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技術の必然としてのCIM化の課題

印刷機械の進化は目覚しく、作業・運転スピードの向上、品質の向上・安定化、省人化、脱技能化が進む中で機械の多様化(枚葉とオフ輪、ユニット数・サイズの多様化等)も見られた。現在でも改善は日々続いているが、JDFの登場によって従来と異なる手法での自動化が可能になってきた。いわゆる「CIM(Computer Integrated Manufacturing)」である。
しかし、CIMとは何かを改めて考えてみると、生産設備の自動化ではなく、いままで手がつけられてこなかった工程管理に関わる部分での改善がその大きな特徴であることがわかる。しかし、そのような認識が希薄なために、CIM化と言いながら、CIMの特長が活きる成果が得られないのではないかと危惧される。

CIMとは

CIMの要素と内容は図のとおりである。これらの要素を印刷に当てはめてみると、CADに対比されるべきものはプリプレス工程である。製造業一般における設計図を作るという意味とは同一ではないが、ここで完成された各ページのデータやCTPのためのデジタルデータを、印刷機や製本機に送って各部の調整を自動で行なうという意味では、プリプレスを印刷物生産工程におけるCADと位置づけることの妥当性はあるだろう。

CIMの説明

次に、CAMについて考えてみる。CAMを構成する生産設備が持つべき要素は二つある。ひとつはワーク(加工すべき対象物)や加工部品の生産機械への供給、つまり物流に関することであり、もうひとつは生産機械の各部分の調整である。これを印刷機に当てはめてみると、前者においては、オフ輪における巻取り紙の給紙部への装填やインキの供給など、ワークや加工部品供給の自動化は図られている。残るのは版を印刷機械に供給する部分である。後者の各部調整の自動化は、遠隔操作での調整が可能になった段階でその基本部分が出来上がっていた。そしていまは、それらがCADと連携して自動制御される段階に来た。
また、紙に関する情報を基に、給紙部、排紙部各種ガイド位置やタイミングのプリセット、印圧プリセットなどが可能となり、印刷枚数プリセットなど、製品仕様、製造仕様情報を使った自動化の範囲は広がりつつある。インキ供給量については、紙質に応じた調整も可能になっている。これらは、JDFによるMISと生産設備との連携がもたらす自動化であり、後述する従来の自動化とは異なる手法によるものである。

上記のことは、後加工工程についても同様であるし、刷版工程では、CTPにおいて生版を所定の場所にセットすれば後は自動的に処理ができるところまで来ている。 以上のように、印刷物生産工程におけるCIMの3要素のうちの二つ、つまりCAD,CAMはそれぞれにCIMの要素としての機能を備えたものになり、CIP3,CIP4による規格の導入によってそれらの連携も進められている。また、紙に関する情報に基づくプリセットのように、MISとの連携による自動化への寄与も見られるようになった。
残るもうひとつの要素であるCAPについてみると、この部分が印刷物生産において最も遅れている。ここで、CAPに触れる前に、現在の印刷機械の先端状況を見てみよう。

平版印刷機の進化を振り返ってみると、まず、生産の中核部分の機械化が実現し、その次にワーク(加工対象物)の供給の自動化、つまり手差しから自動給紙への転換が行なわれ、以降は、生産機械の各調整部分が遠隔操作で行なえるようになり、現在では自動制御に向かいつつある。この間、作業・運転スピードの向上、品質の向上・安定化、省人化、脱技能化が進んだし、機械の多様化(枚葉とオフ輪、ユニット数、サイズの多様化等)が見られ、その総合的な結果として生産性向上、コストダウンが図られた。

さらに続く印刷機の進化

そして、現時点では、JDFの登場によって自動制御を含むCIMが注目されている。しかし、従来から続けられてきた改善の手が止まったわけではない。その内容を列挙すると以下のようになる。
1.安定生産性能向上
2.先端技術の底辺への拡大
3.デジタル印刷機を含む多様化
4.品質検査の充実
トピック技術セミナー2006では、上記@〜C煮該当する新鋭設備・技術の内容を紹介する。

残された生産管理の問題

いずれにしても、印刷機の生産設備単体としての性能・機能改善には目覚しいものであり、特にこの20年ほどの間に、印刷物品質、印刷現場の生産性は著しく向上した。現在は、従来のような手法での改良とともに、CIMの項でふれたように、JDFを使った新しい手法による自動化が進みつつある。
印刷物生産におけるニーズは、さらなる短納期、小ロット化、低価格である。これらのニーズ対応に、上記のような新しい技術を搭載した生産設備が威力を発揮することは間違いないが、不稼動時間の問題や指示ミスによるトラブル発生等の問題への対応はできない。生産管理に関わる問題だからで、その改善はほとんど見られない。 CIMは、情報のボトルネックを解消することによって上記のようなニーズに対応するもので、従来手が付けられてこなかったこの部分での改善効果が期待できる。

CAPの内容と課題

ここで、もう一度CIMに戻ってCAPについて考えてみよう。
CAPの具体的内容は「日程計画」と「作業指示」であるが、ここでも二つの要素がある。ひとつは、日程計画や作業指示自体の作成に関することであり、もうひとつはそれらのデータ・情報の必要なところへの供給である。後者については、JDFによるMISと生産設備との連携によって可能になる。ただし、このような効果を期待するならば、MISは「統合システム化」、「電子伝票化」されたものであるべきである。印刷業界のCIM化へのひとつの課題は、そのようなMISを構築することである。

ボトルネックとなる工程管理

今残されているもうひとつの課題は、日程計画、作業指示自体の作成の部分である。CIM化といいながら、印刷業界では日程計画、作業指示に関する情報の生成は、従来どおり工務担当者の人的能力頼りを前提としているようだが、人的作業への依存は、CIM化によるシームレスな生産という目標達成にとって大きなボトルネックになる。製品仕様情報が入力され、電子データとして流通できたとしても、日程計画、作業指示作成段階で流れが滞ることになる。この部分をどのようにするかが、印刷業界のCIM化の大きな課題である。

今回のトピック技術セミナーでは、工務業務の内容分析をもとに、CIM化に相応しい工程管理システムとはどのようなものかについて、JAGATから提言する。

2006/11/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会