敵にまわすと自分が滅びるものがある。それと寄り添っていくためには自分を変えなければならない。5月に奇妙な出来事があった。アメリカでコピー防止関係のソフトを作っている会社が、アップルやマイクロソフト他が自社のソフトを使わないのはデジタルミレニアム著作権法に反するという訴えをしていることだ。これをどう考えますか?
まだ訴訟ではないが著作物の保護を回避してはいけない法律があるので、コピーできる余地が残っていることが問題だという指摘である。今のところこの会社の言い分に賛同は聞かれないようだが、これが話題になるのは逆にデジタルミレニアム著作権法が本当に必要だろうかという心理が一般的にあるからではないか。
デジタル著作物の保護手段を求める声は以前からあって、コピー防止技術やDRM(Digital Rights Managementデジタル著作権管理)のシステムがあるが、完全な保護を前提にビジネスを考えようという指向は特に既存の業界に多い。こういった議論ばかり10年以上延々と行っていて一向にビジネスが立ち上がらない分野もある。
日本の工業製品国内出荷統計ではデジタルオーディオプレーヤの出荷は前年よりもマイナスだが、Appleを入れると前年よりも増えていることは間違いない。楽曲のダウンロード販売の分野で業績を伸ばしているAppleのスティーブ・ジョブズはDRM不要論を言い出し、AmazonもDRM無しのmp3楽曲配信を行うと発表した。デジタルミレニアム著作権法と反対の道を行くところがビジネス的に成功しているのは奇妙でもある。
問題は不正コピーがはびこって有料コンテンツのビジネスが成り立たなくなるかどうかである。これに関しては緩やかなDRMであるアップルのiTuneでも十分に利益が出ていることや、Wikipediaのようにネット上で不特定多数の人が関与していても信頼関係を築いて情報提供の仕組みを動かすことが現実にできたことも、影響を与えるだろう。ネットの利用者を悪人とみなしていてはネットでビジネスを成功させることはできないので、ラジカルトラストはデジタルメディアビジネスの踏み絵ともいえる。
(クロスメディア研究会会報215号より)
2007/05/21 00:00:00