印刷の色の問題というと、カラー原稿との比較や、校正刷りと本刷りの差などが問題にされ、色校正環境を整えるために多大な労力とコストがかけられてきた。しかし近年は次第にプリンタプルーフが多くなったものの、それほど深刻に騒がれることは少なくなった。今はむしろデジタルカメラ入稿の方が品質にかかわる問題とされている。
昔はカメラマンもデザイナも製版レタッチャも同じ一つのポジフィルムを対象にしてコミュニケーションをしていたが、今は目に見える画像はそれぞれのコンピュータ環境に依存したものなので、アナログ的な共通理解は難しくなり、その分データに信頼を置くようにしなければならなくなった。
画像のデジタル化で目視作業が主の職人技がやりにくくなったが、それ以上にデジタルだからこそ可能になることの方が多くなっている。印刷など平面の静止画が根源的に持っていた制約が、これから挑戦すべき課題に変わりつつあるともいえる。その兆候は2000年ころから多く現れだしている。
インクジェットプリンタの向上で写真以上の画像ができるようになった。これはCMYKのインキに対して補色を使って階調を豊かにするとか、色域を広げることができるからだ。またデジタルカメラで撮影したデータがそのままプリントに出せるのもデジタルのすごいところで、撮影時に完璧な絵となっていると、後で手を入れる余地はなくなってしまう。
つまりデジタル画像を扱いなれていくと、当然ながらリバーサルをオリジナルとした考えにはならないわけで、映画やTVのように撮影した後でレタッチすることは前提にしない「原シーン指向」とでもいうべきものになっていくだろう。だから如何に撮影時に豊富な情報を取り込むかが重要になる。
そうすると今までのCMYやRGBの3原色よりはもっと多原色のシステムの方が有利になる。今はインクジェットもオフセットも出力側で6色〜8色印刷をしているようなことを、カメラ側でも行うようになるだろう。すでにデジタルカメラの内部でRGBの分解だけではなく、RGBE(エメラルドの追加)とかCMYの分解といったCCDもあるように、可視光の全領域にわたって豊富な色情報を持つ画像をキャプチャをする努力は始まっている。
2006年3月に終了したナチュラルビジョンのプロジェクトでは可視光を16バンドに区切って画像を取り込む静止画カメラとか、6バンドでキャプチャするHDTV動画カメラが制作され、多原色の入力側のものは既存の技術の延長上でできそうなことがわかった。
実は多原色のディスプレイ出力はもっと単純で、既存の液晶プロジェクタなどを2台用意して、液晶のカラーフィルタの3原色のものなどを2セット用意して、スクリーン上で重ね合わせるとか、液晶のパネルならば、2種類のバックライトを交互に切り替えるなど、意外に簡単そうないろんな工夫がされている。
今は6色以上の多原色のシステムはそれぞれ独自に工夫をしているが、この技術が一般に使われるようになるには、可視光の領域を少ない色数でまんべんなくカバーする、色彩計のような色フィルタを用意して、対象物の分光特性に近似した色情報を扱う標準化も必要になるだろう。色の忠実再現のための技術は印刷の世界に閉じこもっていては得られず、科学的な共通認識をベースに勉強する時代になっている。
2006/10/24 00:00:00