JDFは規格面ではかなりこなれてきている。CIP4主催の相互接続テストを繰り返すことで、メーカ間の設備同士、システム同士では問題なくつながるということが実証されている。一方でユーザが運用するとなると、また違った壁があると思われる。「全体最適」や「自動化」はそう簡単に実現できるものではない。
そこで、ユーザの立場から目指している到達点と現実とのギャップを問題提起するとともに解決方法を議論した。
JDF/MISの開発計画として、以下の3つのフェーズを想定している。
○第1フェーズ CTP・印刷工程までの省力化
○第2フェーズ 加工・デリバリ工程までの省力化
○第3フェーズ 全体最適化と生産性向上、自動化促進
(株)小森コーポレーション、大日本スクリーン製造(株)、(株)トスバックシステムズの3社との実証実験は第1フェーズにあたる。各ベンダー同士のテストレベルでは問題なく接続が確認され、その結果をIGAS2007のJDFパビリオンにて報告した。
第1フェーズを終えての社内の声としては、「印刷工程は、すでにCIP3によって充分に恩恵に預かっており、印刷工程までのJDF連携では業務効率化にはならない。一方で、部品構成や工程が複雑な冊子やパッケージ、DMといった仕事の加工工程以降をJDF化できるかどうか疑問」。あるいは「作業計画は印刷1台単位の細かさで行う必要があるので、従来以上に時間がかかっている」というネガティブな意見もあるが、JDFの実績データを活用しつつMISからアウトプットできるようにしたものとして、各号機の生産状況(稼動/非稼動時間のグラフ化)、各号機の生産高、通し数実績(日次参照が可能に)などがある。
実証実験を行っての反省としては、何のためにJDFを導入するかを経営的視点と生産的視点の双方からもっと具体的に検討する必要性があると感じている。そこで、改めてJDF/MISに関わる自社の課題を洗い出してみた。
・ホワイトカラーの生産性向上
・ペーパーレス、ワンライティング(重複入力レス)
・全工程において進捗状況がリアルタイムで確認できる
・週次/日次においても精度の高い経営判断ができる
・ワークフロー(生産ライン)から「人の手」を減らす
・コミュニケーションエラーの削減
・PODとのハイブリッド・ワークフローの確立
結論としては、JDFワークフローに取組むことがこれらの課題解決への一番の近道であり、いま苦労してでもJDFに取り組んでいきたい。
JDFの導入で期待できる効果は次の4点である。
(1)生産工程の省力化・効率改善
JDFの導入前は現場のオペレータ頼りの生産であり、納期を守るためにその場しのぎの対応になりがちであった。そのため細かい進捗は現場に聞かないとわからない状況であったが、JDF導入後は、生産管理部のほうで精緻な日程計画を立てるようになった。品質についてもオペレータ任せであったものが、機器のプリセットにより作業の平準化と品質の安定化が図れている。また、過剰在庫(材料・製品)の削減という効果も出ている。
(2)正確な生産・製造記録の収集
JDF導入前から精緻な原価管理をしており、作業実績はきめ細かく日報に記録するようにしていた。その分手間ひまも多くかかっていたが、JDF導入により自動的に記録がとれるようになった。また、オペレータの自己申告による製造記録は勘違いなどもあり正確性に欠けていた。
それから、実績データは原価把握には活用していたが生産現場の改善活動には活かされていなかった。問題点の把握は主観に頼ったものであり不明瞭であったが、機械の状態ごとの正確な稼動実績データが取れることにより、問題点が明確になった。
(3)生産情報の共有
JDFの導入前は手書きの予定表を作成し各現場に掲示していた。予定が変更されると生産管理の担当者は、1日に何度も変更情報の伝達のために本社から500メートルほど離れた工場との間を行き来していた。JDF導入を機に予定表が電子化され、MISの端末に常に最新情報が表示されるようになった。作業指示書については、得意先や品名などのヘッダー情報のみが紙で現場を流れるようにし、作業指示については作業の直前にMISの端末から指示書を出力する運用になっている。こうすることで生産管理の担当者が現場をまわらずとも変更情報が反映された最新の指示書で間違いなく作業ができるようになっている。そして、進捗状況が社内のどこからでもリアルタイムで確認できるほか、印刷現場にはWebカメラを設置しており、絵柄を確認しながら現場のオペレータと生産管理の担当者が話ができるような環境を整えている。
(4)人事考課・評価制度の再構築
次のステップとして、正確な実績データをベースとして公正な考課制度の見直しや技能評価制度の導入を検討中である。
今後の課題は、自社の課題としては収集情報の分析と活用の高度化、記録データの管理と検索、JDF未対応装置の実績データの精度向上、デザイン・制作部門の実績管理がある。業界への期待としては、JDF規格は頻繁に改訂を繰り返しているので、早く収束してほしい、JDF対応製品の開発スピードを速めてほしい、収集した実績情報の分析ツールを提供してほしいといったことがある。
メタテクノでは、印刷会社のJDF対応を容易にするためのソリューションとして、PrintStreetと名付けた製品群を提供している。BackStreetは、MISから作業指示情報を受け取りJDFに変換して、プリプレス/プレス/ポストプレスの各機器にJDF/JMFを送信する機能を持つ。またデジタル印刷機とのJDF接続も可能である。JDFワークフローを導入するにはJDF対応MISの導入が必須であったが、MISがJDF非対応であってもJDF導入が可能となる。
FrontStreetは、JDF非対応の生産機器をJDF対応にするインターフェースモジュールである。MISなどの外部からのJMF/JDF(作業指示情報)を受け付けて機器向けのプロトコルに変換する機能を持つ。また、稼動実績データをJMF/JDFデータに変換して外部に送信する機能をもつ。JDF非対応の生産機器をいかにスムーズにJDFワークフローに組み込むかという課題に対するソリューションとなる。
JDF規格は発展を続けており頻繁にバージョンアップを行っている。現状の最新バージョンは1.3であり、drupa2008において1.4が発表される予定である。一方で、現状の多くのJDF製品が対応しているバージョンは1.2となっている。各バージョンへの対応は、アプリケーションベンダー、メーカー、ユーザ(印刷会社)それぞれにとって大きな負担となるが、PrintStreetシリーズはJDFインタフェース部分をモジュールとして提供するので、これらの負荷を吸収することができる。
一方で、実際にJDFワークフローの導入に携わってみると理想と現実のギャップにも直面している。JDFワークフローでは、仕事を流す際に精緻な指示情報を出すことが要求される。従来は現場判断に任される部分が多く柔軟で融通の利く作業フローだったものが、工務や生産管理部門が作業指示を出す(=JDFを発行する)タイミングで号機指定等々まできっちりと決めておかなくてはならない。ある意味、集中管理体制への変換が求められる。
また、実際の業務は非常に複雑でJDF対応が困難なケースもある。例えば、JDFを発行した後に発注内容が途中で変わる。印刷機の号機変更が日常茶飯事に発生している。異なるジョブを付け合わせして印刷する。作業指示書に手書きで修正している。JDFでは表現しきれない仕様情報/指示情報があるなどである。
現実のJDF仕様は、印刷のワークフローのあらゆるケースに対応できるほど完璧ではない。それでもJDFを導入する価値があると考える。なぜならJDFは作業指示書を生産機器が直接解釈できる形でデジタル化できる業界唯一の標準フォーマットである。そして情報伝達の人為的ミスを削減できる。さらに正確な稼動実績を把握することができるからである。また、JDFの規格は進化を続けており、前述したJDF対応が困難なケースについてもすでに解決の道筋は立ちつつある。
最後にメタテクノが考えるJDF導入成功への鍵を紹介する。一つは、現状のフローをそのままJDF対応させるのではなく、複雑な手順の簡素化が可能かどうか見直してみる。次に一度にすべてをJDF化しようとしない。できるところから導入しJDF導入で効率化できた余力で、JDF対応できない部分にじっくり取り組むことをお薦めする。
PAGE2008コンファレンス E2セッションより
2008/04/02 00:00:00