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工場管理その他の動向

問われるリスクマネジメント

生産管理の3大要素といえば品質、納期、価格であるが、近年は環境や情報セキュリティも欠かせない要素となってきた。
環境対応としては、日印産連が業界自主基準として2001年8月に制定した「オフセット印刷サービス」グリーン基準が2006年3月に改定され、それとともに認定制度もスタートした。認定制度は、グリーン基準を達成した印刷工場・事業所を認定する「グリーンプリンティング工場認定制度」(2006年4月開始)と印刷製品を認定する「グリーンプリンティング製品認定制度」(2006年10月開始予定)からなる。
情報管理にしても、プライバシーマークやISMS(Information Security Management System)資格を取得する印刷会社が増え続けている。
企業の社会的責任が問われているのは得意先も同様で、ISO9000/14000を取得した得意先などは、決められた部数に一部たりとも狂わず、色ムラやキズ、汚れのないすべて均質な印刷物の納品を求めるところもある。
これは印刷物を自社製品の部材として扱うという考え方からきており、パッケージや製品マニュアル分野で顕著となりつつある。
「印刷に事故はつきもの」などというおおらかな考え方は全く通用しなくなってきている。高品質の製品を提供するとは、製品について保証できる体制を構築し、それを維持することに他ならない。認証資格の取得などにより得意先に対して、保障能力をアピールする必要性は高まる一方であろう。

存在感を高める検査装置

このように品質に関する要求が変化するなかで、検査装置の役割も重要性を増しつつある。人間の目による抜き取り検査だけでは、品質保証としては不十分なことは明らかである。全数検査を行うとなると時間的にもコスト的にも検査装置に頼らざるを得ない。何かあったときのトレサビリティという意味でも検査装置は重要である。
印刷機用のインライン検査装置は、グラビア印刷用,オフセット印刷用共に普及してきた。新設のオフセット輪転印刷機には最初から検査装置が設置されるケースがかなり多い。オフ輪全体でも3〜5割程度の比率で装備されているようだ。

・高まる検知精度
検査装置は印刷面を撮影し、RGBの各信号ごとに基準画像との濃度差を測定しエラーを検知するという仕組みである。これまでは1板式(3ラインCCD)のカラーセンサーで撮影する製品が多かったが、3板式(3CCD)のカラーセンサーを用いるものが出てきている。
1板式で用いられるRGBカラーフィルターでは、分離したい波長の光であっても100%透過させることはできず何割かはフィルタに吸収されてしまう。その結果、コントラストが低下し黄色系などの色の薄いエラーの識別能力が低下するという欠点があった。3板式は、波長による屈折率の違いを利用するもので、プリズムにより分光しRGBそれぞれの光用に3つのCCDを配置する。光の損失が非常に小さいという特長がある。
検査装置の泣き所は用紙の蛇行や伸縮による誤検知である。多くの検査装置は、位置ずれ補正の機能をもつものの、さらに絵柄や線画の輪郭にマスク処理を施したり、輪郭部の検査基準を自動的に甘くするといった処置をしている。また、位置ずれは突然大きく起こるのではなく、ごくわずかずつある傾向でずれていくので、基準となる画像を毎回更新する(印刷中の画像と差し替える)という対応をしている。
しかしながら、これらの対応でも抜本的な解決にはいたらず、一方で全面均一で検査基準を設定できない、あるいは毎回基準画像を更新するので徐々に起こる濃度変化に対応できないという弱みを抱えている。
そこで、以下の方法で検査制度を高めている製品もある。それは、基準画像と紙面画像の全体を重ね合わせるだけではなく、高度な画像処理により紙面の歪みや伸縮の補正を行うというものである。こうした補正の後に比較検査を行うので、絵柄や線画の輪郭部の高精度な検査が実現できる。また、基準画像を更新しないので、徐々に起こる色の変化による不良を捕らえることができる。さらに、基準画像との比較をRGBの各信号ごとではなく、RGBを合成したフルカラー画像に対して行うので、人の目に影響する方向への色変化が生じたときにエラーとして検知することができる。

・枚葉機への普及はこれから
枚葉機における検査装置の普及率はオフ輪に比べ圧倒的に低いが、薬や食品のパッケージや、高級印刷物を印刷している会社を中心に導入がはじまりつつある。枚葉機の検査装置にはインラインタイプとオフラインタイプとがある。
枚葉機は機構上、咥え側しか用紙が固定されないのでインライン検査では用紙が暴れて、特に紙尻側の検査精度が著しく落ちるという欠点があった。しかし、印刷最終圧胴上で検査したり、用紙の紙尻を吸引するエアコントロールの装置をつけることで高精度を実現しつつある。
インライン装置の弱点として、NGシートの切り分けがある。本来はデリバリを二つにしてOKシート用とNGシート用に使い分けるのが望ましいが、デリバリの追加には相当な費用がかかるうえに、そもそも設置スペースが取れないという状況も多い。そこで、OKシートとNGシートの間に合紙を挿むというのが現実的な対応となるが、印刷後にその部分を取り除くのは、それなりの作業負荷がかかる。解決策として、厚紙に限られるが不良紙だけをデリバリの手前に自動排出するオートリジェクタという装置がある。これは比較的安価で重宝されているらしい。
枚葉のインライン検査装置は、オフ輪のインライン検査装置に比べ価格がかなり高いというのも難点である。
オフラインの検査装置のメリットとしては、多様な用紙サイズが扱えるので、判型の異なる複数台の印刷機を対象に特定の仕事のみ検査するというケースで有効である。また、一般的に二段デリバリが標準装備である。

JDF導入の波及効果

2006年4月に開催されたIPEX2006では、JDFに対応していない機器を探すほうが難しいほどで、MIS/オフセット印刷機/製本加工機各分野で対応が進んでいる。
しかし、JDFへの取り組みについては、メーカとユーザ(印刷会社)ではかなり温度差があるように見受けられる。その理由として、JDFは生産機器ではなくインフラに相当するものなので、メリットを数値で表現しにくく、費用対効果が見えにくいことがある。
しかしながら、インフラというのは活用の仕方によって、さまざまな波及効果を及ぼすものである。その一例としてEFI社の「PrintFlow」というスケジューリング(日程計画)ソフトを紹介したい。
従来のスケジュールは、印刷やプリプレスなど特定の部門に限定したものであったが、PrintFlowは入稿から配送までトータルで最適化されたスケジュール管理を行う。また従来のシステムは、一度スケジュール表を作成し現場に流すと進捗情報が把握できず、スケジュール遅れに対する対策は後手後手にまわってしまうことが多いが、PrintFlowでは、予定に変更が生じるたびに新たなスケジュールを作成するという考え方である。JDFによる作業実績のリアルタイム把握と、ネットワークによる進捗状況の可視化、情報共有がこれを可能とする。
これは日程計画業務の効率化だけではなく、日程計画の概念そのものを変える、ひいては工務担当者の業務そのものを改革する可能性がある。EFI社の言葉を借りれば「工務担当者の業務を『火事場の火消し』からワークフロー管理者にする」というものである。つまり、何か起こってから対応するのではなく、起こる前に先手先手で手が打てるようになる。
今後、JDFの普及が加速するかどうかは、JDFのインフラを業務改善につなげるようなソリューションがどれだけ出てくるかによるだろう。

印刷業界におけるECの状況

経済産業省がまとめた「平成17年度電子商取引に関する市場調査」によれば、日本におけるBtoB-EC(企業間電子商取引)の市場規模は140兆円(インターネット利用のみ)、VANや専用線を利用するものを加えると224兆円となっている。電子商取引化率(EC化率)では20.6%となっている。
このように日本全体ではEC化は大きく進捗している一方で、印刷業界においては、印刷物の受発注においても用紙や資材の受発注においてもECの活用はごくわずかにとどまっている。
しかしながら、徐々に事例は拡大しつつある。ベイツボ(株)は、用紙発注のWeb-EDIサービスを提供している。
需要者の注文情報をベイツボ(株)が標準的なデータにして、紙卸商・代理店のシステムへ渡すというシステムで、ベイツボ(株)が中継に入ることで、紙卸商や代理店は、お客さんごとに個別対応する必要がない。
印刷会社(需要者)のシステム利用料は無料で代理店や紙卸商から接続料という形で徴収している。印刷会社はあらかじめどこの紙卸商から紙を買うのかを指定して発注する。したがって、複数の紙卸商から最安値が自動選択されるようなマーケットプレイス的なサービスではない。
電子商取引においては、受発注データの標準化が重要となるが、ベイツボのシステムでは、カミネットのデータ項目を利用している。
(株)カミネットは、主として製紙メーカと代理店・卸商間の用紙の電子受発注を目的としたVAN型EDIのサービスを提供する会社であり、2006年3月現在226社が加入している。カミネットで利用される品名コードをぺディコード(PaperEDIコードの略称)という。 ぺディコードは原則として1銘柄1コードとなっている。寸法や連量、流れ目は別項目で表現する。ただし、銘柄コードのなかに生産工場のコードが含まれており、同じ銘柄でも工場が変われば別コードとなる。また、物流面がかなり考慮されたシステムとなっており、納品先の印刷会社は工場単位ですべてコード化されている。
電子商取引は、発注側、受注側双方に合理化メリットがないとなかなか普及していかない。ベイツボのシステムは、紙卸商の基幹システムと親和性が高く、ベイツボのWeb-EDIを利用している紙卸商の中には、基幹システムに受注データがダイレクトに入り、さらに自動倉庫や物流システムまで連動するシステムを持つ企業があるという。また、印刷会社側では、入力端末がWebブラウザではなく、MISから直接ベイツボのサーバにhttpsを利用して発注データを送る仕組みも運用されている。データの二重入力が不要で、管理を一元化できるメリットがある。こうした取り組みをきっかけに、印刷業界においてもECの利用が進んでいくと思われる。

2006/08/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会