電通の広告白書にもフリーマガジンは採りあげられるようになり、近年は雑誌の広告及び発行が下降する分を補うほどの成長を果たしてきたが、今はフリーマガジンも一旦ピークを超えた感がある。もとより戸別配布の新聞型フリーペーパーから始まって、ここ数年では欲しい人がピックアップする雑誌体裁のフリーマガジンというビジネスの変化が内部にあったので、部数は一概に伸びの指標にはならないかもしれない。
フリーマガジンといっても商業誌のような広告主を狙ったかなり「マス」なものは、広告営業からしても、内容のクオリティからいっても、制作のフローやコストからいっても、どうしても雑誌のビジネスと近いものになりがちで、10万部以上さばけないとペイしないといわれている。有料の雑誌との違いは書籍流通の取り分がないことだけで、それで経営が少し楽というだけならば、あまりメディアにおけるブレークスルーとはいえない。
R25は成功したフリーマガジンであるが、その成功の要因を有料であっても無料であっても他社が学習していくならば、今後のR25の一人勝ちは予測し難いだろう。むしろ下位のフリーマガジンを元気付けて、R25は総合誌であるのに対して、かなり「マス」で専門化もした良質のフリーマガジンという分野を形成することが考えられる。これらの発行者がグループ化してコンテンツのシェアや広告の融通をすることで、経営もやりやすくする可能性はある。
一方R25は、その媒体の開発力とかマーケティングという点で着目すると、その実力を発揮させる領域として、雑誌よりももっと「マス」な(例えば)新聞のフリーペーパー化というのも考えられる。というかヨーロッパやお隣の韓国ではタブロイドのフリー新聞がすでに出ているので、日本の入らないほうがおかしいのだが、かつても日本では新聞分野への参入が非常に難しかったので、遅れているのが現実だ。
他方10万部にもいかないところはどうなるのだろうか? ここには2つのモデルが考えられる。ひとつは不動産や求人などの情報誌が次第に地域版の薄い媒体に変わって行ったように、地区単位で2-3万部のものを多くの地区で発行する形態がある。これに似せて記事部分の制作は部分的に地区ごとに入れ替わるとしても、全体で共通部分を管理し作り、広告営業もまとめて行ようなパターンが起こるだろう。今富裕層向けマガジンが地域ごとにあるが、そういったものも横に連携して記事や広告のシェアをするようになるかもしれない。
もうひとつの形態は、保育園だけに置くとか特定業種・店舗だけに置くもので、これは既存の商材の流通過程を媒体の配布ルートに使えて、配布コスト面で優位であることとか、そこに集まる人々の属性が鮮明であるので対象にフィットするコンテンツが提供できるとか強みがある。配布部数の割りに広告効果も高くなるような、より密なコミュニティ指向の媒体である。日本には駅が1万強あることから、そういった地域社会を串刺しするコミュニティの規模も万であるとすると、実際に配布できるのは何千部までになろう。
このように、一つ一つの経営は難しいのであろうが、前述のようにコンテンツや広告の融通する仕組み、すなわちシンジケーションがバックにあれば編集制作は容易になるし、印刷もデジタル印刷で任意の規模の媒体ができるようになる。マスメディア業界全体が苦しくなる中で、いままでマスメディアの大樹の陰のような立場にいたコンテンツ供給側が次第に独立性を高めて、シンジケータと呼ばれる仲介業者として活躍することは広がるだろう。すでにネットのインフラは問題ないし、編集のDTPも、印刷のデジタルプリントも、配送の宅配便も完備されている。
すでにフリーペーパー・フリーマガジンの世界にはいくつかのシンジケータが登場しているし、Webコンテンツに関しても同様である。海外のフリー新聞も通信社の記事配信を使っている。こういったコンテンツの新たな流れに沿っていかないと、いくらデジタルプリントが簡易に冊子を作ることができても、川上の処理で息切れして媒体発行が続けられなくなるだろう。
2008.7 ALPS協議会
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2008/08/08 00:00:00