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2001:平版印刷の動向

印刷市場は,高度成長期を経て成熟期に入り,生産能力さえあれば仕事が受注できる時代から,市場のニーズに合った物とその作り方,あるいはサービスの提供ができなければ,少なくともうまみのある商売はできない時代になった。
一方,平版印刷機はオフ輪,枚葉印刷機それぞれが多様化し,さらに適応範囲を拡張したさまざまなデジタル印刷システムが登場してきた。

枚葉印刷機

現在の平版枚葉印刷機は,いままでに開発,実用化された各種リモートコントロール機構,プリセット機能,そして自動調整機能が組み込まれ,印刷機械単体としての省人化,脱技能化は天井に近づきつつある。そのような状況を反映して,drupa2000では,5色以上の多色化,ワンパスでの両面印刷,インラインコーターなどが目立った。

両面機については,反転胴方式と専用型両面機があるが,前者はHi-Fi印刷など,4色以上のカラー印刷が念頭におかれ,後者はあるロットまでのオフ輪対抗枚葉機としての意味が強い。
バブル期に入った印刷機の買い替えにおいて,省人化とともに,納期,価格面でオフ輪との競合から枚葉8色機に注目する企業は多い。

インラインコーターについては,水性とUVの2方式のコーティングができるダブルコーター機が各社から出された。まず水性のプライマー液をコーティングして遠赤外乾燥装置で水分を飛ばし,次にUVコーティングを行うものである。こうすることにより,印刷直後のウェットな状態で速度を落とさず,高品質なUVコーティングを行うことが可能となる。オフ輪化が進展していく中で,オフセット枚葉機が,オフ輪にできない付加価値の高い印刷で生き残るひとつの方向である。

手ごろな価格の4色機の導入も進んでいる。3000万円を切る価格で,リモコン,プリセット機能をそれなりに組み込んだもので,機械価格に見合った生産性向上,省人化ニーズを満たすものである。

現在の平版枚葉印刷機は,機付人員が大幅に削減され準備作業時間も著しく短縮できるようになっただけでなく,サイズ,ユニット数,インラインで組み込む後処理,後加工機能の組み合わせが多様に可能になった。したがって,従来からの先入観にとらわれずに,市場と技術を分析,評価をしてみると,今までとは違ったビジネスの種を見つけることも可能である。DTPで先行した出力センターが,フル装備のハイデルスピードマスターDIを色校正印刷専用機として使う商売を始めたことなどは,そのひとつの例である。

オフ輪

オフ輪では,小回りのきく中速オフ輪と大ロット向けの高速オフ輪への二極分化がさらに進んでいる。
drupa2000では,小森がシステム38を使って折機切り替えまで含めて10分以内の段取り替えを実演,マンローランドはロトマンで,損紙 700部以内,7分での段取り替えの実演を行うなど,フル装備された自動化機器とCIP3の活用での効率化をアピールした。

ハイデルベルグは,ギャップレス印刷機サンデープレスの新バーションとしてサンデー2000とサンデー4000の2機種を発表した。
サンデー2000は普及型サンデープレスで,最高速度を抑えてコストダウンを図ったもの。サンデープレスの高速性能をフルに発揮させるには,インキ,紙,乾燥装置,運転技術などの条件をすべて整える必要があり,仕様通りの速度での運転は困難を伴うのが実情であった。そのため,確実に実現できる運転速度に限定し,ギャップレスオフ輪の損紙節減,ブランケット交換の容易化といったメリットを享受しようという目的で普及版が誕生したものである。

一方のサンデー4000は,胴径を倍にして,より安定した高速回転を実現するとともに,折り出しページ数を増やして製本工程の合理化を狙ったものである。同じページの雑誌を製本する場合,1折のページ数が多いほど,製本機の丁合ボックス数が減り大きな合理化効果が生まれる。そのため,最近欧米では,32ページ,48ページといった多ページの大型オフ輪が主体となっている。

大型機という点では,KBA社はdrupa最大のオフ輪としてC818を実演した。この機械は64ページの折丁を折り出すもので,胴周 1,260mm,紙幅 1,910mmという大型機である。日本で一般的なA横全判機と比較すると,胴周,紙幅とも2倍,面積で4倍となっている。
コントロールシステムとしては,インライン測定カラーバーコントロールシステムが注目される。

デジタル印刷システム

デジタル印刷機が初めて登場して衝撃を与えたIPEX93から7年後のdrupa2000では,有版方式,無版方式それぞれで,色数,解像度,印刷サイズ,印刷スピードにおいて非常に多様なデジタル印刷システムが発表された。

ダイレクトイメージング(DI)印刷機分野で先行していたハイデルベルグは,クイックマスターDIとスピードマスターDIの実績のある2機種を出し,カラット・デジタル・プレス社は,欧州と米国8カ所でのベータテストを完了した実用機として74カラット2台を出した。

大日本スクリーンは,A3サイズのトゥループレス544に加え,B2サイズの744を2台連結し,片面4色・両面2色兼用機として実演,さらに小森,リョービ,サクライ,アダストがDI機を発表した。

小森のプロジェクトDは,新規設計の最新デザインのベースマシンにクレオサイテックスのイメージングヘッドを付けたものである。

リョービの3404DIは,一つの版胴で2色を受け持つ胴配列で,生版は版胴内部に収納し巻き出していくスプロール方式である。2色を1つの版胴にまとめることで,高価なイメージングヘッドやブランケット洗浄装置の数を半減できる。

サクライのオリバー474EP・DIは,PS版とDIの両方に対応するハイブリッド機で,片面4色・両面2色の兼用機。DI機構はイメージング時以外は下部へ収納する。

デジタル印刷機の分野では,Indigo社が出した巻取印刷方式Publisher8000の印刷スピードは8160枚/時で,少なくとも印刷スピードの面では,いわゆるショートランカラー印刷の市場だけではなく,DI印刷機や枚葉4色機が対象としてきたカラー印刷物市場もカバーする。

ザイコンの新製品CSP320Dは,最大A3サイズ,両面4色印刷が可能なデジタル印刷機で,印刷スピードは960枚/時と遅いが,解像度が600×600dpiながら4ビットのデータ深度があるので2400dpiに相当する印刷品質になる。 また,表裏2セットの回転するベルト上に1色ずつ画像を形成して4色画像を作り,これを1度に紙に転写する方式を採用することによって,紙サイズがA4から320mm×470mmまで,紙厚も80〜300g/uという広範囲な紙の選択を可能にした。
ゼロックスのドキュカラー2045,2060も「デジタルブランケット」方式の採用によって品質向上と64〜280g/uの紙の印刷を可能にした。

ドキュテックが先行したモノクロぺージ物市場に向けても,各ベンダーが新製品を投入している。
ハイデルベルグの,「Digimaster9110」はA4で6600ページ/時の生産能力を持ち,各種インライン後加工機能も付加できる。Indigo社は,解像度800×2400dpi,印刷スピードがA4サイズで8160枚/時,パーソナライゼーション機能具備の「Ebony」を発表。DSの「NP-V200」は,600dpiで,A4両面を24000枚/時で印刷する。

1件当たり数十万,数百万枚のバリアブルデータ印刷をする請求明細などの分野でその地位を確立した高速デジタルプリンタでは,サイテックス・デジタル・プリンティング(SDP),IBM,オセ製品は着実に足場を固めている。drupa2000で発表されたXeikonのVaryPressはA4サイズ,解像度480dpiで84000枚/時,SDPのVersaMarkは,300dpiでA4サイズを12000ページ/時で印刷する。

Indigo社は,ラベル・軟包装印刷用システムとしてWebstream,カード専用機「CardPress」,CD専用機「K15 Digital」(Kammann社発売),プラスチック・段ボール用「MultiStream」など,特殊印刷分野向けの多様なデジタル印刷システムを出している。

さらに,低価格のさまざまなデジタル印刷システムが日立工機,設楽印刷機,Too,コニカ,キヤノン,リコー,理想科学工業から出されている。これらの低価格機種は,整備すべきビジネス環境条件の制約が少なくてすむ点が以外と大きなメリットになるだろう。

マンローランドが刷版交換不要のDI機のプロトタイプ機として発表したダイコウエッブは,クレオサイテックスのスクェアスポット・リボン転写技術を使って,画像データを版面に転移する。画像転写後は,耐刷力を高めるために加熱され,非画線部の親水性を向上させるためのコンディショニングを行う。前の仕事から,わずか10分で次の印刷が開始できる。
印刷が終了すると,版に残ったインキと熱転写物質が羊毛ブラシと洗浄液により除去され,再び新しい画像をイメージングする準備が整う。

東洋インキとエルコーシー社の「Elco400」は,顔料とポリマーからなる特殊水性インキに電気パルスを与えて画像を形成するエレクトロキュア技術を使ったもので,ユニット増設でカラー印刷も可能である。解像度は200dpi/400dpiで,印刷スピードは約96000枚/時である。

デジタル印刷システムは,さまざまなエレクトロニックマーキング技術からなる製品群が出そろい,ほとんどの印刷領域をカバーしつつある。
技術的にかなり広がりを見せているデジタル印刷システムだが,ビジネス展開の上では,1枚当たりコストをどこまで下げられるかが課題である。

ゼロックスは,ドキュカラーによる4色カラー印刷料金として10セント/枚を設定し,新しい市場を開発すると発表した。日立工機は,モノクロレーザープリンタ「DDP70」(A3ワイド,毎分70枚)のカウンター料金をノーチャージとし,年間保守料金を含めて1枚あたり2円以下を表明,設楽機械とTooの「クレバープレスPro」,「クレバープレスMAX」(毎分75枚,平綴じ・中綴じ製本あるいはそれに加えた小口断裁機能)でも,それぞれのカウンター料金を1.8円〜1.5円と低く設定してきている。

複製すべき画像を物理的に固定しないデジタル印刷システムは,電子丁合やページバリアブル印刷といった有版印刷システムでは持ち得ない機能を備えている。そして,その機能は,成熟化した紙媒体市場に新たな可能性をもたらすものである。しかし,それは,単に設備を入れれば実現するようなものではなく,フロント側でのデータ処理の体制,データを活かすためのマーケティングの企画,後加工を含めたフレキシブルな生産体制,そして対象とする市場と必要な生産体制に応じたビジネスモデルの最適化が不可欠である。これらの環境を整えて運営できる企業は非常に限られる。したがって,小ロット分野でデジタル印刷機の機能が活かせる使い方は,少なくとも当面はジャストインタイムでの印刷物作りだろう。したがって,1枚当たりのコストにおいて枚葉印刷機との境界線をどこまで大きくとれるかが,デジタル印刷機の市場の大きさを決める重要な要素になると思われる。

2000/08/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会