◆近藤 友
私がこの業界に足を踏み入れたのは16年ほど前、DTPは今ほどメジャーではなく、手作業で行う製版が主流の時代でした。当時は切り抜きの腕前がそのまま品質の良しあしになるくらい重要で、見習いのころは徹底的に切り抜きの練習、カッターの使い方を仕込まれたものです。写真の色調修正に関しても、現在のようにモニタで確認ということはできず、補正したい部分を残したマスクを作り、焼き加減、あるいは減力液を用い、ルーペでのぞきながら直接フィルムに手を加えるという難易度の高い職人的な作業でした。
やがてMac によるDTPが普及し始め、当時私が在職していた会社でも導入が始まりました。ほとんどのことがモニタ上で確認できる画期的なもので、先に述べた色調修正もPhotoshopなどを使えば短時間で終わり、ある意味カルチャーショックを受けました。それと同時に職人的な技術よりも知識(情報収集)に特化することを求められる時代が来たなと実感したのを覚えています。
DTPエキスパート認証取得をしようと思ったきっかけは、現在在職している会社で、社員教育(特に営業・工務)の一環として、この試験を奨励していることと、現場のオペレーターで何名か取得しているので、先輩として発言に説得力をもたせるためにも必要不可欠だったからです。
幸いなことに、過去に現場全般の作業、営業のサポート活動、ディレクションなどひととおりの経験があるので、筆記試験自体はあまり縁のない部分を除き、さほど苦にはなりませんでした。賛否両論あるこの試験ですが、基礎がしっかりしていればできるというあかしになったと思います。よってベテランには己の力量を確認する場になり、ビギナーや営業の方などには普段あまり接しない部分を勉強する良い機会になるのではと思います。
私は画像関係の作業を中心に、新人教育などの業務も行っているのですが、画像処理周りで、営業からの指示が不十分なことに苦心しています。例えばお客様の頭の中ではこうしたい、ああしたいというビジョンはあっても、それをどう制作側に伝えればよいのか分からない場合があると思います。そこで営業が「クライアントの意図を読み取って制作側に持ち帰り指示すること」ができれば、交渉がスムーズになり、お客様の満足度にもつながるはずです。「客が言ったからやるしかない」という意見もあると思いますが、それはお客様とうまくコミュニケーションが取れない言い訳です。工夫してどうにかなることならともかく、物理的に不可能な注文は制作側でどうすることもできません。またお客様もそれが無理なこと、行うことによって品質に問題が発生することとは知らずに指示を出される場合もあるのです。つまりお客様を不快にさせずに、できないことはできないと論理的に説明できる交渉力や、トラブルを防ぐための代案を提案できる応用力、そしてそれら交渉力や応用力の裏付けになる知識が必要になってくるのです。
残念なことに、業界の傾向としてこのお客様とのコミュニケーションが不十分になっているのを感じます。お客様の言うとおりにやったから満足されるだろうという考えは軽率です。前もってお客様に何の説明もせず、無理な注文を引き受けて、結局中途半端なものを仕上げてしまってはお客様もガッカリしますし、下手をしたらクレームになりかねません。そうなるよりもしっかり交渉して、交渉内容からお客様が想像したとおりのもの、場合によっては想像以上のものを仕上げたほうが、信頼関係は深まると確信しています。
今後の取り組みについては、当社のアドバンテージであるヘキサクローム印刷を広める活動をしたいと考えています。特にRGB素材のものを扱う企業の方や、CGデザイナーの方などには、通常のCMYK印刷では再現できない、RGB特有の彩度の高い色域(グリーン、オレンジなど)が紙上で再現されている様子をご覧いただきたいと思います。
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2007/05/14 00:00:00