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柔軟な著作権ルールで情報流通の発展をサポート

この記事について
本稿は日本印刷技術協会発行『プリンターズサークル』2007 年7 月号に掲載し ている記事をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで配布するものです。



この作品はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開しています
森・濱田松本法律事務所弁護士
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン専務理事
国立情報学研究所 客員准教授 野口祐子

クリエイティブ・コモンズとは

クリエイテ ィブ・コモンズは、著作物一つひとつに権利者が 一定の範囲での利用を事前に許諾したライセンス を付け、分散的に著作権処理をしようというもの だ。著作物を作った各クリエイターが、自分の意 思で、一定範囲での利用を自由に許諾するライセ ンスを付ける。ライセンスの付いた作品が次第に 世の中に広がる。それによって、より柔軟なルー ル下でのコンテンツの流通と創作をサポートしよ うとする、草の根的アプローチのNPO である。

具体的には、次のような仕組みだ。 まず著作権者が、クリエイティブ・コモンズ・ ライセンス(CC ライセンス)を付けて作品を公 開する。クリエイティブ・コモンズのホームペー ジに公開されている質問に答え、その結果表示さ れるHTML をホームページに貼り付ければ完了 だ。その際、自主的に4 種類のマークの取捨を選 択する。「表示」「非営利」「改変禁止」「承継」の マークである。これらの4 つの条件を組み合わせ た6 種類のライセンスが、基本のライセンスとし て用意され、世界中に共通のルールとして利用さ れている。


1]表示
著作物を自由に使う代わりに、著作権者 の名前、著作物のタイトル、発信元のURL など、 権利者の希望する一定の情報を、その作品の利用 形態にふさわしい範囲で表示することを義務付け る。現在では、すべてのライセンスにこの条件が 付いている。作品を一定の範囲で自由に使ってほ しいと考える権利者の中には、自分の作品が広く 知られ、それによって自分自身もまた有名になり たいと考えている人が多いことに由来している。

2]非営利
非営利の目的であれば利用して構わな いという条件である。例えば個人のブログやサー クル、学園祭などで利用する場合には、対価を徴 収しない限り許諾は必要ない。裏を返せば、営利 目的で利用する場合は、別途許諾を得る必要があ る。将来的な方向性としては、権利処理にうまく つなげていく仕組みの構築を権利者と相談しなが ら進めていきたいと考えている。例えば、先述の ポータルサイトが実現する時には、CC ライセン スにおける自由利用の範囲と、別途許諾(および 許諾料)が必要な範囲が明確になっていれば、権 利者と利用者の双方の手間が省略でき、より円滑 なコンテンツ流通が望めるであろう。

3]改変禁止
同じ形態での利用のみを許可する、 改変禁止のライセンスである。改変をする場合は、 権利者に別途許諾を得る必要がある。

4]継承
継承のライセンスを選択した場合、改変 は許諾されるが、CC ライセンスで許諾された作 品を元にして自分の作品を作った場合には、その 作品が元の作品と同じライセンスを継承すること を求めるライセンスである。

このようなCC ライセンスを利用することで、 アナログ時代の著作権法と現 在の情報流通のあり方のギャップを埋めること ができる。それは、以下のようなCC ライセンス の特徴に由来する。

第1 に、デフォルト(原則)が禁止ではなく自 由であることである。4 つの基本ライセンスの組 み合わせにより著作権を気にせず作品を利用でき る。しかも、許諾の範囲内の権利をすべてパッケ ージ化しているので、放送、複製、インターネッ ト上の利用といった利用形態ごとに許諾を取り直 す必要はない。

次に、権利者を探す必要がないということであ る。CC ライセンスは作品と一緒に流通する仕組 みになっているため、その範囲内なら権利者と交 渉する必要がない。当然、権利者の連絡先も知る 必要がない。

メタデータが付いているので、コンピュータに もライセンス条件が理解できるような仕組みを備 えている。そのため、検索エンジンでもCC ライ センスの条件を指定したコンテンツ検索ができる し、この仕組みは一般に公開されているのでライ センスを付けるツールを自分のソフトウエアに組 み込むこともできる。

従来でも、「転送は自由です」など、コンテン ツに一定の自由利用のルールを書くケースはしば しば見られた。しかしながら、少し具体的なルー ルになると、必ずしも明らかでない場合が多かっ た。CC ライセンスは、これらの自由利用について、 世界共通のライセンス・ルールを提供しようとい う試みなのだ。国境のないインターネット時代、 そして、複数の著作物が交じり合うマルチメディ ア時代にあって、世界共通の標準化されたルール の重要性はますます高まっている。

利用が広がるCC ライセンス

現在、クリエイティブ・コモンズでは、各国の 法律専門家でネットワークを構成し、各国の著作 権法に即した各国法準拠版を40 以上発表してい る。ライセンス数としては、2002 年12 月の活動 開始当初は、世界中で100 万点ほどのCC ライセ ンスが利用された。それが、3 年半後の2006 年 6 月には世界中で1 億4000 万ライセンスになり、 現在ではほぼ2 億以上のライセンスが利用されて いると推定されている。

最近日本でも、大手の企業が提供するサービス での採用が急増している。その内容は、写真のア ーカイブや動画共有などが多いが、中でも、印刷 分野での大変面白い試みとして、学習研究社(学 研)の雑誌サイト「valuenavi」における採用例 がある。

「valuenavi」は、『GetNavi』『WATCH NAVI』 『GET ON!』という学研の3 つの雑誌の総合サイ トである。雑誌に掲載している記事や写真を サイト上でも紹介し、オンラインで販売する仕組 みである。

サイトを見たユーザーは、自分のブログで気に 入った商品の記事や写真を紹介することもでき る。図2 にあるように「画像とテキストを使う」 という部分をクリックして画面の指示に従うと、 CC ライセンスの下にテキストや画像を貼り付け ることができる。この場合のCC ライセンスの種 類は「原著作者のクレジット表示、商業利用禁止、 改変禁止」である。このように学研の著作権をき ちんと保持しながら、ブログによる口コミ効果も 狙うことができる。

CC ライセンスは、紙媒体にも付することがで きる。最近、米国などでは、紙媒体の本を売りな がら、同時に全文のPDF をWeb 上でも公開する 書籍が増えてきた。Web 上に全文を公開すると、 立ち読みだけして書籍を買わない人も出てくるだ ろう。しかし、検索エンジンの発展を受けて、 Web 上に公開された書籍が多くの人に見られる ようになると、結果として本に興味をもつ人の数 も増える。面白いと思う人の中には、本1 冊をプ リントアウトするのではなく、本を購入する人も 案外と多い。

こうして、中身を広く公開しながら、同時に書 籍も販売する手法は、新しい試みとして注目され ている。実際に、南アフリカの学術出版社 Human Science Research Council では、出版物の 本文すべてをPDF データにして、CC ライセンス を付けてインターネット上で公開した。それによ り、ネット検索で書物に興味を示す読者が急増し、 結果的に売り上げが3 倍になったという。 日本でも、インプレスR & D が2007 年の4 月 に『WEB2.0 の未来 ザ・シェアリングエコノミー』 という書籍でCC ライセンス「表示−非営利」を 採用して出版し、Web 上でも記事を公開してい る。

(「プリンターズサークル」 2007年7月号より一部抜粋。全文はこちら

2007/08/05 00:00:00


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