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JDF利用に向かうユーザー

JDFのコンセプトとともに語られる全体最適や生産性向上であるが一気にフルJDFに行けない。では、実際に導入を進めているユーザーが辿ったステップや、どのような経営的貢献が認められたのかなど、JDF向けた事例を先行ユーザーから伺った。(PAGE2007コンファレンス セッションE5 報告)

■デジタル・ネットワーク・ソリューション「JDFが実現する超効率化への道」
東京の(株)真興社の福田社長から、印刷機の機種統一から始まった生産の効率化への息の長い取り組みを伺った。

1.CIP4/JDF化の目標と6つの徹底
激変する経営環境に対応するための印刷経営のポイントは、従来のやり方を見直し新しいやり方に変革しなければならない。そのポイントは4つある。

(1)低価格で高利益(薄利多売の時代は終わった)
(2)高付加価値で高単価(顧客満足度の高い印刷をする)
(3)デイリー決算主義(一日ごとに収支報告する)
(4)単品利益主義(損して得取れの時代は終わった、一点一点の原価管理が重要)

この目標を実行するためには、段取り八分という言葉があるとおり、準備段取の徹底的にこだわっている。計画の徹底(決まったことを末端まで徹底する)、報告の徹底(報告、連絡、相談)、実行の徹底(決まったことを最後までやり遂げる)、フォローの徹底、反省の徹底である。JDF化することでこれらの徹底化が実現できて、その結果、作業時間が大幅な短縮、ワークフローを一気に効率化、コストの確実な削減することが大きな目標である。

2.導入の経緯
MANローランド社から1990年頃に印刷工場の群管理システムとしてPECOM(Process Electronic Control,Organization and Management)の構想が発表されており、DRUPA95ではオープンシステムとして業界横断的なCIP3/PPFが発表された。これらの新技術に大きな可能性を感じて、1996年からは印刷会社として最も大きな投資である印刷機を、同じ機種に揃えるというところから効率化を実現する構想に向かってスタートした。

・第1ステップ(1996〜1999年):
最初プリントサピエンス準備、1996年にローランド700を導入 TPPシステム、PECOMをベースとした印刷機械完全自動化(PPF)を実現した。
・第2ステップ(2000〜2003年):
2000年にローランド700 2号機を導入、Windows ベースのソフトウェア、Prepresslink / JobPilot / PressMonitorを導入。2001年にCTPを。2003年にローランド700 3号機を導入して、遠隔機械プリセットと群管理を実現した。
・第3ステップ(2004〜2007年): 2004年に高速型のCTPに入れ変え、JDFおよびJMFリンクを追加、自動ジョブ検索およびジョブ作製ソフトウェアを追加。DTP部門にネオストリームを導入して、工場全体の状況がリアルタイムで把握できるようになった。

これによって、MISから作業指示書、印刷予定表を作成し、ジョブをプリセットし実行する。結果が作業者により報告やバーコード等により実績報告されるようになった。進行中の印刷予定のリアルタイムな把握、連続するプロセスの制御、遠隔機械プリセッ、印刷工程の途中での手順変更・作業時間の実績と現在の状況からの終了時間を予測、実績データを利用して生産管理・生産計画、カラーマネージメントのサポートなどである。

3.印刷機の機種を統一
第2ステップまでで、3台全ての印刷機を同じサイズ、同じメーカーに統一し(ローランド700型印刷機 菊全反転4色機 フルオプション)、印刷版・咬寸法を同じサイズを統一した。印刷機も全自動化された品質管理装置付きの印刷機にした。DTP/刷版工程まで完全デジタル化してCTPからは印刷機のインキキープリセットをPPFデータで行う。

半歳のジョブも1色のジョブも全判4色機で印刷している。シリンダー充満度や半歳では版のムダが気になるところであるが、メリットとして印刷工程の機械の割り当てが必要なくなることでの、機械(オペレータ)同士の競争による生産性や品質向上の実現の方が、経営的には大きな意味となっている。

4.生産管理部からの遠隔操作
第3ステップでは、生産管理部をCIP4/JDFネットワーク化して間接経費の削減をめざしている。印刷機の準備作業を機械から切離して事務所で行う。印刷機は印刷のためのもの、準備時間を節約しジョブの準備を事務所から行うことで利益を獲得できる。 利益を得ることができるのは印刷機が稼動しているときだけなので、印刷機を停止させない仕組みにした。各ジョブの開始時点も管理している。

5.CIP4/JDFの導入結果
激変する経営環境に対応するためには従来のやり方を見直し、新しいやり方に変革しなければならない。CIP4/JDFの導入によって、次の4つの改革が実行できるようになってきた。

(1)能力主体性の給料体系の実現
 偏見に満ちた評価から客観的な判断による査定
(2)トレーサビリティの実現
(3)透明性の実現
 お得意様から見える会社の姿勢
(4)ぶんちん型経営の実現
 間接人件費の削減

仕組み仕掛けはできたので、いかにこのシステムを生かし、運用するか。 印刷業としての最後のビジネスモデルチャンスとしてCIP4/JDF生かし、印刷会社自身ための差別化に役立てていく。


■東和印刷のJDF化への取り組み
東大阪市の東和印刷(株) 品質管理部の高本様からはMISを中心にしたJDF化への取り組みを伺った。設備はプリプレス工程一式、CTP 2台、枚葉オフセット(菊全判、菊半歳)3台、オフ輪(B2)2台、 紙面検査装置、中綴じ製本機 2台などがある。
JDF化には、(1)リアルタイムに情報共有するために、古い機械でもパソコンを脇に置いて作業伝票を出力する、(2)もっと正確に数字を把握するために製版・刷版・印刷機(1台)は自動トラッキングしている、(3)単なる装置の自動化だけでなく、工程間のつながり、例えば印刷オペレーターが刷版出力してもよい、(4)現場の意識を変えるために、という4つのポイントがあるという。

1.基本的な流れ
「作業伝票の無い作業は行なわない」、つまりお金のやり取りが不明確な作業はしないということが大原則である。そのためにクライアントへの見積りは全ての項目を入力し、受注入力ではその時点で掴んでいる情報をMISに入力する。JDF入力もあるし、手書き伝票も残っている。いずれにしても各工程に仕事が入った場合は必須であり、予定段階でもMISに入力する、変更はその都度入力する。スケジュールは受注入力時点で未確定な要素があっても無視して予定を立てるが、下版時点では情報が確定している。生産工程では入力情報を元にして作業を行なう。そして実績収集を行ない、各工程毎の原価集計及び作業時間の集計を行なう。JDF対応機器については自動で実績記録するが、未対応機器は実績入力画面で記録している。
納品について、配送業務は全て委託となっているため、前日と当日に出荷指示の一覧によって委託先と調整する。売上はクライアントごとの締め日までに売上処理を行う。締め日に確定できない場合は、別途理由書を提出している。締め日の後に請求書を発行する。

2.基本方針
MISなどのシステムは使って駄目なら元に戻せばいい「押して駄目なら 引いてみな」というスタンスで取り組んでもらっている。システムの切替えが必要な時には、すぐにでも実行する。「徐々に切替えていきます」といって出来たためしは無いということを社員にも徹底している。
また、各自は自分のナレッジをデータベースに記録することが基本であり、個人にしか出来ない高い技術を持っていても共有できなければ、そのスキルは会社としては評価しないことになっている。

3.将来の展望
次の3つのポイントを考えている
・JDFの更なる活用をすすめる
  あらゆる工程はJDF等のデジタルテクノロジーで統合される。
・蓄積データの活用をおこなう
  記録された様々な情報はダイヤの原石。磨けば磨くほど光り輝き価値が上がる。
・人的コミュニケーションの向上を図る
  機械任せでは出来ない事はやはり人間のコミュニケーション力が必要である。


■MISと製本加工機のリンクから始めるJDF化への取り組み
福島市の(株)日進堂印刷所 佐久間社長様からはMISと製本機のリンクから始めたJDF化への取り組みを伺った。製本機から始めたのは、設備投資ということから考えて、取り組みやすかったからだという。

1.JDF導入の経緯
以前は手書きの作業日報をOCRで読み取り、稼動状況の記録、個別原価・部署別損益を算出していた。DRUPA2000でJDF発表を見て、その後の導入機材に関しては、「JDF(CIP4)に対応していること、または将来確実に対応できるもの以外は導入しない」との会社方針を打ち立てている。

2.導入機材
PDFワークフローサーバー(PRINERGY)により、校了後データのRIP、プルーフ出力〜CTP出力までの情報を管理を行っている。 2台のCTP(Trendsetter 3244+V AL、Lotem800U Quantum V + Mcu)はFMスクリーン印刷に対応している。
枚葉機は菊全判SM102-4PA型4色両面オフセット印刷機、オフ輪はコモリのシステム35SU(B縦半裁両面4色)とシステム38S(A横全判両面4色)には、コモリハイパーシステムAI(Advanced Interface)を搭載し、印刷準備時間の短縮、損紙の削減を図っている。 そして製本機・折機・断裁機はホリゾン社製ですべてJDFに対応したi2iSystemで接続している。高速無線綴ライン(CABS5000)、ペラ丁合鞍掛け中綴じ製本システム(StitchLiner5500)、ミシン・クロス16頁・DM折機(菊全)AFC-664AKT、同8頁・DM折機(菊半)AFC-546AKT、コンピュータ制御断裁機 APC-66D-66D。

3.MIS
オリーブのPrintSapiensで、CIP4(JDF/JMF)対応の各種生産管理システム間でデータのやりとりが可能。原価や作業の進捗状況をスピーディに把握し、現在は売掛、買掛まで処理しているが、今年度中に製本システムのi2iSystemと完全の接続する予定である。

4.製本システム i2i systemの現状
(1)コントロールPC(部署長机上)
◇作業前(以下の情報を入力)
・得意先情報(オーダー番号・得意先名)
・納期(工程スケジュール)
・数量・加工内容(折加工・中綴じ・無線綴じ)
・寸法(リピート物の場合は前回のセットデータを呼び出し、新組の場合は空で)
・機種名
◇作業中
・各機械の進捗状況を閲覧し、営業や進管からの進捗確認に対応
◇作業後
・終了した各機械の稼動データ(数量・時間)を管理

(2)サテライトPC(各機械)
◇作業前
・作業予定に従ってコントロールPCで入力されたセットデータを、オーダー番号で呼び出し機械に送信
・セットデータを受け取った機械は自動でセットを行なう。
・リピート物の場合は前回のセットデータを使用する為微調整でセット完了、新組の場合は空で送信の為寸法を入力する必要あり。

◇作業中
・サテライトPCの開始ボタンを押すと時間が動き出す
・作業を始まると数量がカウントされる。

◇作業後
・サテライトPCの終了ボタンを押すと、数量と時間が停止し作業が完了。
・今後のスケジュールを閲覧し、作業の繁閑を確認。

5.i2i導入効果
◇プリセットによるセット時間の短縮
・2006年度平版枚葉印刷全体の30%でi2i system使用
・従来の機械(手動セット)に比べ、約30%短縮
・リピート物は、さらに約10%短縮

6.今後の課題とスケジュール
MISを立ち上げ、各システムを接続することにより、各工程での入力作業等を軽減→コスト削減を図っていく。今後は、各システムの接続、JDF未対応の古い機械の扱い、JDF対応と言っていながら、実際には対応していない機械の扱い、メーカー毎のインターフェースの違いなどの課題を解決していかなければならない。
スケジュールは2007年にMIS完全導入とMISとi2iを接続、2008年にはMISとワークフロー(Prinergy)を接続してMISと印刷機との接続も行なうことを計画している。

(PAGE2007 コンファレンス セッションE5より、文責JAGAT)

2007/03/09 00:00:00


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