本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

顧客指向で商印〜紙器・ラベルまでこなす欧州の印刷会社〜

欧州4カ国の小さな印刷会社を2001年4月3〜5日の3日間で4社訪問する機会を得た。従業員数は15人から75人,いずれも菊半裁の枚葉オフ機が主力設備であるが,プロセス4色+特色1〜2色やインラインニスコートを付加したり,箔押し・エンボスなどの仕上加工設備が充実している。drupa2000で発表されたハイデルCD74(菊半裁)という,小ロットの紙器やラベル市場向けで厚紙仕様ながら薄紙にもできる新型オフ機ユーザも2社見学できた。この規模の会社は日本と同じく,暖かみのある家族経営の良さも感じられた。

1. 世界で最初にスピードマスター菊半裁10色機を導入のノイ社(ドイツ)
ノイ社(W. D. Neu GmbH)はドイツのフランクフルト郊外にあり,従業員数15名,1981年創業の比較的新しい印刷会社。同社の経営戦略は「常に他社をリードし,競合他社より先を行く」ことであるという。ドイツ銀行を大口の顧客にもっており,印刷会社からの仲間仕事も入るので安定した経営を行っている。

直近の売上高は271万ユーロ(約3億円)で,印刷品目はカタログ,パンフ,アニュアルレポート(年次報告書),冊子などである。
他の顧客は広告代理店,さらに製版会社(Dimedia)とタイアップして,DI印刷機による本機校正を専属で請け負っている。勤務は週5日の2シフト体制で,入稿データはタイアップ先の製版会社から,面付け済みのデジタルデータとしてMOなどで入稿してくる。


(左)スピードマスターSM-DI 6色機(仕事の6割は本機校正)、(右)印刷順番待ちのMOデータ


同社にはスピードマスターSM74 DI-6-P (DI機,菊半裁,反転付き6色)がある。この印刷機はオンプレスCTPであるため,デルタタワー経由の出力データを印刷機に取り込んで,刷版→印刷が機上で連続的に行われる。DI機は1日2シフト体制で25台ほどの仕事があるが,60%は提携先の製版会社から依頼された本機校正刷りで,部数も100部以内が多いという。残りの40%は小ロットの仕事で,訪問時には銀行のパンフ(片面6色)を印刷していた。

同社が得意とするアニュアルレポートは,欧米では株主にいかにアピールするかに力点がおかれるため,紙も厚く,表紙はニス引き・箔押し・エンボス加工などの表面加工を施し,表やグラフもビジュアル的に作り込んである。カラー写真も多用され,日本でいうと会社案内のような仕上り要求なので,印刷会社にとっては付加価値の高い仕事である。

同社にDTP工程はなく,プリプレス設備は刷版データを生成させるためのRIP(デルタタワー)が工程の入り口で,CTP出力→印刷,またはDI機で印刷している。一応,面付けワークステーション(シグナステーション),デジタルプルーフもあるがあまり稼動していない様子であった。CTP(トレンドセッター3230)はKPGのエレクトラ版を使用していた。

印刷機は1997年に設置した8色機の入れ替えとして,2001年にハイデルのスピードマスターSM74-10-P(菊半裁,反転付き10色機)を導入した。10色機は同型機では世界初の導入となり、訪問時はこの機械で4/4+両面ニスでパンフを印刷していた。
10色機の特徴を生かして5/5,6/4などをワンパスで刷れることが大きな競争力で,60%は両面印刷(4/4,5/5など),40%は6色以上の片面刷りという。


スピードマスターSM74-10色機(インキライン付き)


インキ供給には「インキライン」という,ツボ上で自動的に2kgのインキボトルが左右に移動しながら,ツボ内のインキ量を自動監視して不足分を供給するオプションが付けられていた。インキツボ内のインキ量を一定にしておくことも,ロット内の印刷濃度を安定させる重要な技術であるが,インキラインはこれを自動化してくれる。製本工程は断裁機,折り機,打ち抜き,エンボスなど,充実している。

2. ウイスキー瓶のラベルを酒造元から直請けのハリタ社(ベルギー)
ハリタ社(Drukkerij Haletra N.V.)はアントワープの東北東75kmに位置し,50年以上前に現社長の先代が創業した印刷会社で,会社名も村の古い名前に由来している。現在の経営陣は創業者の子息令嬢の3人で,近年は年平均25%ずつ売上高を伸ばしている。従業員数46人(デザイン・編集7人,プリプレス4人,工程管理2人,印刷15人,後加工14人,工場管理・役員4人),今年の売上高は800万ユーロ(8億8千万円)が目標である。

ラベル印刷という専門分野があり,ウイスキー瓶のラベルを酒造元から請け負い,また,ジュースなど飲料メーカーのポスター,さらには電機大手のフィリップスや出版社からの仕事もこなしている。


ウイスキー瓶ラベルを受注


売上比率は商印39%,ラベル22%,組み立て函18%,書籍15%,封筒12%,その他と,多種類の仕事を受注している。また,厚紙から薄紙までに対応しているハイデルのCD74の5色機を導入しており,同機に限ると商印50%,ラベル25%,書籍18%,その他7%と,CD機は厚紙だけでなく,幅広い紙厚に対応できることを実証して見せていた。

1年半前に導入したスピードマスターCD74-5(菊半裁 5色機,厚紙仕様)は,現時点までに通算1800万通しを達成しており,1400台以上の仕事をこなしてきた。
この機種は2倍径のエアトランスファという,印刷面が渡し胴に接触しない紙渡し装置による,紙カールの少ない紙通し機構が特徴である。SM74より7cm天地が長い厚紙仕様であるが,60〜600g/m2の幅広い紙厚に対応し,腰の弱い用紙も信頼性の高い用紙搬送が行える。少ない給紙トラブルでスケジュールどおりに進捗できる点を評価したという。

生産設備は,プリプレス工程はスキャナ(トパーズ),面付け(シグナステーション),デジタルプルーフ(IRISインクジェットプリンタ),CTP(トレンドセッター3230)であるが,CTP導入に伴ないデジタルデータ入稿が増加してきたため,入稿データのチェック要員を新たに増員したという。

(左)スピードマスターCD74 5色機、(右)同イメージコントロール(CPC24)


オフセット印刷機はスピードマスターCD74-5,同SM74-8-P(同8色機,反転付き,薄紙仕様),同SM74-4-L(同4色機,コーター付き,薄紙仕様)など,計6台(22胴)の菊半裁機,菊4裁機を設備している。印刷機の色管理は,カラーバーが不要で印刷物から色情報を読み取るイメージコントロールが活用され,4台のハイデル印刷機に接続されていた。
また,1台のSM52-2(菊4裁,2色機)は封筒用Maxiフィーダーを接続して専用機化していたが,封筒の35%は2色刷りであるという。


表面加工用のプラテン機(凸版印刷機)

仕上加工には4台のプラテン機と2台のシリンダプレス(どちらも凸版印刷機)があり,箔押し,浮き出し,打ち抜きなどのラベル加工に活躍している。その他,ポーラ断裁機,スタール折り機,MBO折り機,ミューラー・マルティニ中綴じ機などの製本設備がある。

3. フルフィルメントに強味のブードルス社(オランダ)
ブードルス社(Budelse Drukkerij)はベルギー国境に近く,ハリタ社から北東に25kmほど上ったところにある。1950年創業の印刷会社で,直近の売上高は953万ユーロ(約10億5000万円)で,4年前に比較して売上高は2倍以上に拡大している。売上比率は商印70〜80%,紙器パッケージ20〜30%である。

「顧客指向」と「チームワーク」が経営者の方針であり,3年ごとにCS(顧客満足度)調査を行っているという徹底ぶりで,主要顧客であるゼロックスの要求により,ISO9002も取得している。
勤務体制は変則週5日の2シフト制で,木曜日を1シフトにする代わりに土曜日にも1シフト入っている。従業員は75人(フルタイム66人,プリプレス7人,印刷・後加工24人,営業4人,残りは管理者)である。


広い工場,左はスピードマスターCD74 4色+コーター


生産設備は,プリプレス工程にはMacintosh,CTP(サイテックス・ロテム400VA)とプレートはアグフア,イメージセッタ(同Dolev4Press)などで,デジタルプルーフにIRIS2Printインクジェットプリンタを活用している。印刷機はスピードマスターCD74-4+LX(菊半裁,厚紙仕様,4色,延長デリバリ,CP2000付き),同SM74-4+L,同SM74-1,同SM74-2+P,同SM52-2。また,POD用途にゼロックス・ドキュテックが1台ある。

仕上げ加工設備は,MBO折り機,スタール中綴じ機,ミューラー・マルティニのパーフェクトバインダ(製本機),ボブストSP76E打ち抜き機など2台,またハイデルの凸版印刷機(シリンダープレス)も抜き作業に使用しており,たくさんの抜き型の保存版が棚に整理されていた。

CD74を選択した理由は,それ以前に既にハイデルの印刷機をもっていたこともあるが,薄紙から厚紙まで1台で印刷できることにあった。印刷機械のオペレータは1週間交替で違う印刷機を担当するローテーションを実施して,何機種かを扱うことができるような社員教育も行っている。ユニオン(職種別労働組合)の強い欧州であっても,中小企業はこの会社のような家族経営の良さを残しており,日本と共通のものを感じる。経営者がチームワークの良さを強調していたとおり,欧米企業にしては珍しく,赤いユニフォームを着て仕事をしていた。

会社の戦略は,「付加価値のあるサプライヤー」であること,「柔軟性」と「信頼性」があること。わずか5年前にはMacintoshが1台であったが,1998年にはCTPを導入するまにでになり,その間に後加工工程の内製化も実行してきた。特に3年前からは社員教育にも力を注ぎ,モチベーション向上を意識的に行っているという。また,社内のIT化にも積極的に取り組んでいて,印刷受注業務や工程管理におけるスケジューリングが自動化できるような管理システムを稼動させていた。これによって,以前6週間かかっていた仕事が1週間でこなせるようになったという。仕事の本数は週に150本程度であり,平均納期は2日〜2週間である。


印刷物はさまざまな仕上げ加工がされている


ビジネスの80%は企業相手で,フルフィルメントに強味をもっており,例えばゼロックスや医薬品のファルマからはペースメーカーなどを印刷から製品のパッキング作業まで,請け負っている。また,最終製品も預かる。他に広告代理店からの旅行パンフ,ヘルスケア会社の案内パンフなど,異なる業種の仕事をいくつもこなしている。訪問した4社の中では最も積極的にインターネットを利用しており,今夏にはITシステムプロバイダと一緒にECサイトを立ち上げる計画がある。

フルフィルメント(プリンタケーブルキットをパッキング中)


同社の競争力を支えるフルフィルメント工程は,仕上げ加工11人,パッキング5人,最終チェック2人,出荷1人の体制で,見学したときにはゼロックスのパーソナルプリンタに同梱するプリンタケーブルと取扱説明書とCD-ROMのセットを,パッキングしていた。

4. ビジネス戦略は「市場ニーズに常に対応」のカラーストリーム社(イギリス)
カラーストリーム平版社(ColorStream Litho Ltd.)はイギリスのバーミンガム北東40kmのダービーにある印刷会社で,直近の売上高は355万ユーロ(3億9000万円)である。創業は1993年,従業員27人(プリプレス2人,印刷7人,仕上げ加工9人,営業・管理9人),顧客は広告代理店を含めて地域の企業で,週5日,2交替である。販促カタログ,便箋・封筒などをデザイン・プリプレス・印刷・後加工まで全工程を手掛けている。

生産設備は,プリプレス工程はセザンナA3判平面スキャナ,エプソン9000インクジェットプリンタ,DSフラットライトA3判CTPなどである。このサイズのCTPではイギリスの初期ユーザで,プレートは三菱製紙α880であった。プリプレスデータはISDNなどでも入稿してくるという。

印刷設備は,昨年12月にスピードマスターSM 74-10-P(菊半裁,10色反転機)を,同6色機から置き換え導入した。もう1台,SM 74-5-P(同5色反転機)があり,ともにCIP3によるインキプリセットとCP2000センターによる機械コントロールを採用している。10色機を導入した理由は,4/4+両面ニス引きや5/5など,通常の4色に付加価値を加えた印刷ができることである。両面刷りを行っても品質面では,表裏の差異はほとんどないという。

仕上加工はスタール折り機,クーパー断裁機,HFS中綴じ機などをもっている。主要顧客3社からは直請けしており,その他は代理店からの仕事である。同社のビジネス戦略は「市場ニーズに常に対応」「高レベルな印刷の提供」「顧客の要望にフレキシブルに幅広く対応」「短納期」「プリプレスから印刷・仕上げ加工まで」行うことであるという。これを実現するために,反転付き8色+ニスコータ仕様の印刷機を導入し,CTPやデジタルプルーフとともに,顧客との連携を強める戦略をとっている。


(左)手前がスピードマスターSM74 10色機/奥は同5色機、(右)同インキライン


ニッチマーケットにおけるフルサービス達成が目標で,この一環としてハイデルのNexPressが市場に出てくれば,これでパーソナリゼーションのオンデマンド印刷のテストを行うことも考えているという。
* * *

どこの工場も日本の印刷会社に比べると非常に広いスペースを確保している。しかし,規模は小さいながらも,顧客指向が強く,特色追加や仕上加工を含めて付加価値の高い仕事に積極的に取り組んでいるところが印象に残った。

2001/05/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会