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デジタル時代のプリンティングコーディネーション<仕事と役割>

DTPの出現、普及によって印刷メディアの世界が大きく変化したことはご承知の通りである。
 とにかくMacありきで始まったDTPの世界も進化を続け、印刷側もそれなりの体制は整ったが、「DTP現場の顔」はどうも浮かないことが多いようだ。どうしてだろう。ハードシステムは急激に変ったが、ヒューマンウエアが変りきれていないのではないか。ワークフローの変化と人的対応や教育、得意先、協力先・外注先との新たな関係、組織の権限と責任など未整備な部分が多い。問題点を抱え込んだDTP現場にはストレスが生まれる。
 従来のハードウエアの置き換えではない今日のデジタル環境の整備には、どうしても経営トップ自からの発想の転換が必要である。JAGAT刊行の「デジタル時代のプリンティングコーディネーション<仕事と役割>」(B6判・164ページ・2500円) は、デジタル化の中で印刷会社が組織的にも人材的にも新しい時代の柱としてコーディネーション機能の育成と確立を提案したもので、経営幹部並びに営業・技術部門のリーダーにはご一読いただきたい本である。執筆は、凸版印刷株式会社・TIC事業部デジタル推進本部の梶広幸氏。
 プリンティングコーディネーションあるいはコーディネータといっても、その定義や仕事・役割が確立し、業界で共通認識があるわけではない。梶氏個人の私案とJAGATの方向性とがほぼ合意のもと、まとめられた業界へのプレゼンテーションである。

■プリンティングコーディネーションとは
 印刷物制作のプロセスがデジタル化されたことで、ことにプリプレス作業工程の統合化が進んだ。従来の受注側/発注側間、また製造工程間の物理的仕切りが壊れ、新たなデジタルワークフローの誕生となった。このことは従来の業務分担、人の配置・役割(営業から現場まで)の再構築を意味している。お互いのブラックボックスを覗かないことがルールであった時代から、互いのブラックボックスを見せ合い、理解しあうコラボレーションを常とする時代に変った。これからの印刷はデジタル処理からではなく、デジタルの一歩手前からコントロールしなければ最適化された印刷物は望めない。この最適化のためのサポート機能こそがプリンティングコーディネーションである。また、印刷メディアの枠を超えて展開するクロスメディアについても、設備の有無ではなく全体をコーディネーションできる機能を持つことである。

■プリンティングコーディネータとは
 プリンティングコーディネータに求められるものは、印刷されるイメージの構築と設計への支援(表現設計)、さらには制作手法と手段(品質設計)・運用手法とフローと体制(工程設計)までを設計できる能力である。また、新たに印刷物のデジタル化の結果として、あるいは電子メディアの結果として、デジタルデータの有効活用や資産化のためのインターフェース設計も視野に入れなければならない。
 商品の最適保証を確保するために、デジタルデータ作成と印刷表現の方向性について指示(ディレクション)・調整・統率ができる実務経験と知識を持った専門家集団である。

 改めて定義すると大袈裟なものだが、どこの会社でもレベルの差はあれ、必要があれば誰かがそれを実行しているのである。梶氏はコーディネータとして4つのスタイルを挙げている。
 1. 営業マンとしてのコーディネータ
 2. 営業と現場を繋ぐコーディネータ
 3. 専門職としてのコーディネータ(課題解決)
 4. 企画提案型のコーディネータ(課題提案)

 プリンティングコーディネータの4つのスタイルと組織について紹介する。

■1. 営業マンとしてのコーディネータ
 従来から営業マンはコーディネータであり、プロデューサであるといわれてきた。得意先に対して、デジタルの基礎知識、製版・印刷・加工の知識をもって担当し、ちょっとした相談に応じることができる見識を持つことは、時代を超えて要求されることである。営業が正確に全体像を把握していないと、どう仕事をすすめるのか、どのようなノウハウをもったスタッフが必要かの判断もできない。的確な窓口業務としての営業の責任は重い。しかし一方では、昨今のデジタル環境は、従来のように工程が一直線ではないうえ、次々と新しい技術が実用化され、営業マンの知識範囲や判断範囲が広がり、技術理解もさながらビジネスシーンがイメージしにくいことも多く、営業への負荷が多くなっていることも事実である。この状況をよく理解し、営業活動の一環という名目で、なんでも営業に押し付ける「営業マンのスーパーマン化」はダメである。現場と連携して営業の機能を分化し、コーディネーション機能を有機的に作りあげることである。そのためには営業マンの到達すべき目標を明確にし、定期的に研修ができる仕組みをもつことがポイントである。

■2. 営業と現場を繋ぐコーディネータ
 営業から入ってきたいろいろな原稿を、現場に入稿させる前に問題点を早く発見し対応するのがこのスタイルの大きな仕事である。現場には品質指示、工程指示ができる知識・能力・スキルが求められる。テクニカルディレクションを中心にした「問題解決型」コーディネータである。アナログ時代の製版業務に重きを置いたプリンティングディレクターが比較的近い存在である。DTP環境では製版を超える領域をカバーしなければならない。

■3. 専門職としてのコーディネータ
 企画段階から参画する仕事、あるいは内容的に原稿作りからの支援が必要な場合など、要求に応じて出向き、企画会議や得意先スタッフとの実務打ち合わせ、外部スタッフへの適切な伝達など幅の広い行動となる。このためライン業務を抱えたままでは限界がある。専門スタッフとしてのコーディネータの存在が必要である。仕事としては、企画段階からの積極的なコンサル(制作支援)、各種の設計とスケジュール化(体制構築)、専門スタッフの管理、現場各部署への調整、指示を行なう。特にデジタル問題はデジタル化以前をいかにコントロールするかがキーになることから、「問題化」の前に課題を発見し「課題解決型」コーディネータであることが重要である。

■4. 企画提案型コーディネータ
 上記の「課題解決型」コーディネータ同様、専門職としてのコディネータであるが、大きなスタンスの違いは、システム全体のソリューションを企画提案し、当面の商品製作ではなく、戦略発想をもって提案し、印刷として新しい市場を開拓する。得意先の顕在化していない課題を発見する能力が必要である。
プリンティングの枠を超え、メディアコーディネータあるいはシステムコーディネータとしての機能も必要である。

3.4.の専門職コーディネータはもちろんだが、1.2.のコーディネータであっても人材 として育ち、システムとして機能するためには、「権限」の設定が必要不可欠とな る。権限のないコーディネータはエンジンのない船のようなものである。「権限」を いじるということは組織をいじることである。従来の工程別部門組織では「権限のク ロスオーバー」が生まれ、それこそボクシングのクロスカウンターパンチになってし まう。コーディネータ機能と企画、営業、デザイン、製版、印刷がどのように組み合 わされていくか、大きな課題である。梶氏は工程別のベースボール型組織から機能別 のサッカー型組織への転換が必要であると述べている。
 4つのスタイルのうちどのスタイルを目指すかは、それぞれの会社の事情なり、経営者の方針のよっていろいろな選択があろう。どのようなスタイルであろうとプリンティングコーディネーションが機能するための前提条件として権限の設定が大切であると述べた。つまりコーディネーションの権限と、従来の工程別管理組織による権限のクロスオーバーを避けるためには、組織のあり方を変えなければならない。梶氏は「プリンティングコーディネーションは機能論であって組織論ではない」と述べている通り、組織化が目的ではなく組織的対応が必要なのである。しかしながら、今述べた通り、コーディネーション機能を発揮するには、従来の組織を見直す必要がある。それは取りも直さず、デジタル時代における新しい組織論であるといえる。

 これからの組織のあり方を考える時のポイントは、「組織の壁」である。
「新たな組織が新たな壁を生む」のでは困る。しかし組織である以上、ある程度の壁 はやむを得ないとしても、壁は低いほうがよい。そこで梶氏は「従来工程の仕事のやり方は、野球型フォーメーションである。これからはサッカー型フォーメーションの運用スタイルが必要である」と提案している。「野球型組織よさようなら、サッカー型組織よこんにちは」である。

では野球とサッカーの特徴を羅列してみよう。まず野球からみてみよう。
 ・攻撃と守備」がはっきり別れる。
 ・一人づつ打順に従って打席に入り、ピッチャーと勝負する。他のチームメ
  イトは、それを見守る。
 ・作戦指示はベンチから飛ぶ。
 ・ワンポイントの専門家がいる(リリーフ、代打、代走、守備など)
 ・ルールについてはスポーツNo.1と言われるほどの教則本がある(200項目以上)。
 ・成熟したシステムによって運営されている。

一方、サッカーはどうであろうか。
 ・「オフェンスとディフェンス」が激しく入れ替わる。
 ・GK、DF、MF、FWは明確に決まっているが、相手の動きに合わせて瞬時にフォーメーションを組む。
 ・常に全体の動きを把握しながら行動を起こす。
 ・監督の作戦・指示とは別に、指令塔(選手)がいる。
 ・違反があっても、試合の流れ、状況判断で審判が違反を取らないこともある。

などが挙げられよう。これを現在の印刷環境に当てはめると、従来工程では工程と担当責任が輪切りにされ、出番も決まり、完成されたワークフローがある。メーカー保証の安定したシステムで固め(ただし高額の)、いざとなれば部分対応や人海戦術も効くがマルチユースにはならない。まさに野球型組織、野球型システムである。一方、デジタルは得意先の取組み方に応じて受入れの工程設計を作らなければ却って効率が悪い。作業は輪切りではなくスパイラルに進む。品質はデジタル以前のコントロールが必要。データの再利用も視野に入れる。そのようなことからデジタルでは、最初に全体を把握し、商品のプライオリティを明確にして、最適化にあったスタッフとワークフローを決めなければならない。最前線には指令塔(トータル管理)となる人材が必要である。これこそサッカー型組織、サッカー型システムである。そして指令塔こそプリンティングコーディネータである。

 デジタル時代とは永続変化の時代ある。硬直化した組織、部分知識・技能の寄せ集めでは、通用しなくなる。激しい変化に対応できる組織と人材がいま強く求められている。
●関連事業
コーディネータ機能こそ印刷の大きな付加価値
 「第3期プ リンティングコーディネータ養成講座
99年9月2日〜99年11月30日まで。トータル80時間

1999/08/23 00:00:00


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