印刷業界のサプライチェーンマネジメントに関する考察(1)
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SCMの進む他産業
他産業では、メーカーのような川上から最終消費者のような川下に至る物流や商流、情報の流れの合理化が進んできた。それは流通各段階がおのおのの個別利益を主張するような部分最適でなく、各産業単位の全体最適を追求するようなSCM(サプライチェーンマネジメント)の形である。
印刷産業で言えば、それは印刷資材の中で最も需要の多い用紙に相当するものの流れが、最適化されてきたわけである。
最終需要をリアルタイムで把握、さらに需要推移から需要予測を立案し、流通の中間段階や上流段階へ届けて情報共有することで、各段階の在庫を最小限化してキャッシュフローを改善、資材配送のリードタイムも最短化していく。精度の高い予測に基づいて過剰生産を防止し、価格の安定化も目指す。
ビジネスにおけるマーチャンダイジングの基本とは、常に「適時」「適品」「適量」であり、印刷会社の場合は「適質」が含まれるかもしれないが、業界全体の全体最適を考えることによって、このようなSCMの構築を目指すことが望ましいのは言うまでもない。
SCMが進まない原因は用紙種類の多さ?
他産業では、このようなSCMへの移行を終え、全体最適の底上げを追求していく段階に入っているのだが、印刷業界ではなぜ進んでいないのか。
「用紙の種類が多い」ことを挙げる意見も聞くが、他製造業の部品数や流通業が扱う商品数は、用紙の種類と比べれば途方もなく多く、日々何百点が新規に追加され、アイテム数何百万点の次元がSCM運用の実現を見ており、用紙アイテム数の多さは理由にならない。もし多いと見るなら、だからこそ合理化して全体最適を進めなければならないはずである。
参考に、SCMの進んでいる業種の考察を通して考える。最も有名な事例の一つはPOS革命を起こしたセブン・イレブンであろう。いち早く情報化に着手したことで、情報力で他社より圧倒的優位に立ち、業界首位の座をいまなお不動のものにしている。バーコード掲載のされた商品の仕入を促進することで、川下からメーカーに情報化を促した。出版物での初期は、バーコード掲載が装丁のデザイン性を損なうとして、拒否する出版社もあったという。
医薬品業界では、中間段階の卸がシステム構築し、販売店に導入を勧めることで利便性を供与、顧客の囲い込みを図るツールとしても機能させているところが多い。出版業界もこの形であり、中間段階の取次がSCMの主導権を取っている。
自動車業界は、川上のメーカーが系列に協力を要請する形が多い。寡占化が進んでいるためであり、メーカーが顧客に協力を要請するなどというのは、むしろ例外的なケースと捉えるべきであろう。
2006/11/08 00:00:00
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