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消費行動の変化をビジネスに活かす

今回のPAGE2007基調講演Bトラックは、ビジネスをコンセプトとし、顧客側、とくに顧客の先のエンドユーザーのライフスタイルや消費動向の変化にともなうマーケティングにおける川上と川下の逆転現象や企業と消費者の関係を探る。B1セッションは「消費者が求める付加価値・機能――IT・サービス化の中のビジネス・イノベーション」と題し、消費者にとって付加価値のある商品が求められるその真意や消費者自身の行動・欲求を探ってトレンドをみたいと考えた。
そこで、生活者=消費者の動向に詳しい3氏にご協力いただいた。今やマーケティングの宝庫とまで言われる日経MJ(流通新聞)の編集長・為定明雄氏をモデレータに、博報堂生活総合研究所上席研究員・吉川昌孝氏と関心空間代表取締役社長・前田邦宏氏にスピーカーをお願いして、セッションを行った。
冒頭、モデレータの為定氏は、「いざなぎ景気」を抜いたといわれる現在の景況も実感がなく、全体を相対化したらまだいくぶん右肩上がりとはいえ、ことに個人消費に関しては力強さに欠けている部分がある。消費者を取り巻く環境、ITを駆使したサービスにより消費者の意識がどう変わっていくのか、どういう行動を取るのかみていきたい、と述べた。 そして2人の専門家として、まず吉川氏に生活者スタイルの変化という大枠を、ついで前田氏に各論的に自社のビジネスを中心に意見を聞いた。

博報堂生活総合研究所で、生活者の意識やライフスタイルを調査している吉川氏は、Web2.0時代の情報生活として、生活者から見た場合、どのようなコミュニケーションをとっているのかという視点で話を進めた。
これまで生活者は、マスメディア情報を受信するしか方法がなかった。ネットメディアを使うようになってから生活者が自分の情報を発信することが可能になった。しかし初期の頃は、ホームページを立ち上げること自体容易でなく、情報発信は一方通行だった。ところがメールやチャットによって1対1の送受信が可能になり、ネットリテラシーも高まり、ブログやSNSが出てきて、生活者と世の中が双方向に関係することが可能になった。吉川氏は、これこそ10年来のパラダイムシフトなのではないかと捉えている。
そしてこの双方向によるコミュニケーションを博報堂生活総合研究所では、「放電コミュニケーション」と名づけた。「わがままになってきた」生活者は、「干渉はしたくないけど、つながりたい」という新しい関係を求めている。日常生活の小さな発見や感動を思いついたまま形式にこだわらず、広く世の中に発信する。受け手もこのような「緩い意見」に対して、気軽に賛同、共感、反応できる(「充電コミュニケーション」)という敷居の低さが、情報のやり取りを活発にする。そしてこのことにより、生活者のさまざまな生活側面が活性化するという「自己活性化回路」を見出したのが、「放電コミュニケーション」のもうひとつの特徴である。
この「放電」を支えるのが、「ジェネレーションe」と名づけた18歳から25歳までの若い世代で、放電生活者の割合が3割を超える。この世代は価値観が形成される10代後半の多感な時期に携帯電話やネットが爆発的に伸びるのを経験している。その上の世代だとITをビジネスツールに使うという発想が生まれるのに対し、フラットに接している、と述べた。

モノを通じた「つながり」を重視するCGM(消費者情報発信型メディア)サイト「関心空間」の前田氏は、「見えないつながりの可視化」をテーマに話を進めた。関心空間では、ブログやSNSができる前からその仕組みを創出し、アーリーアダプター(流行に敏感な人たち)を圧倒的に取り込み、新しい情報や関心をはぐくむ「循環の場」を提供している。そして、自分の関心事を通じて、新しい情報や他の人とつながるサービスを作るメディアと定義している。
関心空間に自分の関心事を投稿すると、マイページにキーワードが一覧化される。ブログやSNSと違って、商品やサービスそのものの名称が表題となっているので、書店のPOPに近い表現になる。トラックバックという言葉がない頃から「つながり」という機能を設けている。違う点は、別の商品やサービスをキーにつなげていくことであり、趣味の合う人に薦める点においては、人的なレコメンデーション機能である。掲示板のように議論するわけではなく、投稿者のキーワードに共感した人がコメントをつづっていくので、いわゆるネット上で荒れることもほとんどない。
登録ユーザーも今では3万人を数え、月150万人が利用するサイトに成長している。1日に100件から200件くらい関心空間のサイトに投稿される。過去5年間で22万件の商品やサービスの口コミがあった。サービスを運用していて得られたものは、特定の消費者のニーズや購買の動機に関係性や共通点が見受けられるという「消費の文脈」が見えるようになったことだという。
関心空間では、消費者自身による購買動機分析までみてとれる。企業は案外消費者との接触機会を持っていない。消費者自身にブランディングやマーケティング、プロモーションまでしてもらうことが、CGMでは可能になるのに企業はうまくできていない。そこをうまく中立、仲介できるようにしていきたい。今後この「消費の文脈」をユーザー間だけのメリットにするだけでなく、「企業が持っている興味関心をテーマにユーザーとのマッチングをかけてお互いが興味を持ちそうなアクセスの経路を作って、そこに適合したくくりとつながりを作る」と述べた。

最後にモデレータの為定氏が、「今の消費者は放電する人も関心空間にしても例えば機能的に限られていても親しみを覚えている。しかしそれはネットに限らず消費者社会に現れている気がする」とした。
日経MJの年末恒例の「ヒット商品番付」では、必ずしも高機能が選ばれているわけではない。デジタル技術を駆使したものがヒット商品番付の上位に選ばれだしたのが、2002年くらいだが、その中でも生き残っているものは、不必要な機能を省いているものだ。高機能は残しつつもそれを感じさせないもの。例えば今年の横綱に選ばれているデジタル一眼レフは、複雑な要素を省いていった結果、高機能だけれど簡単で、かなり使いやすくなっている。これはつまりストレスフリーな使い勝手がヒットにつながるであり、ネット上のビジネスでもそういったものがヒットを生む要因になるのではないか。

また「生活の中でのネット利用がリアルかバーチャルであるか」「2007年問題で団塊の世代が引退することによって、ブログやSNS利用の変化は生まれてくるのか」「企業と生活者の対話には、CGMが介在し共感というドライバーが必要となる、その仕組みをどう作るのか」など興味深いディスカッションが行われた。

2007/02/17 00:00:00


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