多言語混植DTPで国際化に対応するソフトップ
インターネットによるメディア環境の変化は,世界をより近いものにした。国際化とともに,多言語によるデジタルメディアの需要が増えてきている。印刷の立場からすれば,外国語によるデジタル処理に特化した企業が注目される。しかもただ翻訳をするだけでなく,コンテンツの制作から印刷までを見越したビジネスが必要になってくる。
今回は,多言語混植DTPによるデジタルプリプレスからソフトの開発・制作までサービス提供する(株)ソフトップの代表取締役松村正二氏にお話を伺った。
翻訳から出力まで一貫制作
東京・文京区のソフトップは,1997年に翻訳のできるDTP処理会社としてスタートした。親会社は(株)東京法規出版で,福祉や社会保障制度,環境問題,都市緑化,防災・安全衛生などをテーマにした出版物・小冊子を発行している。全国の自治体や健康保険組合,共済組合,学校などが主要取引先になる。国際化が進む中で,自治体の出している小冊子も英語はもとよりアジア各国の言語を用意しなくてはならない。当然翻訳という仕事が生じ,その部分は外注していた。
1997年当時,3名の中国人留学生と親会社の社長が知り合い,彼らから中国語によるDTPをやりたいという話が出たことがきっかけであった。3名を中心に特に中国語の翻訳からDTP処理までを行うことを主要業務に別法人を作ることになった。
Macintoshの画面上で同時にできるDTPを売りにしたいという目標を立て,試行錯誤を繰り返して混植DTPを実現し,今ではWindows環境にも対応している。
現在可能なのは世界180カ国の言語だが,実際には5カ国くらいの需要が多く,英語に比べてフランス語やドイツ語の需要は少ない。また社内にネイティブがいるので,中国語とハングルにはきわめて強い。アルファベットと違って,中国語やハングルはできる人が少ない。入力自体もネイティブでないと難しい部分がある。その辺のところも重宝がられている。中国語とハングルは,(株)イクイノックスの汎用フォントを使用し,PS出力も可能になっている。他の言語についてはユニタイプを使って入力を行っている。また外国語に関するさまざまなコードに関しても研究し,コンバータを使って変換している。
通常の日本語DTPに比べると需要はそれほど多いとはいえないかもしれない。しかし,特化することにより,価格を抑えることができる。外国語の印刷物を作成する場合,特に写植時代はバラ打ちで1文字直すだけでも大変なコストが発生したが,現在メールのやり取りで簡単に修正ができる。翻訳から出力まで一貫制作が可能なことが強みとなって,設立3年目くらいから本格的に受注率が伸びてきた。
多言語混植システムが力を発揮
商業印刷物,なかでも小冊子,パンフレット,チラシの類は,親会社の関係もあって自治体がらみの仕事が多い。
各自治体,健康保険組合などで配布される外国人住民向けの各種啓発用印刷物である。最近ではエイズの正しい知識や介護保険にまつわる小冊子を作った。日本語,英語,中国語,韓国語,ポルトガル語の5カ国語同一紙面版である。以前なら版下で各国の部分を切り貼りしていたものを同社独自の「多言語混植システム」で画面上で混植DTP処理を行い,同一紙面に印画紙・フィルム出力している。もちろん面付けフィルム出力にも対応している。出力に関してはイメージセッタを自社内に導入するといった話もないわけではなかったが,出力センターと相談のうえ,自社システムそのものを出力センターにもたせて問題なく出力できている。
この外国人住民向けの各種啓発用印刷物は,営業ツールにも使える。また各自治体を回るときに親会社の営業マン販促ツールにもなる。
阪神大震災の影響もあり,防災関連で外国語のものを作りたいという自治体からの要望も多数ある。ただし,東京と大阪の首都圏に集中していて,他の地方とはかなり需要の差が出ているのが現状である。
翻訳に関わるすべての印刷物に対応
東京法規出版の100%子会社だが,売り上げの9割は親会社以外の仕事である。
外国語を必要としているのは何も役所や病院の窓口だけではない。同社の場合,特に観光地には強いという。日本で有数のテーマパークの外国語版を手がけた実績もある。日本語による印刷物に比べると圧倒的に小ロットだが,今後飛躍的に伸びることは容易に想像がつく。観光にからむものは,例えば外国人旅行者のための観光PR用パンフレットであったり,テーマパーク・アミューズメント施設などの案内,ホテル・旅館などの客室用各種案内,ターミナル駅・空港の案内パンフなどが挙げられる。
その他の事業内容は以下のとおりである。翻訳が生じる印刷物すべてが対象になり得る。だからジャンルとしてはバラバラで印刷物形態もさまざまである。
(1)日本語と外国語が混在する頁物印刷物
語学テキスト,ガイドブック,紀要,報告書ならびに各種契約書の翻訳およびフォーマット作成がある。
(2)製品カタログ・マニュアル
外国向け製品カタログ,仕様書,取扱説明書などである。また国内・現地に限らず外国人社員に向けた各種マニュアル等も請け負っている。
(3)海外発行物
現地発行の新聞・雑誌広告の制作を請け負う。海外向けの印刷物や各種メディアの制作をする。
(4)パネル・ポスター
これは必ずしも翻訳作業が伴わなくても需要があれば,展示用大型パネルやポスターの制作を行っている。データ変換を得意としているので,Windowsの各種アプリケーションで作成したデータをIllustratorに落とし込み,大型カラープリンタで出力することもサービスのひとつである。
同社の主要取引先は,全国地方自治体を除けば,印刷会社,広告代理店,デザイン会社,大手企業の海外事業部などである。
ゲームソフトの翻訳と販売にも挑戦
新しい事業として,映像やPC・ゲームソフトなどの中国語版への移植も行っている。具体的には,日本のゲーム開発会社からライセンスを取り,中国大陸に進出することである。外国の企業が直接販売することができないので,中国の販売会社に卸すという形態をとった。現地ではゲーム機そのものより汎用性があるので,パソコン用ゲームソフトのほうが普及しているらしい。説明書からパッケージまで翻訳印刷し,ゲームの画面に現れる文字情報も翻訳した。
今回は翻訳と販売に絞ったが,今後はオリジナルソフトを開発して中国での販売も考えていきたいという。それと同時にゲームソフトは取っ掛かりであり,DTPに絡むものも含むあらゆるメディアで中国に進出したいという夢がある。
同社は,アジアや世界がもっと身近になるであろうこれからの時代には不可欠なサービスを提供しているといえるだろう。来る2002年には日韓共同開催のサッカー,ワールドカップも開催されることで,ハングルの需要が増えることも期待している。同社が活躍する場は,まだまだ増えそうだ。(上野寿)
2000/05/31 00:00:00