物体の色を認識するには、光をあてる必要がある。分光とは、連続したスペクトルの光を波長ごとにとりわけ、それぞれの波長の単色光にすることである。色を分光スペクトルで客観的に捉うことができれば、より正確な色再現が実現する。
分光スペクトルによる色再現は、RGB3原色による色再現の限界に対して表現能力が大きく向上し、可能性が広がるものである。問題はその実現性であったが、6バンドカメラシステムを用いたソリューションが提供され始めてきた。
スペクトルベースの色再現や6バンド静止画色再現システムの取り組みについて、テキスト&グラフィックス研究会ではNTTデータの橋本勝氏にお話を伺った。
■目標とする色再現とは
当社が現在目指している色再現は、以下の3点である。
1.自分自身がその場にいるかのように映像を再現する。
例えば、北極・南極に行ってオーロラを見ているとする。それは、自分が北極・南極に行って、どのようなオーロラが見えているのか。すなわち、自分がとある仮想的な場所に行ったときにどのように見えるのかという状況を正しく再現する。撮影や印刷では、スタジオで撮影したもの、スタジオでカメラマンが見ているのと同じ色を、モニタや紙の上に出力するというイメージになる。
2.遠隔にある実物が手元まで運ばれてきたかのように映像を再現する。
例えば、インターネットを使ったオンラインショッピングで、画面上で見ている色と、自分の手元に実物が来た場合、色が違うことは多々あると思う。これは当然のことで、撮影しているときの環境と自分がいる環境は照明が違うので、色の見えも異なる。そのような場合にも対応するため、手元にないものが、もし手元に来たらどのように見えるのかという色を再現するものである。
3.実際にものを試作(実物が手元にない)したかのような映像を再現する。
例えば、ある塗料を使って自動車を塗装した場合どのように色が見えるのか。現実にはないものをシミュレーションし、実際に試作したかのような映像を再現することである。
■6バンド静止画色再現システム
6バンドのカメラシステムを用いた6バンド静止画色再現システムを考えた。実際に6バンド画像を撮影するには、デジタル一眼レフカメラに専用フィルタを取りつけ、フィルタ有り無しの2回撮影した画像データを専用ソフトウェアで合成するものである。
もともとディスプレイ上に映像を表示するという目的であったが、プリンタでもある程度正しい色を出力できるようになった。
色再現の原理は、照明から出た光が物に当たって、反射してきた光を人間が見る。これを物理量、定量的な量で説明すると、照明光というのは横軸を波長にとった場合、あるスペクトルの形状、ある波形を持ったエネルギー分布を持っている。
それが被写体に当たると、被写体自体も波長ごとに異なる反射率を持っているので、反射されて出てくる光は、照明光の波形と物体が持っている物体固有の反射率の波形を掛け算したものが出る。それを人間の目が見て、頭の中の処理で色として知覚するメカニズムになっている。
この中には、どこにもRGBというものは出てこない。物理現象的に見ると、RGB自体が何なのかよくわからないことになる。したがって、我々のアプローチでは、RGBにはこだわらず、できるだけスペクトルの情報を正しく記録し、正しく再現し、正しく人間に提示しようという色再現を試みている。
(続きはJagat Info 2008年3月号、詳細報告はテキスト&グラフィックス研究会会報 Text & Graphics No.265に掲載しています)
2008/03/31 00:00:00