものを配布する意味は何なのかを再考する段階に入っていて、場合によっては取りやめるところも出てきている。

カレンダーは凝った印刷の代表のようなものであったが、実際に自分の金でカレンダーを買う人は本当にそのようなものを買うのであろうか? 欧米ではカレンダーも手帳も個人の嗜好(しこう)で買うのが原則で、凝ったものをギフトにするというのはあるだろう。しかし、今までの無料配布のものはコンシュマー向けの商品価値という視点で必ずしも企画・デザインがされているとは限らない。カレンダーや手帳は生活者視点で考え直さなければならなくなるだろう。つまりクライアントが配布の有無を再考する時代には、今までのような法人相手の惰性の受注は次第にできにくくなる。個人情報うんぬんが次第に厳しくなる中で、年賀状のたぐいですら廃止を考えている会社がある。だから「昨年いくら受注があったから、今年はこれくらいだろう」ということがなくなる分野があるのだ。言い換えると「ある」印刷市場はゼロリセットに向かう。

ではどのようなところを改めなければならないのだろうか? 需要そのものの基本的な見直しであり、本当に必要なことは何か、そのメディアを使った時の効用をどう予測するか、というようなことに経験を積んでいるならば、顧客がメディア計画をする際のパートナーとなることができる。このような見直しをすると、今までの印刷発注量より少しの印刷物で用が足りることが多いだろう。

印刷会社が売り上げ至上主義で1部でもたくさん刷りたいならば、こういったことはヤブヘビなので顧客に提案できない。しかしそれではクロスメディアもデジタルプリントも手が出せなくなり、結局は半減しようとしているオフセット印刷とともに経営も縮んでいくしか道はない。デジタルメディアに関してはレスポンスが計測しやすいなどの強みがあるが、どういったデジタルメディアが定着するのかは今は判断できず、当面はデジタルメディアも入れ替わりは流動的であり、メディアの発注はいつもゼロベース・ゼロリセットという状態になろう。それとともに印刷されるものも同様の扱いを受けることが予測される。以前はカタログなどをデータベース化してリピート受注することも取り組まれていたが、データベースに最も近いWebやケータイのほうが流動的であると、そこから情報を取り出して自動組版するものも堅いシステムを作ると長続きさせるのは難しい。

マスメディアが退潮なだけでなく、いずれのメディアを見ても「出直し」という段階に入ってきた。そんな中では印刷受注についてヤブヘビを恐れる必要はなく、むしろメディアがどう組み合わされようとも、顧客のビジネスやコンテンツにふさわしい仕事をするところであるという信用を築くことが第一になろう。欧米から「プリントマネジメント」という形でクライアントの側に立ってムダを省く考えが最近見られるが、今はプリントだけではなくデジタルメディアも含めてマネジメントしないと、二重にデータベースが必要になったり、情報発信のタイミングが悪くなるので、「メディアマネジメント」という視点から(印刷も含めて)ゼロリセットがされるのではないだろうか。

2009年2月4~6日に池袋サンシャインシティで開催される「PAGE2009」は、このようなメディアの見直しを、クライアント側と企画制作側からの両面で考えるため、テーマを「ゼロリセット」とした。クライアント側もそれぞれのニーズにフィットした新たなメディア展開を模索しているし、企画制作側はクライアントの意向を今こそキチンと捉えないと今後の展望が持てないからである。お互いに頭の中をゼロリセットして、惰性の印刷ビジネスに終止符を!!

現在、PAGEコンファレンスにてプレゼンテーションとパネルディスカッションをおこなっていただくスピーカーを募集しております。貴社の取り組み等を発表していただく機会としてご検討ください。

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