DP2.0は、企業のマーケティングプロセスを支援するソリューション群そのものです。そのトップバッターが、顧客データベースなしで「お客様の見える化」を進め、科学的に見込み客を絞り込んでいく「新エリアマーケティング」ソリューションです。
いつの時代でも企業のマーケティング課題は、「新規顧客開拓」と「既存顧客の囲い込み」を効果的に行い、顧客基盤を強化することにあります。デジタルプリンティングは「顧客囲い込み」の手法としてバリアブルプリント機能に関心が寄せられていたように思いますが、低成長時代が続く中、クライアントにとって急務なのは、「新規顧客開拓」を促進するソリューション推進にあります。
日本において、営々とエリア密着型でその部分を担ってきたユニークかつメジャーな媒体が新聞折込チラシと言えます。しかし、インターネット・携帯電話などのメディアの普及により、若年層を中心に購読率は年々1%減少し、現在50%を切る状況にまで落ちこんでいます。しかも折込チラシの反応率は一般的に0.03〜0.05%レベルであり、深刻化する環境問題もあります。
皆様がカーディーラー会社で、若年層対象の新車キャンペーン担当だったら、あるいは、スポーツクラブ会社の市場開拓担当だったらどうしますか? 少なくとも、従来とは違うやり方を必死に探すはずですし、相変わらずチラシを提案する印刷会社や広告代理店をどう思うでしょうか? ホームページやバナー広告を出すのもいいでしょう。しかし「Webに載せれば」という安易な発想では「何もレスポンスがない……」という結果を招くだけです。
まず、エリア分析とターゲティングは、地図情報システム(GIS)を活用します。市販のGISには、国勢調査情報が「町丁目」レベルまで組み込まれており、エリア単位での人口・性別・年齢別・住居種類などの分布データが得られます。例えば、ある保険代理店の周囲半径1km内で、20〜30歳代の独身女性が最も多く居住するトップ5エリアを簡単に割り出せますし、そのエリアの住居数(=配達部数)も算出できます。また、逆にそのお店の顧客リストがあれば、その住所情報をGIS上にマッピングし、エリア別の分布を見ることもできます。当社がご紹介しているGISソフトウエアは、数十万円で全国エリア情報をカバーできる高いコストパフォーマンスです。実は、この私も20分ぐらいのレクチャーでプレゼンテーションで使えたくらい簡単です。既に当社お客様の導入本数は100本を越えましたし、最近は幅広い活用ニーズにこたえるため、ASP版まで出てきています。まさにGISのセールスポイントは、「個人情報を使わないで、見込み客が多いエリアを照らし出す魚群探知機」と言えます。
エリアを層別できたら、後は効果的なクリエイティブと配布媒体(はがき・封書など)の企画を詰めればOKです。エリアへの配布は、日本郵便の無宛名郵便サービスのタウンメール(配達地域指定郵便物)・タウンプラス(配達地域指定ゆうメール)を活用できます。詳細は、日本郵便のサイトを参照してください。
一般的なポスティングサービスとの大きな違いは、ターゲットエリアへの配布到達率にあります。セキュリティの観点から、ますますオートロック化が進むマンション居住者に対し、100%近い配達到達が期待できるサービスとして、ますます脚光を浴びています。もともと、新聞折込チラシの家庭への到達率の低下が課題なのですから、それに代わる手段としては当然の帰結でもあります。
さあ、いよいよ効果測定、どれくらいのレスポンス率が期待できるでしょうか。これは、実際には、業種・サービス、クーポン券などのオファー内容や、エリア特性(魚影の濃淡、道路・線路などの物理的環境)により大きく異なります。実際、当社のスペシャリストに言わせれば、企画やGIS分析の段階でだいたいどれくらいのレスポンスが期待できるか分かるようです。ただ、大まかに言って、0.5%から3%を超えるまでのレスポンスをたたき出せる手法であると言えます。これはこれまでのチラシ反応率を知る企業の悩める担当者にとっては脅威的な値です。
再び、カーディーラーや、スポーツクラブの販促担当者になってください。ある印刷会社が、この新エリアマーケティングの提案を持ってきました。
販促担当 「面白いけど、人がいないからできないよ」
印刷会社 「こちらで分析から効果測定までワンストップサービスで支援します」
販促担当 「でも今期はチラシ予算しかないよ」
印刷会社 「チラシの回数・エリアを絞ればOKです。残予算で、まず限定エリアで1000部ぐらいで十分いけます」
販促担当 「成功の保証はあるの」
印刷会社 「100%保証なんてあり得ません。でも、私自身、あらかじめXXX店のエリア分析をしてみましたけど、経験からけっこういけそうです。○○%を目標にして、成功したら、店長会議で発表して拡大しましょう!」
皆様は、この印刷会社を単なる「刷りの会社」「御用聞き」として付き合うでしょうか?
お客様:
リサイクル洋服店。関西・中部地区中心に7店舗経営。洋服の買い取り分野を伸ばしたく、買い取り専門店をオープンしたい。ターゲットは30〜50代の女性と明確。店舗スタッフも募集したい。
実施内容:
ターゲット(30〜50代女性)の人口密度の高いエリアで店舗より500m以内(1次商圏)の4町丁目に配布。また、スタッフ募集の情報も大きめに扱った内容でタウンメールで配布。来店特典として、子供向けに塗り絵プレゼントなど/買取価格20%UPのクーポン。
結果:
3.8%のレスポンス(来店者) 123件/3266通
実に3.8%来店率(驚異的!)をたたき出した事例ですが、実は、求人募集を組み合わせたことによって、エリア内の30〜50代女性の労働力市場を効果的に発掘してしまった面白い事例でもあります(店舗スタッフ枠はすぐ埋まったそうですし、その人たちは、1次商圏を活性化させるインフルエンサーとなるでしょう)。
実は、新エリアマーケティングは、新聞・雑誌の求人広告・チラシに対し、はるかに有効なエリア求人広告媒体でもあります。松村社長いわく、「トライ&エラーを重ねることによって、他社が絶対まねできないノウハウをためている。だから富士ゼロックスのセミナーでオープンにしても怖くない」「まず、自らが商談クローズを行い、営業を立ち合わせ、営業を育成している、それによって営業自身が大きく変わり出している」とのこと。お会いする度に、「最近どうですか」とお伺いするのが楽しみな方です。
もう1社、株式会社野毛印刷社様の事例をご紹介させてください。
お客様:
岩盤浴・ヨガサービス店。首都圏中心にチェーン展開。
実施内容:
GIS分析を切り込みとして、新規のお客様を獲得した最新事例。岩盤浴ターゲットとなる新規見込み客層を年齢・性別・年収で絞り込みを実施。ターゲットは商圏500m以内に絞り、候補となる配布エリアをGISのクロス集計機能により抽出・判断。分析レポートを提出し、テストマーケティング実施の了解を得る。来店者への「全員プレゼント」「岩盤浴体験割引チケット」「会費の割引」などの特典を付け、5000部によるタウンプラスの小規模テスト(デジタル印刷)を実施。
結果:
これまでにない多くの見込み客来店(実数はご容赦願います)。この結果により店側とリピート実施が決まり、1万5000部のタウンプラス(デジタル印刷)を受注。さらに、折込広告(オフセット印刷)も並行して受注。結果的に新エリアマーケティングにより「デジタル印刷」+「オフセット印刷」双方の新規開拓に成功。この新規開拓ノウハウを生かし、業種に関わりなく、幅広く市場開拓活動を展開中。
先日、当社の野毛印刷社様担当営業が、うれしそうに結果を教えてくれましたが、岩盤浴店側は、これまでの販促では得られなかった多くの新規会員の見込み客が来店したことに大満足だったそうです。お客様の期待を超える「体験と感動」を生み出す新マーケティングといったところでしょうか。これは顧客満足獲得の源泉だと思います。
当たり前と言われそうなことばかりかもしれませんが、重要なポイントがあります。
(1)業種/店舗形態などを考え、水平展開が可能な顧客ターゲットを絞る。
(2)本社マーケティング部門(ましてや、印刷物発注部門)ではなく、営業所・店舗の現場責任者にアプローチし、現場のベストプラクティスを水平展開する。
(3)クリエイティブはチラシのセンスで作らない。せっかく、ターゲットを科学的に絞り込んでいるのに、作るクリエイティブが、折込チラシの縮小版のような総花的な内容では意味がありません。絞り込んだターゲット層だけに響くようなクリエイティブが必須です。
(4)対象実験を科学的に行い、クライアントときちんとレビューを行う。必ず複数エリア×媒体(チラシ・新エリア)×オファー内容といった具合に実施内容を組み合わせ、効果比較や、その要因分析を行えるようにする(要はPDCAを回すということです)。
(5)新規ビジネスとして位置付け、担当者(マーケティング・営業)をアサインし、トップを巻き込んだトライ&エラーにより組織的なノウハウ・学習効果を高める(要は組織として失敗を恐れず続けるということです)。
新エリアマーケティングは、単なる折込チラシに代わるサービスではなく、印刷会社の営業体質そのものを変えるための実践教育プログラムといった面でも非常に有用です。実際、経営トップが、新エリアマーケティングのプレゼンテーション受講後、即GISを発注されるケースもあるのですが、「まずうちの営業に持たせて、やらせて、受注型営業プロセスを変えたい」という思いです。お客様の現状を分析し、計画を立て、実行し、レビューするPDCAサイクルを着実に体得できる新エリアソリューションと言えるのではないでしょうか。
また、新エリアマーケティングは、当然、「パーソナルコミュニケーション」への発展へと向かいます。配布物には、2次元バーコードや、URLを入れることにより、インターネット・携帯に誘導し、1対1マーケティングへの道を開く仕掛けが普及しつつあります。また、前述のシー・アール・エム様は、既に新エリアマーケティングとイメージバリアブルを取り入れたダイレクトメールを両輪として提案を進めておられます。
他方、「新エリアマーケティング」を進めることにより、既存オフセットJOBを活性化させることも可能になります。狭いエリア限定で検証する段階は、機動性があるデジタルプリンティングを活用し、有効なセグメントや効果を実証した後、エリア拡大や全国展開を行う段階では、大量オフセット印刷に発展するからです。新エリアと既存チラシサービスは、最適組み合わせ化することにより、ハイブリッド提供が可能です。
以上、今回はDP2.0のトップバッターをご紹介いたしました。次回は、ひと味違う、パーソナルコミュニケーションとして、感性に訴えるイメージパーソナライゼーションを取り上げたいと思います。ではまた!
(「プリンターズサークル」2008年3月号より抜粋)
Print-Betterでは、デジタルプリント関連情報をまとめて紹介しています。
◇デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場(全7回)2008/04/09 00:00:00