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失われた色覚を分光で取り戻す

失われた色覚

鳥に関していろいろなことが載っていてるサイトで、鳥の眼について他の動物と総合的な比較がある。眼の研究、特に鳥の眼はこの10数年間で大きく進んだと思う。実は人の眼の研究も進んでいるが、我々自身が毎日使っているものであるので、研究成果を読んでも納得できて当たり前に思えてしまう。そのためかえって新鮮な印象を受け難いのかもしれない。

人の網膜には明暗を感じる1つの桿体と色を感じる3つの錐体があるが、ニワトリには1つの桿体と5つの錐体がある。5つの錐体とは正確には4つの錐体と1つの複合錐体がある。色油球がフィルタとして用いられているという。結果的に近紫外から赤までの広い範囲の光を感じることができる。

人間と鳥の大きな違いは近紫外が見えるか否かであり、実は昆虫も近紫外が見えている。鳥は虫を見つけるのに、虫自身や虫が出すものが反射する近紫外を見ている。きっと虫同士もそのバンドで見ているに違いない。だから人間にとって雌雄同じに見える虫や鳥も、当事者にとっては一見して区別ができるはずである。

人間にとって真っ黒にしか見えないカラスも、輝いているのだそうだ。鳥といっても種類によって昼光性と夜行性の違いがあるが、いずれにせよ基本的には眼は人より機能が高い。鳥は偏光も見分けるらしく光の方向が分かるという。水面のギラギラした反射があっても水中の魚を狙えるのはそのせいかもしれない。

また夜行性のものは赤外線写真のように夜間や霧の中でも一部が見えるという。また体の大きさに比して眼球が大きく錐体の密度も高く視神経の繊維数も人間に比して多く、何km先のものも見分けられるという。しかし人間に身近なニワトリは例外的なほど視力が弱く、目に関しては鳥の標準ではないようだ。

実際には万能の眼をもった鳥はいないが、いろんな鳥の眼のいいとこどりをすると、人間も鳥のようなスーパーアイになれたらどんなに視野が広がって、見えるものが多くなることか、と思わされる。これらは生物の進化に照らし合わせて考えられるようになった。 実は魚から両生類、爬虫類、鳥類へとこのスーパーアイは引き継がれてきたのが、哺乳類になって錐体の2つが退化したというのが定説になっている。犬については色が見えないだろうという話だが錐体は2種あるというので、犬の目に世界はどう見えるかわからないが、白黒ではないだろう。

サルは人に近い。夜行性霊長類は錐体が非常に退化してしまっているが、人はさらにその後に長波長(赤側)に感じる錐体が2種に分化して、赤緑の区別をするようになった。しかし遺伝子的にこの区別のできない人も一定のパーセント存在する。それは病気とか異常ではなくて、人の進化の程度がまだそれくらい定まっていない段階なのだと考えたほうがよさそうだ。つまり赤緑の区別は進化史的には最近の出来事である。

色覚の発達は餌を見つけることと、異性の気をひくことに関連している。鳥が色とりどりなのはそのせいだということがすぐ理解できても、カラスもそうだということに人が気づかないように、まだ人が知らない色の世界は自然界に多くあるのだ。 単に生物の観察だけでなく、農産物の変化や人の住む環境の変化など生活に必要な情報も、人が「鳥の眼」を身につければ分かってきて、人の生活にも役立つことがきっと多くあるだろう。

分光画像

人は鳥のような眼を持つことはできないが、光学装置をそのようにすることは容易で、3錐体ではない多バンドの光センサーを用いた産業機器はすでにいろいろな分野で使われている。 一般に可視光及び近紫外・近赤外の帯域を分割するのに、RGB(及びその補色のCMYであっても)の3色よりも多くの色成分のバンドに分割して画像情報を取得して画像処理をすることを分光画像処理とか分光画像計測という。

例えばきっと虫や鳥が集り始めるような、果物が熟れすぎたとか腐り始めたものは近赤外も使うことで判別されている。 医療用にも病変部の見分けに分光画像計測は使われる。このような方法は特殊な用途しか必要ないかと思われたが、カラーの画像も従来のRGBデータでは出ない色が出せることが分かってきたので、印刷の応用分野にもなり始めた。

画像の世界は人間の眼を基準にしたカラーフィルムの時代から、スーパーアイの世界に突入している。これは今まで人が認知しにくかったことも可視化・視覚化されることが増えることを意味している。そんな時代に対応するように、色や画像の知識も刷新していかなければならないだろう。

第1回 色評価士検定 開催 試験日:2008年8月24日(日) 会場:東京(青山学院大学)

(8月6日(水)開催「色彩の科学 <21世紀の色再現>」にて資格概要とポイント説明があります。)

2008/08/03 00:00:00


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