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伸びるDM市場

過去にJAGATではDM関連市場規模を約1兆円と推定した。これは印刷、メーリングサービス、配送等すべての業務を含んだ推定である。昨年の郵政民営化委員会への報告の中でこの数字が引用され、この市場規模はほぼ妥当な数字として認知された。

この市場を牽引しているのはメール便と広告郵便である。信書等の通常郵便物が減少しているが、堅調な動きをしている。商業印刷物全体の中でもプロモーション関連が比較的好調な事と根は同じである。万国郵便連合ダイレクトメール諮問委員会より、日本は初期段階から成長期の境にいるとのデータが発表されている。このデータから日本でこれからDMが急速に伸びるという論陣を張る方がでてくるが、課題も多い。特に文化的な背景を考慮する必要があろう。

一例として欧州がある。欧州のDM普及状況は、米国と日本の中間に位置するが、欧州を一律に論ずるのは困難である。ダイレクトマーケティングにおいても国毎に別々のアプローチをする事が常識になっている。また他国で成功したノウハウをそのまま持ち込んでも成功はおぼつかない。国土が広く交通が不便な開放型の社会であれば比較的に容易にDMは普及するであろうが、国土が狭くかつ比較的閉鎖的な社会では普及に時間がかかる。

Face to Face のコミュニケーションを基本に置き、この前提でどうDMを活用するか、が日本の場合、特に中小企業にとってはレスポンスを上げる重要なポイントとなろう。ヤマト運輸グループでは、ダイレクトマーケティング分野の先人であるドイツポスト傘下のDHLグローバルメール・ジャパン(株)と提携し、DMの企画会社であるヤマトダイアログ&メディア(株)を設立した。海外のノウハウを日本向けに取捨選択・アレンジしてサービスを開始している。また昨年夏以降ヤマトグループ全体の力を結集し、まず通信販売業界向けにワンストップサービスを開始した。また大日本印刷(株)とシートメールに関する業務提携の発表があったのはご存じの通りである。PAGEのF1「ダイレクトマーケティングツールとしてのDMの可能性」ではこのようなヤマトグループの最新の戦略について報告をしていただく。一方、日本郵政公社の民営化により新しく郵便事業株式会社がスタートした。経営上、一定の制約がまだ課されているとはいえ、公社時と比較し、活動の自由度が大幅に増加した。昨年民営化委員会に答申した(株)電通と企画会社を合弁設立する件についてもヒアリングを無事終了し、予定通りスタートする。また料金変更手続きが従来より簡単になった事から、ゆうメール等を個別に契約できる事で大口利用者のメリットが拡大する事になろう。このような、新しい『郵便事業』の戦略についてその背景等、意図を基調講演A1「日本郵便の広告市場参入:ダイレクトプロモーション活性化へ」で執行役員に直接お話しして頂く。巨大組織がどう動くのか、また印刷業とどう関係するか、ご確認いただきたい。

一方、広告代理店各社はダイレクトコミュニケーション分野での再編を昨年から急速に具体化させている。(株)電通では前記の郵便事業株式会社との合弁、また昨年(株)電通ダイレクトフォースを設立、ADKでも本年1月に(株)ADKダイアログを設立した。博報堂DYもグループ内での協力体制を強化している。このような発注側サイドの変化についても印刷業界として留意する必要があろう。

F6「Web2.0時代における広告会社と印刷会社の協業」ではWeb2.0時代を迎え、広告業界と印刷業との協力可能性、前提条件等についてADKよりお話しいただく。また、F2「広告業界の中でのDM利用動向」では広告業でのDM利用動向について豊富な事例を(株)電通ダイレクトフォースより報告いただく。

さて、実際に印刷会社が自社DMを提案したり、また実際に企画・デザインを行う場合の留意点は何であろうか?昨年のDM大賞の応募作品を見ると、個人的見解ながら約8割程度は、単にDMを作った、という作品であった。発注者の意図、またプロモーションのどの段階のDMなのか等を理解しないで作られている作品が非常に多い。市場に出回っているDMはこの傾向がもっと顕著なのではないかと考える。発注者の意図やプロモーションの段階によりデザインやコピー等は変わるはずであり、また受取側の状況によっても内容が変わるはずである。ブランド広告と異なり、レスポンス率が向上しなければDM本来の活用をした事にはならない。印刷会社の役割として発注者の意図等を『翻訳』する作業にもっと力を注ぐ必要があるのではないだろうか?

F5「最近のDM手法の盲点解決法とそれを活用した印刷業界の可能性」では制作の現場経験豊富な講師からこの点について詳細な報告をしていただく。空理空論ではなく現場で役立つ考え方をぜひ参考としていただければ幸いである。また F3「レスポンスとブランドの両立」ではもう少し広い立場で講演いただく。 商業印刷で主流の新聞・チラシ等のブランド広告とDM等のレスポンス広告がどう異なるか、なぜ異なるのか原点を振り返っていただき、日頃の印刷業務とは考え方を切り替えていただくのが狙いである。講師は両方の分野の経験があり、またDMA国際エコー賞を過去受賞した前ラップコリンズ社の代表である。発注者の一員であった経験も踏まえてお話しいただく。

先にDM関連市場規模が約1兆円と述べたが、印刷業界の下流側に位置するメーリングサービス業の市場規模は、2500億〜2700億円と推定される。印刷会社で封入・封緘機等を導入することは、受注DM通数や頻度の点から現状では投資回収できる状態ではなく、メーリングサービス業界の協力が必要となる。また個人情報保護責任の点から考えてもこの業界に参入するリスクは大きい。一方、メーリングサービス業界では発注側からの要請で印刷も請け負う等、ワンストップで仕事を任されるケースも増えつつある。この状況が急速に拡大するとは思われないが、我々も隣接業界の状況をもう少し把握してゆく必要があろう。なお郵便事業株式会社ではパートナーシップの強化のために昨年11月にビジネスパートナーサポートセンターを旧東京中央郵便局内に設置した。まず東京地区から強化する予定で、日本メーリングサービ協会の会員企業との関係を強化してゆくとの事である。

さて最後になるが、DMは費用が高いと思われている方が多い一方で、費用ではなく『収益』源とする工夫も一部業界で開始されている。単に報告やご案内を送付するのではなく、受取り側のニーズに合致した情報を提供するとともに、広告費を得る試みである。 F4「TransPromo(トランスプロモ)を実現する最新のソリューション」ではグループワンソフトウェア(株)より明細書を中心とした試み(トランスプロモ)についてお話しいただく。費用ではなく収益へと発想を変える試みをお聞き下さい。


以上、今回PAGEでは新たに、郵便事業株式会社、ヤマトグループ(ヤマト運輸株式会社、ヤマトパッキングサービス株式会社、ヤマトダイアログ&メディア株式会社)、日本通信販売協会、日本ダイレクト・メール協会、日本メーリングサービス協会の協賛を頂きました。この背景で新たに本DMソリューショントラックを構成しております。多数の御聴講をおまちしております。(文責 松縄正彦、大久保充)

(2008年1月)

2008/01/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会