クロスメディア研究会では、2008年1月に「コンテンツビジネスにおける権利処理の知識と対応」として著作権をテーマとしたセミナーを開催した。東洋大学教授の山田肇氏にコンテンツビジネスを取り巻く状況について国内外の動向について解説いただいたうち、一部を以下に紹介する。
デジタルコンテンツの特徴は、まず、品質が劣化することなく複製が可能である点である。さらに、コンテンツごとに管理番号を埋め込むことが容易である点である。 管理番号を付与する方法としては、誰にでも見える格好で付与することも可能だが、電子透かしとしてコンテンツに埋め込むことも可能である。その管理番号によってデジタルコンテンツの流通を管理したり、違法複製に対応しようというのが、デジタルコンテンツの著作権管理に関する二階建て方式である。
管理番号をコンテンツに付与することで、さまざまなレベルで管理をすることができる。 まず1つは、単純に管理番号を外したコンテンツは違法であると認定する方法がある。また、管理番号がついたコンテンツであっても、購入記録を見せることができなかった場合には違法だと認定することができる。さらには、着メロ・着うたのように、管理番号と機器番号をセットにして、再生可能な機器を制限することができる。 管理番号の管理主体については、政府機関がそれを行うべきという案もあるし、私的に、あるいは自主的に行う案など、さまざまなアイデアがある。
政府は、デジタルコンテンツの流通を促進する法制度等の整備に前向きに動いている。 知的財産権推進計画2007には、デジタル化・ネットワークの特質に応じて、著作権等の保護や利用のあり方に関する新たの法制度や契約ルール、国際的枠組みについて2007年度中に検討し、最先端のデジタルコンテンツの流通を促進する法制度を2年以内に整備する。それよって、クリエイターへの還元を進め、創作活動の活性を図るという方針が記載されている。 実際には、それと同時に、違法と承知でコンテンツをダウンロードしたら違法だという法改正も検討されている。
アメリカでは、2000年10月にデジタルミレニアム著作権法が制定されたことがターニングポイントになっている。 この法律は、著作権保護技術(コピー防止機能など)を回避したり無力化するような手段の公表を禁じる規定や、オンラインで著作権侵害行為が発生したときに当該コンテンツを削除すればプロバイダは免責されるという規定のほか、著作権侵害の加害者の個人情報を一定の条件のもとで被害者に通知できる制度など、デジタル化情報の著作権のあり方などを規定したものであり、産業界によるデジタルコンテンツビジネスを促進するという意向を強く反映した内容になっている。
同法の制定により、デジタルコンテンツの配信市場は今、成長を続けている。06年の配信市場の規模は、前年比74%増の970億円になっている。 そもそもアメリカではプロデューサが著作権を一括管理するのが一般的であり、著作権者や著作隣接権者とのわずらわしい許諾交渉の必要がない。このおかげもあって、配信市場が成長を始めている。
ヨーロッパでは、トリプルプレイサービスというものが普及し始めている。1つの回線を家に引けば、電話、インターネット、TVの3つができるのでトリプルプレイという名前が付けられている。 ヨーロッパでのトリプルプレイサービスの普及については、欧州委員会も促進する方向で動いており、担当委員(ヨーロッパ全体を統括する内閣の閣僚に相当する)も、「欧州単一市場におけるコンテンツ・オンライン」という政策パッケージを2007年後半に向け準備するほか、DRMが、デジタル環境下で競争、消費者の選択、個人の権利などを制限することがあってはならない、と表明している。
管理番号を附与すると、デジタルコンテンツ法によって重厚な保護が得られる、付けなければ普通の著作物としての保護しか得られないということになったとして、出版社、音楽産業、TV局は、それでまさに儲けを求めているので、管理番号を付与する仕組みを考えるはずである。
しかし、インターネット上には個人が作り、評価を求めて公開されるコンテンツが大量にあり、これらをどのように扱うのかと言う問題が残る。これらのコンテンツは社会的な評価を求めて公開されており、コストをかけて管理番号を付与しようとしていないが、違法なコンテンツではない。 これらについては、クリエイティブコモンズという、用途に応じてマークを付けて識別しようという考え方が提唱されている。ローレンス・レッシングというアメリカの法学者を初めとする、多くの専門家の発案でスタートし、4項目のマークを選択表示するようになっている。
また、氏名の表示や改変の禁止等は、著作者人格権として日本の法律には昔からある。たとえば著作権法の18条に公表権、19条に氏名表示権、20条に同一性保持権がある。したがって、クリエイティブ・コモンズは、そのような人格権を表示したものであるといえる。 それでは、クリエイティブコモンズのように最低限これだけ守ればあとはご自由にご利用くださいという表示が付いていればそれで足りるかというと、そうでもない。 実は、それらの表示のないものには二階建て方式として議論してきた類のコンテンツと、違法に複製されたコンテンツの2種類がある。そして、これらの見分けは不可能である。
(続きはクロスメディア研究会会報『VEHICLE』229号に掲載予定)
2008/06/16 00:00:00