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印刷業に春はくるのか?

もしこの間の日本の経済状況を「長い不況」と考えている人がいたら相当お目出度い人だ。最近は「失われた10年」といわれるが如く、バブルの前に戻ってしまった産業もあり、また海外生産など構造的に変わってしまった産業もある。いずれにせよ、冬が通りすぎて春になって新芽がふくように景気がよくなったりはしないという認識はできつつある。

では印刷産業においてはこの10年間にどのような変化が起こったのであろうか? 各社とも努力はしているが、かつての経験が活かせず、行き詰まりが随所に目立つ。かつての印刷産業を支えた土台の変化ゆえであり、従来のビジネスモデルが通用しないことをあらわしている。

今日この業界の問題は、経営環境の変化に追従できない会社が急増したことである。とりわけ長らく安定状態にあった印刷業の経営陣の固定観念が今日の業界の土台の変化を見る目を曇らせている。土台の変化の認識なしに、需要の先行きの心配をしたり、マルチメディアの夢を語ることは、地に足がついていない議論になってしまう。

固定観念による誤解は日増しにひどくなり、経営方針を歪曲させている。例えば印刷業は「不況」なのか?  1999年には実は仕事量は5%程度増加したのである。それにもかかわらず「不況感」が強まっている。価格低下がその理由とされるが、単価下落と売上あるいは収益構造の変化を混同してはならない。

まず、以下の数字を見ていただきたい。
・ 2006年までに印刷工場数は27.5%、枚葉印刷機台数は42.2%、オフ輪台数12.3%は減小する。
・ 過去2年間のM&A件数は318件
・ 1992年〜1997年で、印刷産業が印刷用紙1キロ当りに付加した価値は6%減少し、印刷産業のGDP弾性値は0.75であった。

これらは、好況に湧くデジタル先進国アメリカの印刷産業の現実と将来を現す数字である。
過去5年間、年率5%前後で伸びてきた同業界だが、その内実は上記のようなものである。印刷産業が市場の成熟化のなかで供給力過剰によって競争が激化していること、技術革新によって印刷産業が提供してきた価値が下落していることを示している。そして、情報産業に脱皮しつつある企業とそうでない企業の2極化も現わしている。

以下は,日本の印刷産業を表す数字である。
・ 印刷産業の事業所数は、5年間で2.6%減少した。
・1993年〜1998年で、印刷産業が印刷用紙1キロ当りに付加した価値は11%減少し、印刷産業のGDP弾性値は0.53であった。
・ 1999年の印刷産業の売上前年比は▲2.8%
・2010年までの印刷のコア部分の市場規模は,年率1%で減少する。

日本の印刷産業には、米国の印刷業界と同様の供給力過剰と印刷価値の低下に加え、人口減少によるGDPの縮小、再販制度の撤廃による出版市場の大幅縮小、資源・環境・ゴミ問題に起因する印刷物市場への圧迫など、今までにない状況もすぐ目の前に迫っている。
現在の問題を、不況や過当競争のせいにばかりしていると、将来への舵取りを誤ることになる。

目下重要なことは、印刷業界が行おうとしていることを客観的な目で見直し、地に足のついた着実なビジョンを各社が築くことである。JAGATでは各研究会や技術フォーラムを通じて日本共通の問題と業界固有の問題を分析してきた。それを踏まえてPM研究会では経営者を対象に、4月25日(火)にミーティング「新たなミレニアムの印刷界を考える」を行い、過去のモデルの通用しなくなった部分と、2000年代のトレンドの報道と実態のギャップを解説する。

2000/04/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会