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グラフィックアーツの進展に必須なITという迂回路

デジタル化が進むと、どのような良い事が実現するのか、次第にわからなくなってきているのではないだろうか。CTPはもう現実問題になったが、CTPが戦略的に取り上げられることはあまりない。CTPくらいしか投資先がないとか、やはりイメージセッタを買い替えるくらいならCTPにした方がよいか、「でもしか」CTPの動きが見うけられる。

世の中がITとかEC、SCM、ERPとか騒いでも、それが自社の印刷ビジネスにどのように関係するのか、想像することができない経営者が多くなっている。これは電算写植やCEPSの登場がプリプレス投資ややる気を起こさせるに十分であったのと好対照である。では印刷界を十分啓蒙して、ITとかEC、SCM、ERPに取り組ませれば、印刷業界はよい方向に行くのだろうか?

おそらく現在のDTPを中心にしたデジタル化と、ITやECというのは直接つながらず、両者の溝は深まっているような予感がする。なぜなら、まだこれらよりDTPに近かったマルチメディアやオンデマンドのビジネスでさえ印刷業界一般のビジネスにはならなかったからである。ITとかECを率直に受け入れる素地のあるところは少ないだろう。

しかしマルチメディアやオンデマンドは狭い商売であって、特別なスキルが必要なものであったのに対し、ITとかEC、SCM、ERPなどは、ワープロ/パソコン/インターネットの普及のようにどの分野にでも起こる普遍的な変化である。電算写植はメーカーから教えてもらうしかないが、かな漢字変換は社内の若い人からでも教えてもらえるように、公平な技術であるともいえる。

将来のシナリオを考えると、先にITをマスターした後に、それとグラフィクアーツのスキルを組み合わせたマルチメディアやオンデマンドのビジネスが可能になるように思われる。それにもかかわらずこの業界がITへのとっつきが悪いのは、マルチメディアやオンデマンドの課題を十分突き詰める前に挫折してしまったことや、従来の印刷のビジネスモデルから離れられないからであろう。

このことは日本に限らずアメリカの印刷業でも同様であることを、PAGE2000の時に基調講演をしたBill Davison氏から聞いた。すでに有能な人が集まるのは,出版印刷業者ではなくて、WEBとかビデオ・サウンド関係の業界であり、そういった業界のITの取組みを学ぶところから印刷業界は始めなければならない。

そのような情報を得るのは非常に難しいが,例えばWEBの会社に投資するとか、能力のある人材を外から入れて、彼らから学ぶなどして、自分で理解して新しいシステムを作り出していくべきだという。ITからみで印刷ビジネスにすぐに成果が出るオイシイ話しはない。
印刷のモデルにとらわれずに、まずIT自身をモノにする迂回路から着手するという、全く従来とは異なる突破口が必要であるというのがPAGE2000の印象であった。

(テキスト&グラフィックス研究会会報 通巻130号より)

2000/03/17 00:00:00


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