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雑誌に変わる収益源を探せ


2008年8月7日


雑誌不振が招きつつある出版市場の危機

 出版科学研究所の調べによれば、2007年の出版物販売額は前年より3.1%減の2兆853億円となり、いよいよ2兆円の大台割れが視野に入り始めた。書籍はこの数年で底入れ感が出てきたが、雑誌は読者離れの止まる気配がなく、とうとう10年連続の前年割れである。

 落ちたとは言え、雑誌市場の規模は書籍市場の1.3倍あり、利益率も書籍より高い。書籍は多品種少量商品で制作と流通、販売に掛かる手間も膨大だ。従って出版業界を構成する出版社・取次・書店のいずれもが、雑誌販売の利益による内部補助に依存する形で書籍の制作・流通・販売を成立させてきた。つまり、日本の出版市場は雑誌販売の利益なくして成り立たない構造なのである。

 ところが出版業界の収益源たる雑誌の販売額は、10年前より3817億円減少した。その結果、出版社では雑誌販売に伴う広告収入も減り、チャレンジングなテーマの書籍刊行に慎重になった。
 出版物流通の減少と40%にも及ぶ返品率は取次の収入を減らし、この6月には取次3位と4位の提携発表があった。勝ち組とされてきた大手書店チェーンも、大手同士の戦いで体力を消耗する持久戦により、最大手書店チェーンが2期連続の赤字に陥って本社ビルの売却に踏み切ったという。出版業界全体があえいでいる。


デジタル化とWeb通販

 雑誌不振が業界全体を揺さぶる状況の中、出版社はデジタル化への取り組みを活発化させている。ここでのデジタル化とはWeb通販とデジタル雑誌を指す。特に女性誌は従来からカタログ的な要素が強かったので、通販との相性が抜群という。
 「magaseek」は各種雑誌の掲載商品を購入できるサイトであり、読者と出版社の両者から好評を博している。集英社は独自の通販サイト「s-woman.net SHOPPING」を立ち上げた。

 デジタル雑誌では2007年に小学館が有料の「SooK」を立ち上げたばかりだが、欧州ではデジタル雑誌化の潮流は既定路線でビジネスモデルも確立されつつある。刺激を受けた日本の出版社も、遅ればせながらデジタル雑誌への取り組みを活発化させた。アメリカでは発行部数にデジタル雑誌部数を加算して広告主に訴求できる体制が整ったという。

 2008年11月には、FIPP(国際雑誌連合)と日本雑誌協会の共催による「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」の開催予定があり、デジタル雑誌の普及啓蒙促進の場として強い期待が寄せられている。


雑誌制作ノウハウの提供ビジネス

 カスタムマガジンとは、企業が出版社に委託して制作する出版物で、自費出版とは異なる。企業のPR誌や会員誌について、出版社が企画・取材・編集・制作までを引き受ける場合が多いという。

 出版社は、長年培ってきた雑誌制作ノウハウの企業向け販売がビジネスになることに気づき始めた。特に大手出版社は『R25』の創刊以来、フリーマガジンへの参入について検討を重ねたようだが、ほとんどすべての出版社が否定的な結論を出したようである。
   しかし出版社は、雑誌制作ノウハウの提供という形でフリーペーパー市場に参入し、カスタムマガジンの専門会社や専門部署の設立も進めている。

2008年6月2日プリンティング・マーケティング研究会セミナー
「出版市場の最新動向2008」より

2008/08/07 00:00:00