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MISにおけるデータマネジメントの重要性

印刷業界においてもデジタル化が進むにつれて、これまで紙ベースで管理していた情報が、益々電子データに変換され、アナログ主体の業務プロセスから、デジタル主体のデータ送受信へと変換される。日常の基幹業務データをコンピュータに蓄積していくと、そのデータ量は膨大になり、タイムリーな情報の検索・活用、システムダウンに伴う影響度の深刻さが企業活動そのものを脅かすようになってきている。そこで、今回は特にMISなど基幹システム構築における、データ増加に伴う、技術的な側面についてみてみる。

■基幹データを取り扱うMIS
 MIS(Management Information System)は、企業活動の基幹情報や取引情報を取り扱い、基幹業務のスピード向上、自動化によるミスやロスの低減、有益な経営情報の提供などをコンピュータシステムで実現する。MISは企業外部からはなかなか見えにくく、模倣困難なため、事業の付加価値向上、他社との差別優位化を促進させる。
 従って、コンピュータベンダーの技術革新も日進月歩である。最新テクノロジーは、大手中心にまず導入が始まり、初期の不安定要因やゆらぎが落ち着いてから、ダウンサイジングとともに、中小中堅企業へと、普及が始まるのが世の傾向のようである。
 通常、デジタルネットワークの形態として、MISのサーバコンピュータとクライアント、つまり端末(典型的にはパソコン)からデータが入力され、ネットワークを介して、サーバのデータベースに送信される、またはその逆の処理が行われる。このデータ処理形態は良く知られており、専用インターフェースを使おうが、ブラウザを使おうが、処理形態は皆同じである。

■抜本的にデータ処理の有効性、有為性を上げる
 デジタル化が社内で進み、データ量が増加してくると、データベースの容量を増やす必要がある。データベースを格納するストレージが高価であることを考えると、業務ごとに個別にサーバを用意し、データベースを構築すると非効率な面が出てくる。ハード面の非効率性として、あるAという業務用のサーバではデータ使用率が95%でストレージ上に空きスペースがほとんどなく、B業務用のサーバでは、ストレージのデータ使用率が50%程度となっている場合、A業務がB業務の空きスペースを共用できると非常に効率的である。B業務用の空きスペースをA業務で共用するのであれば、ストレージを新たに増設する必要がない。ソフト面の非効率性としては、段階的でバラバラなシステム導入の結果、異なる業務による種類の異なるデータに対して、個別にデータベースを構築しデータベースが複数存在することになり、経営情報などをまとめたり、部門横断情報を検索・加工する場合、ネットワークを介して、サーバ−サーバ間のデータ送受信、連携を行うことになる。しかし、データ量が増加するとネットワークへの負荷が高まりレスポンスが落ちてくることや、必要なデータが分散し管理する手間も増大する。この様な時に各業務のデータが1箇所のストレージにまとめてあれば、ネットワークやデータ管理の負荷も軽減され効率性が非常に高まる。
 そこで登場した技術が「SAN(Storage Area Network)」である。サーバとストレージ間を接続する専用のネットワークを形成する。一般的にサーバとストレージ間の伝送は、LANに比較し桁違いに早い。大きなストレージ(データのプールと思えばよい)を用意し、各サーバを接続しデータを共用できるようにする。ストレージ統合、異種サーバ間データ共有、ストレージ統合管理、などとも言われる技術である。現在は、主としてファイバチャネルを利用し、サーバとストレージをネットワークのように接続する形態が実用化されている。

■中小規模のデータ共有
 上記のように従来のLANとは別にストレージ専用のネットワークを設定するのは、多少大掛かりになり、資金や時間的な第1次的投資もかかる。そこで少し手ごろにサーバ間のデータ共有を可能にするのが、「NAS(Network Attached Storage)」という技術である。
 ストレージ専用のネットワークではなく、従来からのLANに、ストレージを直接接続して、NFS(Network File System)やCIFS(Common Internet File System)といったファイルシステムによりアクセス可能とする技術である。NASはLANを介してファイルを共用できる独立したファイルサーバであり、ネットワーク上のクライアントからは従来のファイルサーバと同じようにアクセスすることができる。従来のネットワークを使うため、新規のLANの増設は原則不要であり、比較的資金的、時間的な投資が軽くて済む。

■データの統合と可用性の問題
 いずれにしても、データの増大に伴い、高価なストレージを有効に使用するための物理統合を進めると、おのずとトレードオフとして、データベースがダウンやクラッシュした場合のインパクトも広く深くなり、深刻さを増す。全社レベルでデジタル化が進めば、より多くの情報が電子データとしてストレージに格納され、その消失打撃は益々拡大することになる。
 そこで、さらに高可用性(ハイ・アベイラビリティ)システムを必要とすることになる。システムの平均的な故障と故障の間隔、つまり稼動時間「MTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)と、システムに故障が生じてから復旧までの平均所要時間「MTTR(Mean Time To Repair:平均修復間隔)」とから、稼働率、つまりMTBF/(MTBF+MTTR)を向上する仕組みが必要になる。このソリューションとして重要な技術が、RAIDとクラスタリング、である。
 RAIDは、ストレージ内における障害に対応して、データを保護する仕組みである。レベルが幾つかあるが、主にミラー化(データを保存時にコピー)と、パリティチェック(消失データをパリティによって管理)である。ストレージ内のディスク上の障害に対して、データを保護、または復旧する技術である。  一方、クラスタリングは、ストレージを2台用意し、片方のストレージを「メイン」、もう片方を「サブ」として、通常はメインで運転し障害を検知したときに、サブに切り替える技術である。

■今後のMISシステムの拡張は避けられない
 今後、印刷企業においても、MISを中心にデジタル化が加速すると、取り扱うデータは非常に増大する可能性が高い。その場合、取り扱うデータへの依存度合いも指数関数的に高まるリスクがある。指数関数的と言ったのは、リスクと言うものが、「発生頻度」×「インパクト」で表されるからである。リスクのレベルを分類する場合、多頻度で発生しなおかつその時のインパクト(障害の影響度)が大きいほど、リスクのレベルは高くなる。デジタル化が進み、電子データが増加すればストレージやディスクを増加することになり、障害の発生機会は増える。また業務上デジタル化が進む範囲が増えることで、システムの停止のインパクトの影響度は、部署単位から企業全体、顧客や消費者といった社外にも及ぶことになってくる。
 今後、デジタル化が推進され、システムの拡張が不可避となるが、一方で企業のケアしなければならない可用性への配慮も必要となる。そのことにクローズアップして、デジタル化に反対を唱えるつもりは毛頭ないが、システムの拡張における負の側面への配慮は、昨今の企業倫理や社会的責任を考える方向と同じであるかと考える。

2007/03/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会