PAGE2007カンファレンスのグラフィックスセッションD4「広色域印刷によって広がるビジネス」(2月9日 10:00〜12:00)について報告する。
本セッションは株式会社恒陽社CPL部長の石塚晃氏をモデレーターに、スピーカーとしてHexachromeコンソーシアムの三浦芳裕氏(株式会社研文社)、東洋インキカラーマネージセンター長の佐々木健氏、ハイデルベルグ・ジャパンのプリネクト本部の小宮増二郎氏をお招きして各自の立場から広色域印刷の現状と近未来について分析した。
デジカメやインキジェットプリンタの普及で、色再現技術に関してプロとアマチュアの差がなくなってしまった。またプロ向けのデジカメもデジカメ本体に「ベルビア風味(高彩度)」「アスティア風味(究極の肌色再現)」というような色再現モードが装備され、色演出に関してもデジカメがほとんどやってしまうようになった。そして今までどちらかというと馬鹿にしてきた動画の世界も高性能液晶ディスプレイが発売され、xvYCC(IEC61966-2-4)のようなAdobeRGBに迫る領域が静止画だけではなく、動画の世界でも普及されつつある。もちろんインキジェットの世界では顔料の開発と12色等の多色化により広色域化は日進月歩で進んでいる。
ハード(コンシューマ)の色再現はどんどん広色域になってくる。それに伴ってコンシューマの目もどんどん肥えてくる。そういう状況では、高精細印刷や広色域印刷(独立ではなくセットの場合が多くなるだろう)という付加価値印刷分野を伸ばすしか道は残っていないだろう。印刷の標準化だけではコストダウンに向かざるを得ない。
そんな状況説明からセッションは始まった。
研文社は高付加価値多色印刷を標榜してPantoneのHexachrome(CMYKOGの6色印刷)にたどり着いたが、まずはHexachromeのビジネス自体を大きくしないことには、未来はないとの判断から、競合のつぶしあいではなく、協業・市場創出を目指してHexachromeコンソーシアムを設立した。そこで技術的なことを再検討した結果、日本の品質に合わせたHexachrome基準というものを再構築する必要があるとの判断から、刷順やベタ濃度、線数などを見直し、ICCプロファイルを日本向けにチューニングしなおして、コンソーシアム参加者はそのプロファイルが使えるようにしている。
具体的にはただ彩度を上げるというものではなく、トーンのつながりを最重要ポイントとして、反転やトーンジャンプを考慮したものである。特に今まで不向きとされた肌モノにはオレンジが入らないような配慮をしてある。そのために独自のツール(MDツールNo.1〜No.4)を開発し、原稿チェックやプロファイルチェック、版面チェックを簡単化している。そしてコンソーシアムに入っている会社の品質レベルをキープしているのだ。 もっと噛み砕いて言えば、広色域印刷というと「ただ派手な色」というイメージが強く、そんな印刷物が一つでも流通すると、そのように言われてしまうからである。
そんな技術的努力により、グローバル企業からは注目されだしており、今後はPantoneカラーというグローバルスタンダードも武器にして市場開拓していきたい。
との発表があった。
CMYK高濃度インキの延長線上で顔料を見直し、四色のままで広色域再現が実現できないか?ということで開発されたのがKaleidoインキである。色域的にはグリーン領域が小さいものの四色でAdobeRGBに肉薄する色域再現が得られている。
再現色域を大きくするべく多色によるシステムも開発してきたが、市場性を考えると多胴印刷機(6胴以上)に比べたら圧倒的に四色機の数が多く、ビジネス上の判断もあり四色インキによる広色域印刷環境を目指すこととなった。現在手に入る顔料の中で最適なものを選択しているが、再現範囲はグリーンインキが無い分、グリーン領域の再現性は弱いのだが、シアンインキにグリーン顔料を混ぜてあり、エメラルドグリーン等の再現も考慮してある。
顔料だけではなく、ベタ濃度から見直し、結果的にはKaleidoは広(高)色域&高濃度印刷というものになっている。したがって単にインキを変更しただけでは本来Kaleidoが持っている品質の半分も実現できない。定数管理できるのがKaleidoを成功させる最低条件である。(しかし出来ている会社は少ない。残念ながら)というような「サジェスチョン」というか、「お願い」をプレゼンの随所で繰り返していた。定数管理が広色域印刷には不可欠であるということだろう。「印刷機の基準化・品質管理がされていること」「CTP が導入されていること」「RGB ワークフローが理解されていること」「ICC プロファイル運用が出来ること.etc」が導入前の項目である。つまりカラーマネージメントがしっかり実践されていることが、Kaleido導入のキーポイントということだ。
このことは、DTP段階のチント(網)指定にも言えることで、通常のCMYK網%をデザイナーが指定しても、Kaleidoでは顔料が違うので、異なった結果になってしまう。Kaledido用の網%で指定してもらうか、RGBもしくはLab指定してもらうのが基本である。ここでもカラーマネージメントの概念が基本である。
広色域・高精細印刷は「信頼性のある装置、安定性のある資材と環境で」「メンテナンスの行き届いた環境で」「明確な標準化の下で」「カラーマネージメントされた状態で」初めて可能になるものだ。
そういう切り出しでプレゼンは始まったが、具体的には「高品質印刷の能力を十分引き出せるオリジナル(写真原稿)」「精度の高い色変換ツール(シミュレーション・色変換ツール)」「デジタルカラーの正確な評価が可能な環境づくり」「刷版カーブのコントロールを含めた印刷の標準化」が高品質・広色域印刷の必須条件である。
そしてハイデルベルグが具体的に提供しているのがSFC(Super Fine Color)と呼ばれるCMYK+RGBの7色印刷と4色で広色域を実現したWide Color SCR-EXである。使い分け等の具体的な明言はなかった。
SFCの場合はとにかく色域の広さは特筆モノで、インキジェットプリンタでもSFCの色域をカバーするものは無い。しかし明言はしていないが、四色のSCR-EXの方を薦めているように感じた聴講者は多かったようだ。(印刷機メーカーの立場だけを考えれば多胴の方を売りたいはずだが)確かに色のつながりなどでは、遥かに四色の方が簡単で、現状を考えると現実的なのかもしれない。つまり製版能力が相当高くないと七色の版を作るのは難しいが、四色なら特別な製版ノウハウも必要ないということだ。しかし、印刷では製版とは逆に数値管理に慣れると多色の方が刷りやすいとも言われている。
注)3月5日に掲載した文章でWide Color SCR-EXがKaleidoの後追いで開発された印象を持たれた方がいらっしゃったようでしたが、Wide Color SCR-EXはKaleidoに先んじて発表されたものであり、誤解を与えないように記事を訂正してあります。
以上が三名からのプレゼンだが、熱のこもった説明で時間が無くなり、ディスカッションまで出来なくなってしまった。広色域印刷を活かす原稿というのがポイントのようだが、今後CGがもっと一般化してくると、単なるAdobeRGBということだけではなく、分光的な色のアプローチも必要になってくるだろうし、今後の動きと色材メーカーの研究開発で再現技術が進化するのは楽しみなことである。
2007/03/05 00:00:00