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ダイナミックスケジューリング

EFI社はFieryをはじめとするプリンタのRIP製品で著名であるが、2003年にBest社、PrintCafe社、T/R Systems社を買収し、カラープルーフ、印刷業界向けMIS、Web入稿(web-to-printサービス)の製品群を揃え、印刷業界へ本格的に参入している。
「PrintFlow」は印刷業界向けスケジューリングシステムで、優れたユーザインタフェースとインテリジェントな自動化機能を備えている。JAGATでは、次世代MISに求められる機能として「標準工程手順」「標準工数」の設定に基づく日程計画のシミュレーション及び、自動計画後の人間の判断による変更作業の簡易なインタフェースを掲げているが「PrintFlow」はこうしたニーズをほぼ満たすと思われる。
そこで「PrintFlow」の詳細を伺うべく2006年7月21日に「ダイナミック・スケジュール機能」と題してイー・エフ・アイ(株)田中和宏氏を招きセミナーを開催した。なお、現時点での「PrintFlow」の日本発売時期は未定である。

EFIは印刷業界に対し、

というコンセプトで各種ソリューションを提供している。
全世界で8000件もの印刷業界向けMISソリューションの導入実績があり、大企業向けの「HagenOA」、中規模商印向け「Logic」、小規模商印向け「PSI」、そしてオンデマンド・デジタル印刷のショップ向け「PrintSmith」という製品ラインアップである。
PrintFlowは、印刷工場でスケジュールの管理は不可能であり、自動化はさらに困難であるという常識に挑戦するもので、OPTIMIZE(最適化)/SYNCHRONIZE(同期)/ANALYZE(分析)の3つの特徴を持つ。

OPTIMIZE(最適化)

従来のスケジュールは、印刷やプリプレスなど特定の部門に限定したものであったが、PrintFlowは入稿から配送までトータルで最適化されたスケジュール管理を行う。また従来のシステムは、一度スケジュール表を作成し現場に流すと進捗情報が把握できず、スケジュール遅れに対する対策は後手後手にまわってしまうことが多いが、PrintFlowでは、予定に変更が生じるたびに新たなスケジュールを作成するという考え方である。セミナータイトルのダイナミック・スケジュールの所以である。これが成立する背景としてデジタルネットワークをベースとしたリアルタイムの情報共有と作業実績のリアルタイム把握がある。作業実績の収集はJDFの利用が前提となるが、EFI社ではJDF未対応の印刷機・加工機向けに「Auto-Count」という稼動記録ツールを提供している。

最適化理論としては、AHP(Analytic Hierarchy Process:階層分析法)のTheory of Global Optimization(TGO:総合大域的最適化)を採用している。TGOは「ザ・ゴール」という書籍で日本でも話題になったゴールドラット博士の制約理論(TOC:Theory of Constraints)に基づいたもので、ショートラン、短納期、過当競争、低価格、利益減少といった印刷業界特有の性質が考慮されている。最適化の目的は、工程単位ではなく工場全体の処理量(=スループット)を最大化することにあり、処理量の拡大が利益の拡大に結びつくことになる。

SYNCHRONIZE(同期)

PrintFlowは、ある一つの工程だけでなくその前後の工程まで同期のとれた形で自動スケジュールを行う。工程間のリードタイムやジョブとジョブの間の切り替え(段取り)時間も自動計算する。その前提として、すべての生産設備の情報を事前に定義する必要がある。事前定義の内容は、例えば印刷機であれば、標準処理時間だけでなく紙質や紙厚が変わったときの変化、あるいは色替えがあったときの段取り時間といったことまできめ細かく行う。さらに「A印刷機では特色の仕事をしない」といった運用ルールも登録できる。こうした事前定義をすべての生産設備に対して行うのは大変な作業となるが、この定義が自動スケジュールの精度に直結することになる。

また、PrintFlowでは切り替え時間が処理量を低下させる主要因のひとつであると認識しており、自動スケジュールをした時点でトータルの切り替え時間は何分で、その間のコストはいくらかが一覧表示されるようになっている。その結果をみて「切り替え時間の短縮を最優先」という条件を付加して再スケジュールを行うこともできる。

計画結果を手動で変更するときには、前後の工程の状況から、そのジョブに最も早く着手できる時間と最も遅くまでずらせる時間が表示されるので、矛盾したスケジュールを予防できる。また、計画変更を行うときに自動スケジューリングで日程を動かしたくないジョブについては、画びょうアイコンをジョブに刺すという直感的な操作で固定できる。

ANALYZE(分析)

PrintFlowでは、日程計画と作業実績を対比させ、どの工程で予定より遅れが生じたかを分析することができる。これを「弱いリンク」と呼んでいる。例えば分析の結果、断裁工程での遅れが多いという結果が出たとする。そのときの断裁機の稼働時間の設定が一日8時間となっていた場合、一日12時間稼動すると条件を変えてみて、再スケジュールを実行させる。条件を変えたときに遅延件数をどの程度削減できるかというシミュレーションを自在に行うことができる。また条件変更により、どのジョブがどのような影響を受けるかを個別に見ることもできる。

このように作業実績をもとに、実行したスケジュールが適切だったかどうかを分析できる点も大きな特徴である。これまで印刷業界では、立案したスケジュールの妥当性を実績をベースに検証するという例は皆無に近かったのではないだろうか。

最後に「PrintFlow」とは工務担当者を置き換えてしまうものではなく、工務担当者の作業を拡張し「火事場の火消し」ではなく「ワークフロー管理者」にするものであるということを強調しておきたい。
なお、PrintFlowの日本での発売時期が未定の理由として、EFI社のMIS製品(PSI/Hagen/Logic)の利用が前提となることがある。データベースを完全に共有することでスムーズな情報交換を実現している。

2006/07/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会